東京遊泳

私という人間は全く東京に適さぬ。
東京は全く日本の心臓で、日本の指先にいる私には太すぎる血管である。

東京駅の混雑を避け、品川に降り、水色か黄緑か、来た方の電車に乗り、御徒町に至る。御徒町でコーヒー牛乳を飲み、アメ横を通って上野に着く。
上野では牛力丼白を食べる。汁物の手まり麩が可愛らしい。
気分と財布が豪気であれば椿屋珈琲店へ行き、椿屋特製アイス珈琲を飲む。
気分と財布が軽ければ王城へ行き、生ジュースのバナナを頼む。
そこからは博物館に行ってもよいし、再びアメ横に戻るのもいい。
だのに、私は今日もまた外神田秋葉原を目指してしまう。

私という人間は全く東京に適さぬ。
そう思ったのは中学の折、修学旅行で初めて東京に出た時ではなく、
高校に上がり、父の単身赴任先で二週間ほど一人暮らしをした時だ。
秋葉原で遊び、池袋で遊び、上野で遊び。
痛感するのは、ほとほとこの街に溢れた人と物の多さによる疲労ばかりだ。

東京の人は冷たい。そう嘯くのは田舎者の嫉妬か僻みか。
東京という日本の心臓は下手糞の淹れた熱く煮えたぎる珈琲のようだ。
地方のシャッター通りの冷たさと比べれば目眩を起こしそうになる。

私の生まれた場所は田舎。
それも地方都市ともカントリーとも秘境とも付かぬ、
何とも中途半端な田舎だった。
そんな私からすれば
東京は人が近い。物が溢れてる。電車を待たない。
多い多い多い多い

まるで物量の嵐、速度の渦、乾燥の牢、未来の
たぶん、これに憧れる人もいるだろう。
しかし、窒息してしまう人もいる。私だ。
私という人間は全く東京に適さぬ。

だから、また。
東京駅の混雑を避け、品川に降り、水色か黄緑か、来た方の電車に乗り、
御徒町に至る。御徒町でコーヒー牛乳を飲み、アメ横を通って上野に着く。
上野では牛力丼白を食べる。汁物の手まり麩が可愛らしい。
気分と財布が豪気であれば椿屋珈琲店へ行き、椿屋特製アイス珈琲を飲む。
気分と財布が軽ければ王城へ行き、生ジュースのバナナを頼む。
そこからは博物館に行ってもよいし、再びアメ横に戻るのもいい。
だのに、私は今日もまた外神田秋葉原を目指してしまう。

所詮、私は東京という海を泳ぎに来ている遊泳客だ。
私という人間は全く東京に適さぬ。

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