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遠州織物コレクション2022レポート

2022年2月17日(木)〜18日(金)の2日間、一般社団法人静岡県繊維協会が主催する遠州(静岡県西部)地域の産地単独展示会「遠州織物コレクション」が東京・中目黒で開催されました。

本イベントには遠州の織物文化を担う13社が出展。盛況のうちに終わった本イベントを簡単にレポートしたいと思います。

あわせて、今回から取り入れたオンライン・オフラインを組み合わせた展示会のメリットと課題について考えられればと思います。

執筆者 : 秋吉成紀


何とかリアル開催に漕ぎつけた遠州織物コレクション

遠州産地は、浴衣や手ぬぐいを生産してきた歴史的背景から、小幅織物から広幅織物までさまざまな生地を手がけ、注染やプリントなど染色加工の技術も発展してきました。現在では扱う素材、技術、加工もさまざまで企業ごとに独自の特徴を宿しています。

その遠州産地の魅力とものづくりの強みの発信を目的に、2011年にスタートしたのがこの「遠州織物コレクション」です。

前年度の「遠州織物コレクション2021」は緊急事態宣言下だったこともあり、開催自体が危ぶまれましたが、株式会社糸編ギャラリースペースにて事前予約制のオンライン・オフラインのハイブリット展示を実施するなど、可能な限り従来の展示会を再現しうる施策を講じコロナ禍の難を乗り越えています。

遠州織物コレクション2021の様子


新型コロナウィルス感染拡大の影響により、多くのファッション・アパレル業界関係のイベントで規模縮小、開催延期・中止という苦しい判断を迫られることとなりましたが、「遠州織物コレクション」は初年度以来の継続的開催を成功させました。

「コロナ禍において、苦しくもがきながらも、何とか開催に漕ぎつけ、少しでも多くの方に、遠州織物を見て、触ってもらいたいと思って。」(静岡県繊維協会専務理事兼事務局長・浅山肇さん)。そんな状況下においても途絶えさせないという想いが、「遠州織物コレクション」にはこもっています。

「来て 視て 触る」

11回目となる今回も前年に引き続き、新型コロナウィルス感染が広がる予断を許さない状況下での開催となりましたが、来場者の検温・アルコール消毒・マスク着用の徹底など最善の予防対策のもと、すべてのブースで予定通りに生地・製品の展示が行われていました。

各ブースでは定番生地・製品に加えて、新作生地・製品も多く並び、遠州産地のものづくり多様さが伝わる会場となっていました。

今回のキャッチフレーズは「来て 視て 触る」


往来と接触にネガティブな印象を持ってしまいがちな昨今ですが、職人の技が織り成した生地と製品の価値は本来、直接来て視て触ることでより深く伝わるはずのもののはずです。

今回の会期中も、多くの来場者が生地・製品を触る様子が見られました。これまで以上に直接視て触ることができる展示会の意義が再確認されたように思います。

従来の展示会が持っていたはずの価値を再評価し、あえてポジティブなメッセージとして発信する姿勢に、遠州産地の企業・団体の力強さと誇りのようなものを感じられました。

また、「遠州織物コレクション2022」では新たな試みとして、全ブースでオンラインスワッチオーダーに対応し、半数近くの企業でzoomを介したオンライン商談を導入。

完全オンラインで開催された前回の成果を踏まえて、オンラインとオフラインそれぞれの強みをいかした形式となり、浅山事務局長は「これからの展示会のあり方が変わっていくかもしれない」と期待を語っていました。


産地の学校と関わりの深い方も

今回の「遠州織物コレクション2022」には産地の学校とゆかりのある方も参加されていました。

古橋織布さんのブース

まずは、産地の学校の講師としてお世話になっている古橋織布有限会社の濱田さん。今回はリモートで参加されていました。

あらためて、遠州産地の特徴と遠州織物コレクションの魅力について伺いました。

「遠州織物は天然繊維を使っているという共通点はありつつも、各社個性豊かな生地を織っているため、多様性があるのが最大の特徴です。それが一堂に東京に集うのは、この遠州織物コレクションだけなので貴重な機会だと思います。」(古橋織布・濱田さん)

また、産地の学校出身の有限会社福田織物に就職された山本さんが、現地にて展示会に参加されていました。せっかくの機会なので、山本さんおすすめの福田織物の生地について伺いました。

