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算命学余話 #G99「守護神#21 庚×春」/バックナンバー

 園芸用の活力剤として知られている「腐植酸」とは、植物が枯れた後に枯葉が地面に落ち、その枯葉が土を覆うことによって生じる天然成分のことで、園芸用にわざわざ買って撒かなくても自然界にそなわっている植物の機能です。つまり落葉樹であるなら冬になれば自然に落ち葉がすぐ足元の土壌を覆うし、落葉樹でなくとも何らかの事情で枯葉は樹木の足元に降り積もるので、そこから生じる腐植酸の効力によってその下にある根の成長が促され、結果的に春になれば樹上に新しく元気な芽吹きが得られることとなる。これが植物界のサイクルです。
 そしてフィールドワークをする植物学者たちがしばしば指摘することですが、日本の森を歩くと地面がフカフカで靴音がしないのに、ヨーロッパの森を歩くとカンカンと靴音が響く。それほど土壌に厚みがない。この厚みのなさは熱帯雨林にも共通しており、それは堆積した落葉の厚みに比例しています。これは単なる靴音や人通りによる踏み固めの問題ではなく、密着した自然環境が植物に与える影響の話です。その自然環境とは、植物自身でもある。枯れた植物が、これから育つ植物の養分となっている。逆に言えば、枯れない植物は次世代を育てられない。これが自然界の真理です。

 もうひとつ、植物の話をしましょう。もはや日本の風土病とも言うべき花粉症の一大原因は、スギ・ヒノキの花粉です。しかし昔の日本人はこれほどまでにスギ・ヒノキに悩まされはしませんでした。今日の花粉症の原因であるスギ・ヒノキが戦後に商用目的で植えられた人工林のものであることは、よく知られています。つまりスギ・ヒノキを自然に生える量より何倍も植えて増やしたために、花粉の量も何倍にも膨れ上がってしまったのだと。ではこの樹木の本数を減らせば、花粉も減って、花粉症も減るのでしょうか。
 どうやらそう単純な話ではないようです。いえ、単純は単純ですが、方向性がやや違う。専門家によれば、スギ・ヒノキという植物は稲と同じく、人類と共存して生きてきた植物なのであり、ある程度人間が世話をしてやらないともはや正常な繁殖に至らない種類の植物なのだということです。いえ、恐らく自生している範囲内なら人の手を借りずとも子孫を繋いでいくことはできるでしょうが、人間の都合で大量に植えられた場合には、それ相応のケアを受けないと生きていけない。
 スギ・ヒノキが大量に花粉を飛ばすのは、安い輸入木材の市場進出によって伐採されなくなった彼らが、人による世話もされずに過密状態に置かれ、「こんな超密集地帯ではこの先枝葉も伸ばせず生きていけなくなるから、せめて子孫はもっと日光の当たる広い場所で育ってほしい」と願って必死になっている姿なのです。つまり植林自体は悪くなく、悪いのは植えた樹木が快適に暮らせて子孫も自然に残せるような環境を整えてやっていない、という無責任な人間の管理の仕方の方なのです。植物だって生き物なのに、それを忘れている。過密空間が生物に与える病理は、コロナ禍を経験した人類には記憶に新しいはずなのに。今日のスギ・ヒノキの異常なまでの花粉量は、彼らの切羽詰まった生殖本能から絞り出された魂の悲鳴に他ならないというわけです。

 以上の話から、毎度お馴染みになりますが、算命学の自然思想を思い起こして下さい。腐植酸の話は、老人が死なないから子供が生まれない現代社会に通底しますし、花粉症の話は、僅かな富や食糧を大勢で獲り合わなければならない貧困の土壌の話であり、そうした生存上の不安から生じた過剰で実り薄い生殖行為の話です。太古の昔から存在してきた植物にだって苦しいものは、人間にだって苦しいのです。そしてその原因は根本では繋がっています。

 今回の余話は、庚金の守護神です。庚金は陽金なので岩石を意味しますが、中には鉄鉱石も含まれ、その精製によっては文明の利器である刃物に姿を変えます。この場合の精製とは、人間に置き換えると教育に当たります。教育され鍛え上げられた庚金は、文明の利器となって社会に貢献し、人々の役に立って感謝されます。感謝されることは褒められることなので、それは名誉(=官)に繋がります。
 ところで、刃物にも色々あります。身近なところでは、台所包丁はなくては食事も準備できませんし、これをもっと長く伸ばして研ぎ澄ませば、殺傷能力のある刀剣となって戦さに使われたり、現代では博物館に飾られて刀剣女子たちを喜ばせたりしています。しかし算命学の自然風景の中では、精錬された庚金のベーシックな姿を、斧や鉈や鎌に見立てます。これは、樹木を切り倒したり枝を落としたりする機能を重視するためです。
 つまり相手は樹木だということです。冒頭のスギ・ヒノキのように、樹木の健全な生育には適度な伐採(=間引き)や枝払い、下草刈りが不可欠であり、それを効率よくやってくれるのが斧であり、鉈であり、鎌であるわけです。そのため、庚金の守護神は樹木である甲木を取ることがほとんどです。そして甲木にとっての守護神もまた、大抵庚金が入っています。つまり庚金と甲木は、相性が良いというわけです。

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