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オナニート、断章

オナニート。「オナニーばかりしているニート」。「オナニーだけしか楽しみを持たないニート」。「オナニー以外の快楽はすべて不純だと確信しているニート」。

オナニートの日常には何も起こらない。あまりにも何も起こらないのでいっけん平和にみえる。絶対的平和主義者オナニート。

地上のすべての「人間」がいますぐオナニートになれば歴史は終わる。「人間」の歴史は、この血塗られた歴史は、落ち着きのない猿たち(非オナニート)によってつくられてきた。「御社と貴社の使い分け」などに神経を使ったことのないオナニート、PRすべき卑小な自己などとうに捨ててしまったオナニート、職歴などという従属の過去を持たないオナニート、「人間の恋人」という厄介なものをはじめから求めていないオナニートは、つねに歴史のなかにありながら歴史を超越してる。オナニートは人間がいずれ到達すべき理想を体現している。オナニートは一種の超人である。

オナニートは徒党を組まない。聖者は群れない。

オナニートは自殺しない。事実上もう死んでいるから。

オナニートはむやみに出歩くことを嫌う。虫を踏み殺したくないから。

オナニートはむやみに喋ることを嫌う。虫を吸い込んで殺したくないから。

知的でない人間はひとりで何時間も過ごすことには耐えられない。その真逆にいるのがオナニートである。

オナニートの自嘲が韜晦であることは疑いようがない。

生殖という悪徳を知らないのでそれを憎むことさえできないオナニート。

生の空しさを中途半端にしか知りえない者は却って生に執着する。

生はつねに不快で不潔で暴力的だ。

生を肯定するのは強姦殺人を肯定するに等しい。

誰からも愛されず誰のことも愛さないオナニートに私はなりたい。

生とは何か。絶え間のない倦怠、気鬱、薄ぼんやりとした不安、苛立ち。

頭の天辺から足の爪先まで希死念慮が詰まっている。

宇宙という、この巨大なあくび。

ほとんどの俗人にとっては、何も起こらないよりも何か事件が起こった方がまだましだ。でないと倦怠で死んでしまう。

せいぜい「今日」に毛が生えたような「明日」しかやってこない。絶望死の正体は倦怠死である。何も新しいことは起こらない。覚悟せよ。

自分が何に苦しんでいるかを知らない惨めな者たち。日常を心底から憎んでいるにもかかわらずそんな素振りさえ見せようとしない者たち。

終わりなきこの倦怠地獄を誰もが呪いながら生きている。もはや娯楽産業ごときではどうにもならない。

オナニートなおもって往生を遂ぐ、いわんや俗人をや。

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