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「ショート」合わせ鏡

深夜1時55分にセットしたスマホのアラームが鳴った。
ベッドから手を伸ばしてアラームを止めた。
「今日こそ」
のそのそと布団から起き出してテーブルに置いた鏡を2枚確認した。
高校で流行っている「合わせ鏡」の都市伝説に私は今日こそ挑むのだ。眠くて、もう二回も失敗していた。
隣のベッドから姉の美咲が
「うるさいな~、何時だと思ってるの」
寝言のように苦情を言った。
2枚の鏡を持って、大きく深呼吸をした。学級委員の麻紀の話しによると9番目の顔が自分の死に顔らしい。間接照明に白く浮かぶ壁と鏡に私の姿が何重にも写し出される。
「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ…」
どれが9番目の顔なんだろう。

「うるさい!睦美!お願いだから、もう寝て!」
また姉が寝言で怒鳴った。
次の日、学校へ行くと私の机の上に白い花が飾ってあった。
酷い!新種の虐め?
私は平気な顔をして机に座った。
お昼休みに麻紀のところへ行って
「ねぇねぇ、私やったわよ、昨日『合わせ鏡の都市伝説』」
麻紀は私を無視して、英単語を覚えている。
「何よ、無視することないじゃない」
頭にきて単語帳を机から落としてやった。麻紀は
「あら」
床に落ちた単語帳を拾って、また英単語を暗記しだした。
「なんなのよ〜、もう」
階段を駆け上って、一つ年上の姉の教室に行った。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、私、虐めにあってるみたい」
訴えたが、姉の美咲は
「仕方ないのよ、そのうち慣れるわ」
寂しそうに笑った。
合わせ鏡なんて、やらなければ良かった。
虐めに耐えきれずに、その日は勝手に早退してしまった。家に帰ると愛犬のランが私を出迎えてポカンとした顔で小首をかしげた。いつもなら白い尻尾をちぎれんばかりに振って足元にじゃれついて来るのに。
そのうち
「ウー、ウー…」
唸りながら後退りを始めた。
「ラン、どうしたの?私よ」
母が台所の方から
「おかえりなさい、睦美。早かったのね。どうしたの?」
声を掛けてきたが、
「なんでもない!」
私は虐めにあってるなんて言えなくて、二階の子供部屋に逃げ込んだ。そのまま布団を被って眠ってしまった。気付くと深夜2時だった。
私は引き寄せられるように、また合わせ鏡に手を伸ばして自分を映し出した。
「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ…」
数えても数えても9番目の顔が見つからない。
まぁ、いいか。
死に顔を見ても仕方ないものね…
お気に入りのパジャマに着替えてもう一度寝直そうとしたら、美咲がベッドから顔を出して
「9番目の顔は今の顔よ」
また寝言を言った。
「え?」
何を言ってるんだろう?
一階に降りて水を飲もうとしたついでに、気まぐれでテレビを付けてみた。

「えっ?こんな時間にニュースなんてやってるの?」

ニュースキャスターが淡々と読み上げる。

『八王子一家心中事件とみられていた事件は、精神障害の次女が両親と長女の姉を殺害して自分も自殺を図り重態でしたが先程死亡が発表されました。被疑者死亡のまま……書類送検が……』


何?

私?
わたし?
ワタシ?
犯人は私なの?!

ハッハッハッハッハッ〜〜〜

乾いた高笑いが私の口から洩れた。やっぱり合わせ鏡なんてしなければ良かった。
リビングの鏡に私はもう映っていなかった。


山根あきらさんの企画に参加させて頂きます。
いつも素敵な企画をありがとうございます。
よろしくお願いしますm(__)m







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