1:《新星の僧侶/Nova Cleric》

1999年5月。

平成元年生まれ、小学4年生9歳の僕は(今でいうところの)プレインズウォーカーになった。

きっかけは友達(以下、S)の兄がやっていて楽しそうだったから。
イラストがかっこいいし、カードゲームといえばいわゆるアニメっぽい絵なんだろうな、と思ってたら出てくるのはすんごい濃いおっさんの絵が多数。シュールさを感じずにはいられない。

当時の僕たちは休日にSの家に集まり、ベイブレードなどの当時ブームだったホビー各種で遊んでいた。Sの家は庭から家まで全てが広く、集まって遊ぶには最適な場所だったのだ。

Sの兄にルールも軽く教えてもらって、土地は1ターン1回しか置けない等のルールや呪文のプレイの仕方などは最低限知っている状態で購入に踏み切った。
当時ちょうど発売された第6版入門セットと6版ブースターを全財産にて何個か購入して準備。小学生の財布にはあまりにも破天荒な価格だったのを覚えている。

この後このゲームが数々の出会いをもたらし、
この後このゲームで飯を食うことになり、
この後このゲームは人生上最も素晴らしい趣味になるとは夢にも思わず、

僕のマジック:ザ・ギャザリングは始まった。


■どうやって作ればええねん

これが第6版の入門セットのカードリストだ。
http://mtgwiki.com/wiki/%E7%AC%AC%EF%BC%96%E7%89%88%E5%85%A5%E9%96%80%E3%82%BB%E3%83%83%E3%83%88

内容については基本セットゆえこんなもんだろう。現代のエントリーセットやチャレンジャーデッキと比べると雲泥の差である。
ブースターのレアは《吸血の教示者/Vampiric Tutor》、後はあまり覚えていない。《琥珀の牢/Amber Prison》とかだった気がする。

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※当時はポータルなどの入門セットに「初級者向け」、第6版に「中級者向け」、その他通常エキスパンションに「上級者向け」のマークが付いていた。僕は「上級者向けは上級者じゃないとわからないことが書いてあるに違いない。中級者向けを買おう」と思い通常エキスパンションを買わなかった正直者である。
※本当は「初級者向け」のマークがあるポータル三国志が欲しかったが、売っていなかったので仕方なく第6版を買っている。三国志が人気だったわけではないのだがさすがにド田舎流通事情。三国志のカードかっこいいよね
※第6版スターターのルールブックは中級者向けの名を冠するだけあって簡素オブ簡素。6版時点での変更点などルールのサポート程度のことしか書いていないが、ゲームを少し知っていれば理解できる内容。
※さらに補足すると逆に第5版スターター(実質トーナメントパックだ)に付いているルールブックは初心者向け…の筈なのに、難解すぎて小学生にはおそらく理解できない。カードがランダム封入なのでルールブックに記載されているカードが封入されていない事は普通にある上にカードテキストの詳細な記載がなく、冊子がカードサイズなので文字がめちゃくちゃ小さい。鬼である

そんなわけで友達(以下、S)も入門セット+第6版ブースターという僕と同じ内容を購入したようで、多少の差異はあれどほとんど同じカードプールを手にすることになった。
世にも珍しい第6版限定構築(+もらったカード+パックで引いたカード)の始まりである。

ちなみに同じ時期に始めた別の友人(以下、K)は第5版+5版ブースターを購入していた。恐ろしい男だ。
※小学生プールだと5版も6版もそんなに変わらない気はするが

そしてコロコロコミックという当時最新鋭のシステムを備えていた僕たちにとって、このゲームの環境を把握することなど造作もないことであった。
※当時デュエルマスターズ(この頃はDMでなくMTGをやってた)の1話~2話くらいが掲載されていた

「《Library of Alexandria》は禁止カードらしいぞ!」
「《天秤/Balance》と《Zuran Orb》のコンボがあるらしい(効果はよく知らない)」
「《生ける屍/Living Death》があると逆転できる。《適者生存/Survival of the Fittest》《ギトゥの投石戦士/Ghitu Slinger》も引くと逆転すると言ってたので多分強い」

―――――完璧だった。ちなみに全て第6版や第5版のカードではない。

…つまるところ、自分と友達が持っているカードと最新鋭システムに掲載されているカード以外については何も知らない状態だったのだ。基本セット内であっても世に存在するカードはまさに未知の存在。
未開の地を探索するような、小学生の懐事情にとっては超大すぎる旅である。