山本さんのおすすめ生地は、ご自身が開発に関わった「YD-001」「YD-002」「YD-003」「YD-004」「YD-005」。

この5品番はなんと全て経糸共通(!)織組織や横糸の色変えで、生地の厚みや雰囲気にバリエーションをもたせています。

【福田織物】
YD-001 綿100% 生地幅138cm 価格要相談 ※バイオーダーのみ
YD-002 綿100% 生地幅138cm 価格要相談 ※バイオーダーのみ
YD-003 綿100% 生地幅138cm 価格要相談 ※バイオーダーのみ
YD-004 綿100% 生地幅138cm 価格要相談 ※バイオーダーのみ
YD-005 綿100% 生地幅145cm 価格要相談 ※バイオーダーのみ

どの生地も同じ糸を使っているとは思えない触感で、遠州織物の奥深さを痛感しました。

産地の学校で一緒に学んだ方が、産地に入ってものづくりに携わっているのを見れて個人的には嬉しい経験でした。

展示会にリモートで参加するメリット

パソコンが設置された無人のブース

古橋織布・濱田さん、福田織物・山本さんのお2人に今回の取り入れたリモートでの展示会参加についても伺いました。

古橋織布・濱田さん曰く、リモートでの展示会参加のメリットは、展示会以外の現場業務も止めずに平行してできる点だそうです。さらに、リモートで参加してもピックアップ数やスワッチオーダー数に大きな変動がないとのこと。往来の移動費や人件費をある程度抑えながら、展示会ブースの現地作業に終始することなく、普段の業務に携われるのは効率的なのかもしれません。

また、過去別の展示会でリモート参加の経験がある福田織物・山本さんによると、リモートでの展示会には小ロットオーダーの方が適していると話します。小ロットのオーダーであればメーター単位で取引ができ、複雑な検討事項もないため、オンライン商談でも安定したやりとりが可能です。

実際に経験されたお2人の意見は、今後の展示会運営の参考になるのではないでしょうか。


展示会にリモートで参加する課題と対策

一方で、リモートでの展示会参加には課題もあると話します。

お2人が口を揃えて挙げたのは、非対面によるお客さんとのコミュニケーション不足。どのような人が自分の会社の生地・製品に興味を持ってくれたのかを把握できない、細かな疑問に答えられないなど、都度オンラインの接続が求められるオンライン対応では間に合わない部分があるそうです。

「できるだけ現地で生の声を聞きたいですね。普段展示会などでしか新しいお客さんとの関わりを持てないので、顔を合わせられる機会はできるだけ直接お話したいです。こういう時期は、こういう状況でできることをやるしかないかなと。」(古橋織布・濱田さん)

「展示会に実地で参加する1番のメリットはやはり、顔を見て話せることです。やはり直接対面でお客さんとお話すると、商談のマッチングや生地の説明がスムーズにいきます。特に、バイオーダーなどメーター数と価格が変動する生地については、念密なコミュニケーションが求められるので、顔合わせた方がいいかなと思います」(福田織物・山本さん)

コミュニケーション不足を補うために、濱田さんは、オンラインでのアフターフォローを丁寧にすることに心がけているそうです。リモートで参加した展示会でスワッチオーダーがあった際は、より細かな情報を添えるとのこと。

山本さんの場合は、オンライン上に掲載している生地の情報を可能な限り多く盛り込むことでコミュニケーションの齟齬と情報の補完に努めていると話していました。

お2人ともオンラインでの会話で起きがちな情報の過不足を整えるための対応に注力されていました。いずれにせよ、リモートでの展示会がさらに普及するためには、コミュニケーションの密度をあげることが重要になりそうです。


これからの展示会と産地

遠州織物コレクション2022の展示会場

オンラインとオフラインを組み合わせた展示会のあり方は、まだまだ課題がありそうですが、いまの状況だから発展しうる可能性を秘めています。

新しい展示会形式が生まれたことは遠州産地にとって、ひいては業界全体にとってポジティブな動きだと思います。都心部と産地を繋がりを深めるきっかけを、この遠州織物コレクション2022の成果から見出すことができれば、さらなる産地の活性化を引き出せるはずです。

失われたものばかりに目がいきがちですが、この時期に得られたものこそが産地と業界の未来を明るくしてくれるのかもしれません。


開催概要

【日時】2022年2月17日(木)13:00~18:00 / 18日(金)10:00~17:00

【会場】東京都目黒区東山1-8-14カイタックインターナショナル2階 

【出展企業】
古橋織布㈲
榛地織物
ケイテキスタイル㈱
髙田織布工場
辻村染織㈱
㈲福田織物
鈴木織商㈱
㈲ぬくもり工房
㈱タケミクロス
日本形染㈱
㈱二橋染工場
古山㈱
HFP(浜松ファブリックパフォーマーズ)

【主催】(一社)静岡県繊維協会

【共催】浜松市、磐田市

【後援】静岡県、(一社)日本アパレル・ファッション産業協会

【協力】㈱糸編


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