再現答案 R4 予備試験 刑事訴訟法

第1 ①
1 ①の行為は、捜索(刑事訴訟法(以下略)218条1項前段)及びそれに伴う「封を開」く行為(222条1項本文、111条1項前段)として適法か。
2 ①の捜索は、Aを被疑者とする覚醒剤営利目的譲渡被疑事件(以下、「本件事件」)に関する、A方居室を捜索すべき場所とする捜索差押許可状の執行として行われたと考えられる。もっとも、①の捜索は、甲が所持していたキャリーケースを対象に行われている。場所に対する捜索差押許可状で、物を捜索することが可能か。
(1)捜索すべき場所と同一管理圏内に存在する物については、かかる場所の備品と捉えることができる。また、令状裁判官は、そのような物の存在も踏まえて、令状審査を行っているといえる。そこで、捜索すべき場所と同一管理圏内にある物については、場所に対する捜索差押許可状で捜索できると解する。
(2)同ケースは、甲が、A方の捜索が開始された際、A方居室玄関内において、コートを着用し、靴をはいて所持していたものであるから、捜索すべき場所A方と同一管理圏内にある物といえる。
(3)よって、同許可状で、同ケースの捜索もなしうる。
3 もっとも、同許可状は、Aを被疑者とする本件事件に関して発付されている。かかる許可状で、A以外の者である甲の所持品を捜索することが可能か。
(1)捜索すべき場所と同一管理圏内にある物について、それを被疑者以外の者が所持しているか否かで捜索の可否が異なると解するのは妥当ではない。そこで、同一管理圏内にある被疑者以外の者が所持する物については、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」(222条1項本文前段、102条2項)のある場合に限り、捜索可能と解する。
(2)同許可状における差し押さえるべき物は、覚醒剤、注射器、計量器等である。同ケースは、これらを収納することが可能といえる。また、甲は、A方の捜索が開始された際、上記のとおり同ケースを持って出かけようとしていた。そして、再三にわたる開披の要求にもかかわらず、甲は同ケースの開披を拒否した。甲は、Aの妻で、AとA方で同居している。そして、A方は、Aが覚醒剤を密売する拠点である疑いが強まっていた。
(3)よって、同ケースに、上記差押対象物がある蓋然性が高いことから、「押収すべき物・・・状況」がある。
(4)よって、同許可状で、同ケースの捜索が可能である。
4 では、①において、甲の承諾なく、無施錠の同ケースのチャックを開けた開披行為は「封を開」く行為として適法か。
(1)捜査比例原則(179条1項ただし書き)にてらし、必要性、緊急性を考慮し、具体的状況下で相当の限度内であれば、捜索に伴う開披行為として適法と解する。
(2)上記のとおり、同ケース内には、差押対象物の存在の蓋然性があった。本件事件は、原則として1年以上の有期懲役に処せられる重大犯罪である。そのため、必要性は大きい。また、甲はA方捜索開始とともに、同ケースを持って出かけようとしていた。本件事件は、薬物犯罪であり密行性が高く、証拠隠滅が容易であるから、緊急性も高い。
 一方で、①の開披行為は、再三の要求にもかかわらず開披を拒む甲の承諾なく行われてはいるものの、甲が所持したままの同ケースのチャックを開けるというものであり、甲のプライバシー侵害の度合いは、上記必要性、緊急性にてらせば、相当限度内といえる。
(3)よって、開披行為は適法である。
5 よって、①は適法である。
第2 ②
1 ②の行為は、捜索(218条1項前段)及びそれに伴う「必要な処分」(222条1項本文前段、111条1項前段)として適法か。
2 ②の捜索は、同許可状の執行として行われたと考えられる。
 乙は、かかるボストンバッグを所持してA方に帰宅し、A方捜索中、乙は同方内でこれを所持し続けていた。そのため、同バッグは、A方と同一管理圏内にある物といえ、捜索をなしうる。
3 もっとも、②の捜索は、①と異なり、A方捜索開始後に乙が持ち込んできた同バッグに対するものである。捜索開始後に、捜索すべき場所に持ち込まれた物に対しても、場所に対する捜索差押許可状で捜索可能か。
(1)令状の有効期間内(刑事訴訟規則300条)に捜索すべき場所にある物については、その存在も含め令状裁判官が審査し、令状を発付していると解せる。また、同期間内にもかかわらず、執行開始前後で、捜索の可否が異なるのも不合理である。よって、この場合には、同許可状でかかる物の捜索が可能と解する。
(2)②の捜索は、A方捜索と同日に行われているといえる。よって、同許可状の有効期間内といえる。
(3)よって、同バッグに対して捜索をなしうる。
4 では、「押収すべき物・・・状況」があるか。
(1)同バッグには、上記差し押さえるべき物が収納可能といえる。乙は、Aの息子で、AとA方で同居している。そして、A方は、上記のとおり密売拠点の嫌疑が強い。また、乙は、A方居室内に入った後も、同バッグを手放さず、再三にわたる開披の要求にもかかわらず、乙は同バッグの開披を拒否した。
(2)よって、同バッグに、上記差押対象物がある蓋然性が高いことから、「押収すべき物・・・状況」がある。
(4)よって、同許可状で、同バッグの捜索が可能である。
5 では、②において、乙を羽交い絞めにした上、乙からボストンバッグを取り上げた行為は、「必要な処分」として適法か。
(1)捜査比例原則(179条1項ただし書き)にてらし、必要性、緊急性を考慮し、具体的状況下で相当の限度内であれば、「必要な処分」として適法と解する。
(2)上記のとおり、同バッグ内には、差押対象物の存在の蓋然性があった。本件事件は、上記のとおり重大犯罪である。そのため、必要性は大きい。一方、乙は甲と異なり、同バッグを持ったまま出かけようとしたりはせず、A方内でこれを所持したまま、証拠隠滅をしようとする様子はなかった。そのため、緊急性は相対的に低下する。
 一方で、②の行為は、再三の要求にもかかわらず開披を拒む乙の承諾なくを羽交い絞めにした上、同バッグを取り上げるというものである。これは、乙に対する身体、プライバシー侵害の程度が、上記必要性緊急性に比して大きいものといえる。よって、相当限度内といえない。
(3)よって、開披行為は違法である。
6 よって、②は違法である。

<コメント>
第2.3(1)
管理権者の意思で持ち込まれた物、とした方がよかった。
その際、あてはめでは、同居→乙もA方の管理権者とする。

「封を開」く、「必要な処分」を捜査比例原則で処理してよかったのか、一抹の不安

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