【58】抗体検査の意義について

企業向け新型コロナウイルス対策情報配信 2021年11月11日

経営者・総務人事担当者のみなさま、新型コロナウイルスワクチン接種が行きわたり、ワクチン接種の効果を知るために、抗体検査を受けたいと考える従業員も少なくないものと思われます。

1. 課題の背景:

新型コロナウイルスワクチン接種後、血液中の抗体価は数か月で低下することが知られており、不安を感じて抗体価を測定したいと考える従業員も少なくないことでしょう。が、安易な測定にはデメリットもあります。抗体測定の意義について正しく理解した上で受検を選択することが必要といえます。

2.企業でできる対策

○ 抗体検査とはどのようなものかについて理解する
○ 抗体検査の意義について理解する
○ 抗体検査について従業員に情報提供する

1) 抗体検査とはどのようなものかについて理解する

新型コロナウイルスに感染、またはワクチン接種によって体の中で免疫反応が起こり、抗体が産生されます。ワクチン接種後の効果を推定する目的では、2回目のワクチン接種の14日後以降にIgG抗体を測定します(検査の詳細については第23回配信で述べています)。

2) 抗体検査の意義について理解する

①抗体検査に関する課題

ワクチン接種後1か月程度をピークに抗体価が低下すること、およびワクチン接種から数か月が経過すると感染予防効果が低下することがわかっています。しかしながら、抗体価が低下することが感染予防効果の低減に関連しているかはわかっていませんし、そもそも抗体価がどれくらいあれば感染予防効果があるのかについてはまだわかっていません。つまり、ワクチンの感染防御は抗体価だけで決まるものではなく、結果そのものに一喜一憂するものはないことが分かります。

現在、3回目のワクチン接種が進められようとしています。2回目のワクチン接種からの期間をもとに対象者を決めることになっていますので、抗体価が低いからと言ってワクチン接種の優先順位が上がるものではありません。いずれは抗体価によってワクチン接種の必要性を判断できるようになるかもしれませんが、現時点でははっきりとしたことはわかっていません。

検査キットの精度にも問題があることに注意が必要です。市販の検査キットは医療施設での検査と比べて感度が低く、医療機関で行う検査でも検査法によって感度にはばらつきがあることが分かっております。また、検査を実施する時期によっても感度は大きく異なってきます。

②抗体検査の意義

前述の課題などから、新型コロナウイルスに対する免疫を評価する指標として抗体検査を実施することが推奨されている訳ではないことに注意が必要です。それでは、抗体価を測定することにどのような意義があるといえるのでしょうか?

一部の地域では新型コロナウイルス感染症の抗体保有率疫学調査が実施されています。新型コロナウイルスは症状の出ない不顕性感染が多いと考えられており、軽症者を含めて保健所で把握しきれていない実際のウイルスの広がりを調べるためには抗体検査を行う意義があります。

3) 抗体検査について従業員に情報提供する

以上のように、抗体検査でワクチン接種後に免疫が付いたかどうかを知ることはできますが、その後の行動(3回目のワクチン接種を受けるかどうか)の判断基準とはなりません。抗体検査を行うデメリットとして、抗体価が低いことでいたずらに不安に陥ることがあります。このような事態を避けるためにも、抗体検査を受ける意義をよく検討した上で選択することが望まれます。

医療機関・検査機関等から抗体検査の案内があるかもしれませんが、従業員にはよく吟味して受検を選択するよう情報提供することも大事でしょう。

3.関連情報リンク・参考情報:

1) 新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)(厚生労働省)
5.新型コロナウイルス感染症に対する医療について 問5
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q5-5

2) COVID-19における抗体検査についての基本的な考え方(日本臨床検査医学会)
https://www.jslm.org/committees/COVID-19/20210824.pdf

3) 企業向け新型コロナウイルス対策情報配信 第23回
http://www.oh-supports.com/img/corona/pdf/023.pdf

4) 令和3年度新型コロナウイルス感染症の抗体保有率疫学調査ご協力のお願い(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00058.html

文責:櫻木 園子(一般財団法人京都工場保健会)

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