再現答案 R4 予備試験 行政法

 第1 設問1
1 前段
(1)取消訴訟(行政事件訴訟法(以下略)3条2項)は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない(10条1項)。
 本件条例4条1項に基づく指定は、教育委員会が、B町区域内に損する文化財のうち、町にとって重要なものを対象に指定するものである。たしかに、指定は、告示とともに、当該文化財の所有者や占有者に対する通知によって行われる(同3項)。しかし、指定は、告示によって効力が生じる(同4項)ため、通知は、所有者等の関係者の所有権その他の財産権を尊重し、文化財の保護と他の公益との調整に留意するという、同3条の趣旨を満たすものにすぎない。そのため、当該文化財の所有者等は、指定の名宛人にはならない。
 また、Dの直接の不利益は、指定を受けたC古墳を含むD所有の本件土地についての本件工事の継続に、同13条1項に基づく教育委員会に許可が必要となってしまうことにある。そのため、本件処分の違法は、Dの法律上の利益に関係がない。
(2)また、取消訴訟は出訴期間の制限がある(14条1項、2項)。本件指定は、平成118年4月14日になされた。Dが行政訴訟の提起を考えたのは、令和3年5月以降であるから、出訴期間を経過している(同項本文)。
 「正当な理由」(同項ただし書き)とは、行政過程の早期安定の観点から、天災等による場合をさすと解するところ、本問ではかかる事情もない。
(3)よって、Dは取消訴訟の提起を断念した。
2  後段
(1)Dに、「法律上の利益を有する者」 (36条)として、無効確認訴訟の原告適格が認められるか。無効確認訴訟は、処分の瑕疵を争う点で取消訴訟に共通するから、取消訴訟と同様に判断する。
(2)「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。そして、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益もここにいう法律上保護された利益に当たると解する。
(3)Dは、本件処分の名宛人以外の者であるから、9条2項に沿って検討する。
 Dは、法律上保護された利益として、本件条例13条1項の許可を受けることなく、本件工事を継続する利益を主張する。
 本件処分を定めた行政法規は、同4条1項である。そして、指定は、告示とともに、当該文化財の所有者等への通知によって行われる(同3項)。本件条例の目的は、B町内の文化財のうち重要なものを指定し、その保存等に必要な措置を講じ、町民の文化的向上と国文化の進歩に貢献することにある(同1条)。よって、通知は、所有者等の財産権を尊重し、文化財の保護と他の公益との調整に留意するという、同3条の趣旨を満たすものである。
 そのため、本件条例は、指定を受けた文化財の所有者等の財産権を、個別的利益として保護する趣旨を含むといえる。
 また、町指定文化財の現状変更等には、同13条1項の許可が必要となる。そのため、指定に瑕疵があれば、かかる変更等を行おうとする所有者等は、指定を受けなければかかる変更等をすることができないという不利益を直接に受ける。
 よって、本件条例は、指定を受けた文化財の所有者等が、かかる許可なく自己の財産に変更等をする利益を、個別的利益として保護する趣旨を含むといえる。
(4)よって、Dの上記利益は、法律上保護された利益にあたるから、Dの原告適格は認められる。
第2 設問2
1 Dは、本件処分の内容が不明確であるという瑕疵があることから、本件処分は無効であると主張する。
(1)行政過程の早期確定の点から、瑕疵が重大で、かつ、第三者保護の点から、それが明白である場合に、行政処分は無効と解する。そして、処分の効力が及ぶ範囲が不明確である場合には、明確性を担保する特段の事情がない限り、その瑕疵は重大であると解する。
(2)教育委員会は、本件処分の際に、盛り土も含めてc古墳であると認識している。しかし、Dは、C古墳の範囲は、本件石室部分のみをさすと考えている。
 C古墳が指定されたのと同日に、当時のDの代表者にも通知(本件条例4条3項)がなされている。しかし、同通知には、本件処分の指定の範囲が本件石室にとどまるのか、本件石室の周囲半径約10mの盛り土も含むのかの記載がなかった。そのため、本件処分の範囲は不明確である。
 B町は、教育委員会が、本件処分後にC古墳であることを示す標識を設置したから、明確性は担保されている、と反論する。
 しかし、その標識は、本件石室の埋葬室から約9mの距離にある巨石のすぐそばに設置されたが、上記半径約10mの盛り土一帯がC古墳であることを示す標識はなかった。また、Dから管理責任者として選任(本件条例6条3項、1項)された教育委員会は、本件処分の直後から定期的に上記巨石周辺を草刈りしていたが、それ以外にはしていない。
 そのため、明確性が担保されているとはいえない。
 よって、本件処分の瑕疵は重大である。
 また、かかる瑕疵は、上記通知の記載から明白である。
(4)よって、本件処分は無効であり、上記Dの主張は正当である。
2 Dは、本件処分が、適切な保護委員会への諮問(同4条2項)を欠くという手続的瑕疵があるため、無効であると主張する。
(1)手続的瑕疵も、重大かつ明白であれば、無効となると解する。
(2)指定にあたり、教育委員会は、保護委員会に諮問しなければならない(同項)。
 しかし、本件処分の際、保護委員会への諮問は行われていない。
 B町は、本件処分に際し、Eの意見聴取を経たことから、諮問は実質的に履践されたと反論する。
 しかし、同委員会は、教育長の招集(同22条1項)のもと、委員の半数以上が出席しなければならない(同2項)。
 本件処分当時、保護委員は、委員長Eを含む9名(同20条1項参照)いたのであるから、E一人への意見聴取をもって、同委員会がなされたとみることはできない。
 また、保護委員会が、文化財に関する諮問のため特に置かれたものであり(同19条)、教育委委員の諮問に応じ、これを審議し、専門的・技術的事項につき答申し(同21条1項)、そのために必要な調査研究を義務付けられている(同2項)ことと、かかる諮問が指定のために必須である(同4条2項)ことにてらせば、E一人のみの意見聴取をもって諮問手続きとすることの瑕疵は重大である。
 また、かかる瑕疵は、本件処分当時の関係資料より明白である。
(3)よって、本件処分は無効であり、上記Dの主張は正当である。
 

<コメント>
設問1:今にして思えば、原告適格が認められる話と完全に矛盾する。変に穿ってしまった。迷いがあったので、出訴期間とってつけたが。。。

設問2:内容不明確の明白性には、標識の内容、草刈りの態様も盛り込めた。


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