見出し画像

伏魔殿

※このnoteでは虫をテーマにしていますが、実際のリアルな虫の写真は一切掲載していないのでご安心ください。ただ読み進めていくと、ある程度ゾワっとする瞬間があるかもです。


幼少期、虫に抵抗感がなかった人が多いのではないだろうか。かくいう私も、よく分からない虫を触っては母をドン引きさせていたらしい。

小学校中学年にもなると、夏休みにカブトムシを幼虫から育てた。虫嫌いな母はカブトムシを敬遠していたが、なによりもカブトムシに寄ってくるコバエにイラついていた。あるときはそのコバエに向かって殺虫スプレーを撒いたほどだ。案の定カブトムシも弱っていた。元も子もない。

しかし今振り返ってみると、母の気持ちがめちゃくちゃわかる。虫への抵抗感を感じるようになったのは小学校高学年ごろからだろうか。いつのまにか虫全般が受け付けられなくなっていた。

たとえば大学1年生の夏。アルバイト先のコンビニで、眩しい灯につれられてたくさんのセミが入店することが何度かあった。しかも、たいていのセミは生きてるのか死んでるのか分からないあのポーズをしているのだ。ちなみに確認だが、逆田蝉丸は来店してない(この動画めちゃくちゃ好きだったな)。セミ自らがあのポーズをしてるのだ。


(参考に逆田蝉丸のリンクを載せておきました。この動画はリアルな蝉が映るので虫嫌いの方はご注意ください。)


とにかくあのポーズをして死んだかと油断させておいて生きてたときの絶望といったらありゃしない。

当時はワンオペでバイトしていたので一人でなんとかしなきゃいけなかったのだが、ドン引きしているところ見かねたお客さんが助けてくれることもあった。

もしかしたら、そのときの「ありがとうごさいました」はコンビニバイト時代に何度も言った「ありがとうございました」のなかでダントツ気持ちがこもっていた可能性が高い。 


でも、なぜなのだろう。固形石鹸よりも小さい物体のはずなのにめちゃくちゃ怖い。

まあ、コンビニにいるセミならシフトを上がれば解決する。その場から立ち去って帰宅すれば、そこはもう安全地帯なのだ。

問題なのは、安全地帯であるはずの自宅で虫の存在を確認したときだ。虫の存在を確認した瞬間、安全地帯であったばすの自宅が、あっという間に地獄の伏魔殿と化す。

振り返ってみると自宅が伏魔殿になった事件がいくつかある。全事件と向き合う体力はないので2つだけ紹介しようと思う。


幼稚園時代「どんぐりお洗濯事件」

幼稚園児だったある秋の日、公園でどんぐりを見つけた。嬉しくなって、ボトムスのポケットにたくさん入れて自宅に持って帰ることにした。

だが、忘れっぽさに定評のある私だ。
帰宅してからそのボトムスをそのまま洗濯してしまった。

よく朝、洗濯物を干す母にこっぴどく叱られた。ごもっともだ。

母はわたしを叱りながら、『これが証拠品だ』とも言わんばかりに洗濯でしわくちゃになったボトムスのポケット生地をひっくりかえした。たくさんのどんぐりがポケットから床に落ちる。


勘のいい方は、もうお気づきだろう。


どんぐりにはゾウムシのたまごが仕込まれているものがあるのだ。


たくさんのどんぐりが落ちると同時に、うにゃうにゃとうごめく卵から孵りたての数匹の幼虫が姿を見せた。


叫ぶ母


「あ、あんた、じ、自分で拾いなさい!!!」

まともに口が回っていない母を横目に、『そんなに叫ぶほどでもないでしょう』と思いながら、直径1mほどの範囲に落ちたどんぐりとゾウムシの幼虫を拾った。例えると、まるで節分の日に豆まきでとびちった豆を回収するような軽いノリだったと思う。

もし今こんな事件が起きたら母と共鳴している。



高校時代「赤シート武器化事件」

あれはたしか高校2年生の頃のテスト期間中。その日は暗記科目のテストがあったので、朝4時ごろに起床し、赤シートを使って勉強していた。すこし暑かったので、机の横に位置する窓を開けて換気をすることにした。

