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高校生の頃の話

『透明になれなかった僕たちのために』という題名の小説を、高校時代に書いた。それは今とは内容が違う短い小説で、おそらく、現在は僕の出身高校の図書室でだけ読むことが出来る。

僕が小説を書き始めたのは中学生の頃。高校に進学すると、選択で小説などの創作をする授業があった。その頃の僕は小説家になるか死ぬか二つに一つだといった思い詰め方をしていて、毎回の課題では誰よりも面白くなければいけないと考えていた。学校の課題で優秀と選ばれないようではプロになんか到底なれないという、今思えば少し傲慢な思考の持ち主だった。
僕が書いた文章は先生の手で時折プリントアウトされて同じ選択授業の生徒に配られ、気づけばクラスメイトから感想を告げられることも増え、「佐野くんはいつか小説家になるかもしれないね」と言われるようになった。そんな簡単にいかないだろうと僕は思っていたし、事実その後大変な紆余曲折とそれなりの苦労の末に僕はプロになるのだが、それはまた別の話。

高校三年生の最後の課題で短編小説を書くことになり、僕はその小説を書いた。
高校の頃、ずっと透明になりたかった。寒い冬、非常階段で一人で文庫本を読みながら、いつもそう考えていた。透明になることに憧れていた。当時、透明という言葉には、今とは違う薄暗い響きがあったと思う。そのことを僕は今でも覚えている。
『透明になれなかった僕たちのために』という題名をつけて僕は課題を提出した。すごくいい題名だね、と色んな人から言われた記憶がある。同じ作品をインターネットにアップしても、そうコメントされた。全然話したこともない不良からすら言われたのだ。そして、絶対プロになれるよ、と言われることも増えた。
僕はこの題名を思いついたときに初めて少し自分に自信を持つことが出来たような気がする。手応えのある題名だった。

なので、初めて単行本で本を出すにあたって、自分の気持ちを奮い立たせるために、この題名を改めて使おうと思った。だから、この作品は、タイトルが先にあって、それから話を考えて本文を書き始めた。そんな成り立ちはもしかしたら少し珍しいかもしれない。
僕が今まで考えた中で一番自信があるタイトルだったから、このタイトルでいきたいと思った。勿論、この題名が一番しっくりくる内容の作品を書いた。

透明になれなかった僕たちのために書いた小説です。
本作を必要とする人に、どうかこの小説がたしかに届きますように。

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