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「お客さんはみんな、ファミリーだから」東京帰りの理容師が地元で繋ぐまちの社交場


まちの移り変わりとともにたくさんの方から愛され続けている床屋「カットサロンファミリー」さん。
「床屋って髪を切るだけでしょ?」なんて考えを一蹴するかのような素敵なお話を、店主の阿部巧さんにお聞きしました。
ドラマの話なのかと疑ってしまうような、とても素敵な “巡り合わせ” にも注目しつつ、ぜひお楽しみください!

ー「テキトーに働けばいいか」と思っていたあの頃


ーー巧さん、よろしくお願いします!

よろしくお願いします!

ーー『カットサロンファミリー』には以前お伺いし、一度カットをしていただいたことがあります。なんというか、アットホームな雰囲気でまさに『ファミリー』って感じがするんですよね。

親父がつけた名前なんだけど、ホントいい名前ですよね。店名の通り、お客さんのことは “ファミリー” だと思っています。ただ、親父に話を聞いてみれば、実際はに親父が所属していた草野球チームの名前から取ったらしいんだけど(笑)。

家族でやってるからファミリーなんだと思ってた……

ーーあ、そんな由来だったんですね(笑)。巧さんはいつ頃から理容業界に?

高校を卒業して、専門学校に入った頃からずっとですね。

ーー
では、学生時代から理容師になろうと思っていた、と。

いや、それが全然で。

ーー
どういった理由だったんでしょう。

高校まで野球をやっていたんだけど、3年生で引退してはじめて「学生ってなんて楽しいんだ……!」と思っちゃって。もっと遊びたくなったんです(笑)。

ーー全てから解き放たれた、というか。

そうそう。どうしても就職せずに学生になりたくて……。僕の姉が理容専門学校に行っていたのもあって、実家も床屋だしOKもらえそうだな、と思ったんですよね。だから「俺もそこに行くよ」って。

ーー理容師になるつもりはまったく無かったんですね。

無かった無かった。いちばん簡単に学生になれる方法だったから、専門学校を選んだって感じかなぁ。一応国家資格は取ったんだけど、就職先もギリギリまで決めていなくて。地元に戻って、理容師じゃなくてもテキトーに働けばいいかなぁ、なんて思ってたくらい。

これぞ床屋!な大量の漫画


ーーでも実際には、床屋さんに。どういった経緯で……?

一番は、巡り合わせかな。
僕の姉がお世話になっていた先生がいるんだけど、その人の実家も床屋さんでね。そこでお世話になることになったのよ。姉は先生のお店で働いていたし、直接相談してくれて。

ーーお姉さんも心配だったんですかね……。

当時の俺は「雇ってくれるならどこでも〜」って軽い気持ちでいたんだよね(笑)。「とりあえず店に来てみようか」と言ってもらい、実際にお店へ行くことになったんだけど、家からは遠いし、正直長く働くつもりもなかった。

ーーぜんぜんやる気ない……(笑)。

そのお店は、店長を含めて5人が働いていたの。でも俺が働き始めるころには3人も抜けてしまっていて。「あれ? 大丈夫か……?」って思ったんだよね。

ーーなんだか、雲行きが怪しくなってきましたね。

しかもやたら厳しくてさ(笑)。 早くシャンプー覚えろだの、顔剃り覚えろだの言われて……。人手が足りないしこんなもんかと思ってたんだけど、その時唯一残ってた先輩も辞めると聞いて……。ここで働くのは、ちょっと違うかもなぁと思ったんだよね。

この道ウン10年のお父さんとお母さん、子供のカットにつきっきり(笑)

ー「技術やサービスで人の心を動かせる」と気付いた瞬間

ーーきっとそのお店は、阿部さんを早く育てて、即戦力になってもらうつもりだったんでしょうね。

そうだね。ただ、唯一の先輩が辞めたあと、精神的に参っちゃって。体重も20キロくらい落ちちゃって、本当にもう、限界だった。

ーー20キロ……!? よくその状態で続けられましたね……。 

いやもう、本当に無理だったんだけど、また巡り合わせがあるのよ。

ーーほうほう。

ある日、お客さんが来てね。そのお客さんは、俺が大っ嫌いなお客さんでさ。何を言っても無反応だし、施術中はずっと無表情だし、俺に対して嫌悪感を抱いてるんじゃないかってくらい(笑)。

ーー精神的に参ってるときにそれはキツいかも……。

そのお客さんに対して、いつも通り接客して、シャンプーして、ってやってたの。正直やる気は無かったけど、せっかくやるなら技術ぐらいはちゃんとしていたいって思いがあったから。真面目にね。

ーー技術が無いと、店にいられないですもんね。

そしたら、シャンプーが終わった後に「色んな床屋に行ってきたけど、今までで一番良かった」って言われてさ。その瞬間、ビビビビビッ!て、脳に電流が走っちゃって(笑)。

あ、自分の技術が認めてもらえるのってこんなに気持ちいいんだ、って思えたんだよ。

巧さんが得意とするスタイル『フェード』の様子

ーー不愛想なお客さんが、そんなことを。

しかも、それをきっかけに、どんどん話してくれるようになってさ。店長も「あの人が褒めてる……!? 何ごとだ……!?」って、びっくりするくらい(笑)。

技術やサービスで人の心を動かせるんだ、って気が付いた瞬間だった。

ーー話したこともない人の心すら動かせる。そんな体験をしたら、きっとのめりこんじゃいますね。

幼いころなんて、カットやサービスの難しさなんて知らなかったし、実際「しゃべってコーヒー飲んでワハハってやってれば稼げる……。なんて楽な仕事なんだ!」って思ってたのにね(笑)。すごいことだよ、ホント。

ーSNSは便利だからこそ、常にチェックしなければ浦島太郎になってしまう


ーーいやー、ドラマみたいな話でした…
下妻に戻って来たキッカケを聞いてもいいですか?