部屋の風通しがよくなる。家を出るまでにできる限り暗記したいと勉強を進めるとふと机の端で何かが動いた。風で何かが揺らいだのだろうと軽い気持ちで視線を向ける。






G。


まぎれもなくGだ。開けた窓から侵入して、そのまま机にやってきたに違いない。


自宅でGとタイマンを張るのは人生で初めてだ。そのためGを見つけた瞬間、かなりの動揺で無意識に後退りしたのだが、座っていたのはキャスター付きの椅子だ。まるでカーリングのストーンのごとくきれいに2mほどGとバッファを作ることに奇跡的に成功した。

しかし、慌ただしい音にびっくりしたのだろうか。さっきまで静かに机にいたGはかなりの速さで机から床に移動し、陰のある机の奥へ少しずつ移動している。

Gの軌跡(私目線)



『ここで逃すわけにはいかない』

逃走中のハンターも顔負けのただならぬ情熱でそう思った。

これまでGを自宅で見かけることはなかったので、この一匹を見放したことがきっかけで大量発生したら困る(考えるだけで寒気)。

というか、この大事な勉強時間をGの存在に怯えたまま過ごすことはできないし、明日も続くテスト勉強をGのいる場所でできるはずがない。

めちゃくちゃ大袈裟だが、わたしの将来がこのG一匹にかかっているのだ。

Gにも将来があるのかもしれないので申し訳ないのだが(?)、わたしの将来がこのG一匹によって狂わされるなんて無理すぎる。履歴書に『G都合により退学』なんて書きたくない。

机の下のさらに奥に移動するG。これ以上奥に移動したら完全に撒かれてしまう。日頃から殺虫スプレーを手元に常備してればよかったのだが、そんなはずない。なにしろいま持っている武器となるものは赤シートだけだ。これで仕留めなければならない。



よし


震えた手でGに向かって赤シートを投げる。


奇跡的に仕留めることに成功した。ちなみにいうと、これが中高バスケ部に入ってよかったと思った唯一の瞬間である。

しかし相手はGだ。赤シートの重さなんかで圧死するような生物ではない。凄まじい生命力だ。なんてったって古代から生き残ってきた生きる化石なのだ。

覆い被さった赤シートから必死に脱出しようと足を大きくばたつかせるGが見える。音も聞こえる。ああ、気持ち悪い。でもこれでなにもせずに、Gに逃げられてしまったらこの赤シートを犠牲にした意味がないし、わたしの将来棒に振ることになる。


そう、わたしにできることはただ一つ。


意を決して、ガクガクと震える足で赤シートを踏みつける。赤シートごしに独特の感触が足に伝わってきた。


ああ、気持ち悪い。



無事に仕留めることはできたが、気分は最悪だった。

震えがおさまらないなか、大量のティッシュで潰れたGを包んで処分し、赤シートを洗面台で何度も洗った。

その後のテスト勉強は動機が収まらなかったが、無事にテストを乗り越えることができた。

ちなみに赤シートはというと、テストが終わった瞬間即ゴミ箱行きとなった。ごめんね。

もちろん履歴書に『G都合により退学』の文字もない。


ここまで散々虫嫌いの視点から話してきたが、最後に印象深いツイートを紹介しようと思う。

お子様連れのお父さんお母さんへ、動物園のおっさんからのお願い。

動物、特に爬虫類、両生類、虫(広義)を子どもの前で「気持ち悪い」と言わないで欲しいです。子どもは大人が思う何倍も大人の言葉に影響を受けます。その子の中での判断ではなく、大人が「気持ち悪い」と言うから気持ち悪く思ってしまう子どもは少なくありません。もちろん「気持ち悪い」という主観を否定するのではなく、まだ様々な判断が外部からの影響を大きく受ける発達の過程で、大人が思う「気持ち悪い」を子どもに植え付けて欲しくないのです。ヘビや虫を見て「気持ち悪い」「苦手だ」と思っても大人はそこをグッと我慢してもらえませんか?大人の主観ではなく、子どもたちが如何捉えるかは、そこに無限の可能性があるように感じてなりません。ご自身が「気持ち悪い」と思う前に、子どもに「どうだった?」と聞いてあげるだけでその子の興味・関心の可能性がぐっと広がるのではないかと思います。

と、爬虫類や虫の前で聴こえてくる「きもい」におバカなりに、利口ぶった口調で嘆くおっさんの言葉でした。

▼引用元
https://twitter.com/e0104n46/status/1419636644458553348?s=21

このツイートを見てから子どもの前で執拗に生物に対するそういった主観を話さないようと決めている。

自宅が伏魔殿と化したときは例外だが、、、
(※我が家に子どもはいません)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?