パーティー券収入と日産の不当減額

パーティー券収入の還流という問題が、取りざたされています。ある程度は派閥に収めるノルマがあって、それを上回る金額は、議員に還流される、という仕組みだそうです。それを受け取った議員たちは、おそらく政治活動費(選挙活動費かもしれません)にあてていたように見受けられます。そして、還流を受けるためには、パーティー券収入を増やすような活動もされなくてはなりません、本来の職務を差しおいても。

しかし、政治の現場では、表面に出せないような「お金」の流れの必要な場合もあるでしょうし、それが必要悪としての裏金の存在です。「裏金」とはこのよう政策の都合で、公表できないお金のことを言うのであって、個人の政治家が差配するような種類のものではありません。そのようなものは機密費で賄われるべきものです。

平成二二年六月三日、衆議院提出の「質問主意書」に以下のような記述があります。

野中広務元内閣官房長官は、自ら内閣官房長官を務めていた時期に、内閣官房報償費(機密費)を多い時で月七千万円、少なくとも五千万円使い、その内訳は月々内閣総理大臣に一千万円、自民党国対委員長や参議院幹事長に各五百万円程度を渡し、更には政治評論家や野党の国会議員に配っていたとの発言を行っている。これは、内閣官房長官経験者自らが、内閣官房報償費(機密費)を政界工作費、マスコミ工作費として使用していたことを明らかにした重大な証言である。

衆議院

何だか工作費って、権力維持のためになされているようで、不信感をもちますが、これは、公表を前提としていないからそうなるのであって、たとえば、十年後には使途の公開性を担保・確保しておけば、単年度ではいくら使ったのか、ということを公表するだけで、公正さは保たれるように考えられます。

政治団体(家)こそ、金銭処理の手本にならなければ、機密費をあつかうにたる信頼を得ることなどできません。

また、本日の毎日新聞に、「日産、下請けに不当減額 計30億円。公取委勧告へ」という記事がありました。

 下請け業者への支払代金を不当に減額したとして、公正取引委員会は近く、日産自動車(横浜市)に対し、下請け法(下請け代金の減額の禁止)違反で再発防止を勧告する方針を固めた。関係者への取材で判明した。計約30億円が不当に減額されたと認定される見通しで、1956年の下請け法施行以来、最高の認定額となるとみられる。
(……)
 下請け法は独占禁止法を補完し、中小企業を保護するための法律。下請け業者に責任がないにもかかわらず、発注時に決めた代金を減額することを禁じており、下請け業者が減額に合意したとしても違反となる。

毎日新聞

パーティー券収入による裏金(?)と日産自動車による下請け法違反。両者に共通するのは、「いかに自分の優位性を保つか」にあると思われます。言い換えれば、権力者によるエゴイズムです。絶望的な気分になってしまいます。

この国の耐用年数を過ぎたシステムの弊害を指摘すること(政治)と、グローバリズム/情報化の波に流されることなく起用にバランスを取るべきと述べること(文学)だ。(……)
(……)ここでの前者(政治)はマイナスをゼロにするためだけのバケツの底に空いた穴を塞ぐような作業であり、後者(文学)は夏に増す熱中症への警鐘として水分補給の重要性を訴える啓蒙活動のようなもので、(……)当然バケツの底の穴は塞ぐべきだし、夏季の水分補給に気をつけるに越したことはない。
 (……)
 私が絶望しているのは、第一にこの絶望的な現実そのものに対してであり、そして第二にはその現実から目を背け事実上無内容な常識論を表面的に取り繕うことしかできていないこの国の言論に対してだ。

宇野常寛『母性のディストピア』集英社2017 8頁

この絶望的な現実に対して、必要なのは、その現実がどのような事態であるかとか、どのようないきさつで発生したかではなく(解明と罰は必要ですが)、いかにすれば、その絶望的な現実を回避できるか、という修正可能なシステム(虚構)を構築するのかにあると感じます。〈世界には虚構だけが捉えることのできる現実が存在する。〉(同上 12頁)


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