ファミリーに20年勤めていた、俺のいとこが独立するって話になったのがきっかけかな。親父から「戻ってきてくれ」と言われたんだよね。

ーーその時は、スッと戻って来られたんですか? 東京からだと、地元に帰るのを迷う方も多いのかなと。

うん。迷ったよ。下妻市は好き、地元も友達も好きだけど、実際、東京は便利だったから。それに、床屋をやるにしても、東京の方が情報発信の面でも有利だったからね。

でも、こうして戻ってきて、東京じゃなくてもやれるってことに気がついたんだ。SNSのおかげで「東京じゃなくても全然情報入ってくるじゃん!」と思えたのもデカいかな。

「フェードを求めてうちに来てくれる人も多いです」

ーーSNSの力って、凄まじいですよね。

特に、理容美容業界の人は絶対に手放せないと思う。
昔はヘアカタログを見て、お客さんと相談しながら髪型を決めたりしていたけど、今は『お客さんが希望する髪型』をやれなきゃいけない。そうでなきゃ、お客さんは来ないし、お客さんが『できる店』を選ぶ時代になっちゃったと思ってる。だからこそ、いち早く情報を手に入れるのが大切なんだよね。

ーー情報化社会で、理容業界も様変わりした、と。

昔とは全然変わったね。たとえば、とあるお店が新しいスタイルを投稿して、SNSでバズったとする。その結果、『そのスタイルにしたい!』っていうお客さんが他の店に行くとするでしょ。ただ、そんな時、お客さんが実際に行く『他の店』がそのスタイルを認識するのって、バズってからなんだよ。

ーーうんうん。いわば、お客さんとお店のスタートラインが同じ、というか。バズったスタイルをお店側もチェックしていないと、仕事にならないですよね。きっと。

そうそう。1週間SNSを見なかったら、たぶん浦島太郎になっちゃうと思う(笑)。
とはいえその『バズったスタイル』っていうのも、実は既存の技術の組み合わせだったりするんだ。古い技術だからって、バッサリ切り捨てることはできないね。

「初めてのお客さんだと必ず緊張するし、燃えますね(笑)」

ー「店と客」ではなく「人と人」として。社交場としての床屋


ーー下妻はどことなく不便で情報も入ってこないんじゃないかと思っていたけど、そんなことはなかった、と。でも、東京とは違うところもありそうですが……。

田舎は東京よりもコミュニティが小さいから、失敗したら一瞬で広まってお客さんが減っちゃうこともあるし、減ったお客さんはなかなか戻ってこないね。
だからこそ技術と同じくらい、人との付き合いを大事にしよう、とは思ってるかな。

ーー良くも悪くも、口コミの力が強いですよね。

うん、本当にそう思う。母がいわゆる『おせっかいおばさん』みたいな感じでさ(笑)。 仕事はクールにこなすけど、人情にアツいというか。そういう部分はなんとなく受け継いでるのかな、って思います。

なんていうか、店とお客さんの関係だけじゃなくて、その先も見るようにしてるんだよね。

ーーその先、ですか?

「一見シンプルに見える髪型だけど、こだわりと技術が詰まってます。」

このファミリーってお店は、床屋さんというよりも、社交場だと思ってて。
カットしに来てくれるお客さんはもちろんだし、一度でも来てくれたお客さんなら、もう『ファミリー』だと思ってます。
だから、うちに来なくなったお客さんと街で会っても気まずくなる必要はないし、むしろ飲みに誘ってもらったら嬉しいし。

ーー『店と客』の関係ではなく、あくまで『人と人』。

床屋って、社交場だと思う。髪を切るだけじゃなくて、コミュニケーションを取りに来てる人もいるからさ。人と人、なんだよね。

ーー情報交換したり、何気ない日常会話をしたり。まさに『社交場』ですね。

あとは、床屋ってお客さんとの距離感が一番近い職業なんじゃないかな、と思っていて。

1時間も付きっきりで1人のお客さんと話すわけだからね。

ーーたしかに……! そういう職業って、他がパッと浮かばないですね。

多くの人が癒されるための特等席

だからこそ、床屋に来てリラックスして癒やされる人がいたり、悩み事を話したくなる人がいたり。実家みたいに感じてもらえる人は、きっと少なくないんじゃないかな。

ーー実家のような安心感。ファミリーにぴったりの雰囲気。

だから、ファミリーって店が変わらずにあることを目標にしたいんだ。
親父が40年、俺が40年、もし継いでくれるなら息子が40年って、この店が続いてくれたら嬉しいし。もしも店を閉めることになったときにも、「ファミリー無くなっちゃったんだ……」って思ってくれる人がいたら幸せかな。

ーー第二の実家みたいな気持ちのお客さんも多いんじゃないかと思います。
これからも愛され続けるファミリーの姿が想像できました!

巧さん、ありがとうございました!

〇カットサロンファミリー
〒304-0055
茨城県下妻市砂沼新田49-1
0296-43-2741

〇阿部巧さん
https://www.instagram.com/tqa0128/


取材・撮影・執筆:宮澤優輝
編集:三浦希(https://twitter.com/miuranozomu)
取材月:2022.11


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