庚申さん/(1)/記憶に刻まれた除幕式/6000人参詣、立すいの余地なし
「自動車、人力車は蜿蜒長蛇の列」
「当日一般参拝者約六千人」
「貴生川駅より山上までの約三十町蟻の列をなすがごとく」
「境内立錐の余地なし」
――これは今から100年前の1922年(大正11年)の出来事で「黄銅組合沿革誌」という書物に収録されている記録だ。その場所とは真鍮(黄銅)の発祥伝説を持つ庚申山広徳寺(滋賀県甲賀市山上)。山号を呼称にした「庚申(こうしん)さん」で通じれば、伸銅業界に長くいる証しといえるだろう。
標高約407メートルの庚申山上に広徳寺の本堂はある。滋賀県とはいえ、この辺りは琵琶湖から直線距離で30キロメートルほど離れた山間部にあり、三重県との県境に連なる鈴鹿山脈も近い。JR草津線の貴生川駅方面から眺めると、庚申山は修験道の山で知られる飯道山系の一つをなしている。その麓には、陶器で有名な信楽と貴生川を結ぶ信楽高原鉄道が通っている。
ここから先は
1,590字
¥ 300
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?