■実際にやってみた

Sたちとの熱い対戦を繰り返すうち、以下のようなことがわかってきた。

【環境を定義するのは《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》であること】
・《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》が相手より早く殴り出すと良い
・《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》が相手より少ない場合は、対処できるカードが一定数必要

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…インターネットで語られる冗談みたいな話だが、これをクソ真面目にやっていたのだからやはり《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》は神のカードということなのだろう。
実際、お互いに持っているカードが弱すぎるため勝手にゲームが伸びていく。土地が十二分に並ぶ関係上重いカードに活躍の機会があり、後半はまさに怪獣大決戦と化すのだ。

・《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》が相手より早く殴り出すと良い
これは簡単だ。
《ラノワールのエルフ/Llanowar Elves》や《不屈の自然/Rampant Growth》や《マナ・プリズム/Mana Prism》は入門セットに入っていたし、実際に8マナ目が手札に来た時のテンションは凄まじかった。
ただし《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》の所持枚数に差があり、僕は1枚だったのだがSは3枚以上所持していた。

・《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》が相手より少ない場合は、対処できるカードが一定数必要
一歩踏み込んだ話になるが、入門セットに収録されているカードの中で《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》を対処できるのは以下のカード達だった。
《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》:当然
《豹の戦士/Panther Warriors》:相討ち
《蠢く骸骨/Drudge Skeletons》:再生で壁にする
《恐怖/Terror》:破壊
《猛火/Blaze》:破壊
実際のところブースターから出るカードにはこの他にも対処法というか止まるカードはいくらでもあるのだが、ある意味限定されたプールの中では致し方ないだろう。
※《ブーメラン/Boomerang》はどうせまた出されるので弱く、《悪戯なポルターガイスト/Mischievous Poltergeist》は1/1だしライフが減るし顔がヤバいので弱いみたいな評価。ひどい。
※コンバットで対処するなら《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》を合計パワー6の複数体でブロックすればいいんじゃね?という話だが、当時の僕達はルールを勘違いしていて攻撃1体のブロックには1体しか割り当てられないと思っていた
※このため《風鳴りの精/Sibilant Spirit》や《黒曜石のゴーレム/Obsianus Golem》のギリギリ《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》に負けるくらいのスペックのクリーチャー達の評価が異様に低く、実際にまったく活躍しなかった

総合的に見て、黒緑が《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》を使いつつ(《死者再生/Raise Dead》もある)対処カードも積みやすいため強い組み合わせである、という認識であった。


■もしかしてこれは

《恐怖/Terror》というカードは強い。

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マジックというゲームにおいて、軽いマナコストのカードで相手の重いカードを対処することはとてもお得な行動である。
《恐怖/Terror》というカードはまさにそれを体現したカードであり、マジックの勘定を僕に認識させてくれたカードでもある。感謝。

そんなわけでSに対し《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》の枚数で劣る僕は《恐怖/Terror》の増量により対抗することにしたのだった。幸いにもブースターで何枚か当たっていたし、これについては枚数もSより多かったのだ。
またKは第5版の使い手なので《大喰らいのワーム/Craw Wurm》や《ジョータル・ワーム/Johtull Wurm》も持っていて《甲鱗のワーム/Scaled Wurm》も持っていたワームマスターだったが《恐怖/Terror》があまりに効きすぎた。

他にもゲームを決めうるカードは必ず重いカードになる。その全てを《恐怖/Terror》が対処している光景は前述のマナアドバンテージのロジックを理解させるに十分なものだったであろう。
当然僕やSも「ワーム引いたけど《恐怖/Terror》されるかもな~」みたいな牧歌的な反応をしていたものだ。
《恐怖/Terror》こそまさに僕たちの恐怖の対象だったのである。イラストもまあまあ怖いし。

そして気付いた。余計な一文に。

「もしかして、黒いクリーチャー(と茶生物)って《恐怖/Terror》効かないから強いのかな?」

僕は第6版の《沼/Swamp》(中央に木が刺さっているやつ。スターターに入っているイラスト版)を30枚くらい持っていて、今でもスタンダードでない黒単を使う時は思い出としてその《沼/Swamp》を使っている。

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僕と《沼/Swamp》との腐れ縁はここから始まったのだ。


つづく

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