親父は妹の結婚式に呼ばれなかった

妹の結婚式がある。
そこに親父は来るのを遠慮してくれと妹から言われたらしいのだ。
それに対し、親父はとても腹を立てているようだった。
というのも、うちの関係はちょっとこじれていて、まあこじれていると言っても、離婚していて母と父の折り合いが悪いというよくある話ではあるのだが。
それでも、両親は変なタイミングで離婚していて、俺が大学生、妹が中学生の頃に離婚した。
離婚の経緯も、まあ元々仲は良くなく、特に親父は何か気に食わないことがあれば癇癪を起こし、罵倒や暴力といった行為に母が耐えきれなくなり…というありがちなやつだ。
離婚したあとは、親父は実家を出ていき、東京で暮らし始め、妹と母は二人暮らしが始まった。
しかし、母は本当に離婚がしたくて仕方なく、財産分与がどうとか養育費がどうとかは離婚してくれるなら全て親父の意向を承諾するという条件だったみたいで、金は全部持っていかれたと言っていた。
実際、母は仕事を増やしてはいたし、俺は親父からの仕送りが全くなくなった。
そのため、母と妹の二人暮らしは平和ではあったが、楽ではなかったと思う。
でも、近くに母方の親戚も住んでいたし、妹も高校生になったりと特別寂しい思いはしなかったようだ。
そんな中、ある出来事が起こる。
親父が再婚していたのだ。
俺が大学三年の冬、父方の祖父が亡くなり、親父から久々に連絡があり葬式をするから参列しろと。
そして、葬式当日、指定された式場に行ってみると、親父と祖母、そして知らない若い女。
その時点で俺は「ああ、再婚するのね」と理解したし、50過ぎたおっさんが寂しく年老いていくくらいなら、縁があるなら再婚したっていいとは思っていた。
まあ俺ら兄妹の大学の学費は払えよ、最低限は役割こなせよとは思いつつ。
なので、特別嫌悪感というか、違和感みたいなものはなかった。
そして、俺がいつ籍を入れるつもりなのか尋ねると「もう入れてる」
再婚するではなく、していたのだ。
事後報告、しかも葬式で。
よくよく聞いてみれば籍を入れてから3か月くらい経ってるとのこと。
感心したね、むしろ。
二人子どもがいて、どっちも大きくなっているとはいえ、上の子は大学在学中、下の子は高校生で受験を控えているのに、再婚できちゃうなんて。
でも、俺はそのとき引いてはいたが、ここであーだこーだ言ったとて、籍が外れるわけでもないし、別に籍を外してほしいわけでもないし、ただ俺の中で親父の評価が勝手に下がるだけだし、変に逆上されて学費払わないとか言い出す方がめんどくせと思ったので「おめでとう」と言ってその場を流した。
冠婚葬祭の婚と葬が同時にやってきたのは初めてだった。
しかし、なんというか、すごい親父の人間性が透けて見えたのは、叔父さんは再婚どころか離婚したことを葬式の打ち合わせで突然伝えられたらしい。
叔父さん夫婦はとてもうちの母を慕っていた。
そのため、久々に自分の兄に会ったと思ったら、知らない若い女を連れているし、離婚はしているし、仲良くしろと言われるしで、戸惑い、なぜ報告してくれなかったのかと尋ねると「俺のことはお前らに関係ないだろ」と叔父さん夫婦にブチギレたらしい。
俺は「面倒くさい」という感情で、受け入れたというよりも受け流したに近い形で「おめでとう」を伝えられたが、まあ普通そうなるだろ。
なんでブチギレられるんだよ。
それは置いといて、自由奔放というか、傍若無人というか、そんな父親なのだが、結婚式に呼ばれるわけがないだろ。そんな人間。
しかも、厳密には妹は結婚式に誘った。
母は、一緒の席は嫌だ。なんなら顔を合わせるのも嫌だとのこと。
まあそれはそうだし、妹からしたら親父と母親の行動を顧みて、どっちの気持ちを優先するかといったら、まあ母親だよね。
だから、妹は席はちょっと母と一緒にはできないけど、それでもいいならと誘ったところ、そんなみっともない席次にするくらいなら出ない。お前の両親であることには変わりないんだから同じ席にすればいいだろ、と駄々をこねたから、それなら結婚式には呼べないと断ったらしい。
それを、結婚式には来るなと言われたと捉えたようだ。
本当に呆れる。
なんというか、他人が見えてる世界がまったく想像できていないというか、理解できてないというか。
たしかに、それは難しいことではある。
他人が何を考えているのか、何を想像しているのか、何を思っているのかをズバリ当てるのは。
でも、あまりにもズレている。あまりにも知らなさすぎる。
俺たち子どものことを。元妻のことを。家族のことを。
親父が想像してる何億倍も俺たちは憎んでいるし、正直面倒だから顔も合わせたくない。どうせ、新しい嫁もいるし。
でも、親だからという理由だけで、1年に数回は連絡を取るし、顔も合わせる。
親だからという理由だけでだ。
妹側から見たら、本当にとんでもない父親にしか映っていない。
罵倒、暴力の末、離婚し、家を出ていき、特に安否の確認を頻繁にするでもなく、気づいたら東京で知り合った、よくわかんねー若い女と再婚してるし、その人と仲良くしろと言われる。
なんで気づけない。気づこうとしないのか。気づく勇気すらないのか。
この人間をどうしたら結婚式に呼びたいと思えるんだよ。
親、ただその続柄を所有しているだけで、これまでのことを我慢して、できるだけなかったことにしてやってる。
自分が他人につけた傷って、忘れてしまうものなのだろうか。
親父を見てると、全部忘れてるみたいだった。
今までの罵倒や暴力も、自分が勝手に黙って再婚したことも。
俺たち家族がどれほど憎み、蔑み、呆れ、傷ついたかなんて考えもしないんだろうな。
でも、俺たちも悪いかもしれない。
もっと言ってやればよかった。突き放せばよかった。
自分がこれ以上傷つくのを恐れ、保身に走り、親父の行動を受け流したせいで、全部許された気になっている。
その責任もあるかもしれない。
だから、親父は今回の件も、被害者かのようなツラで、結婚式に来るなって言われたと宣うのだ。
お前が全部今までしてきたことが原因なのに。
やっぱり、何か悪いことをしたり、人を傷つけたりしたときに謝れるだけえらいと思うわ。
謝れば済むわけじゃないとか、許すかどうかは謝られた側が決めることとか、謝るくらいなら最初からするなとか、いろんな意見や考え方があるとは思う。
けれど、自分の過失を認めて、謝罪ができるだけまだマシ。
他人の優しさや我慢にあぐらをかいて開き直るというか、なかったことにするのは極悪非道だよ。
今までの過失をさらに重いものにする。
俺も気をつけなきゃいけないし、親父が最後に身を挺して教えてくれたことなのかもしれない。

P.S.
ご祝儀待ってます!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?