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雑記帳 その3 大人になること

 ちひろ美術館・東京で「いわさきちひろ ぼつご50しゅうねん」の企画展が開かれている.

 嵐の過ぎた午後に,やさしい絵の中にみえる心の強さは何なのだろう,ということを思いながら展示を巡った.作家のアトリエが再現されている常設展示には「大人になること」というパネル展示がある.これは以前も見ていたはずなのだが,今回,「この人は戦争で身も心も灰になったところから立ち上がってきたひとなのだ」ということに改めて気づかされた.「大人になること」を身につけているからこそ,さまざまな困難の中にあっても,思いを伝える気持ちを強くもつことができていたのだろう.

 自分の専門分野でも,戦後に優れた人たちが数多く現れて,一度は無になったところから復興し,次の時代を作っていく働きをした.二度の世界大戦があった20世紀は戦争の世紀とよばれるが,日本だけでなく世界全体でみても,自然科学の分野ではアインシュタインやボーアが新しい世界を開拓した.教育の分野でも,芸術の分野でも,「大人になること」を身につけた人たちの働きが,今の世の中の進歩を作ってきたのだろう.
 しかし,20世紀末になると,いろいろな分野で,そうした革新的な歩みは見られなくなり,停滞の気配が濃くなってきている.一見,進歩にみえる人工知能の発達なども,最初から大きな負の側面を抱えている.このような世の中の状況は,あれだけの犠牲をはらって生まれたものを,私たち以降の世代が十分に引き継げていないからではないかということに思いが及んだ.二度と20世紀のような戦争は起こしてはならないから,戦争の犠牲なく「大人になること」を受け継ぐにはどうしたらよいだろうか?


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