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読書ノート2: ガリレオ・ガリレイ「偽金鑑識官」山田慶兒・谷 秦,訳,中公クラッシックス

自然のしくみについて仮説を立て,そこから演繹される説明について,実験観察により検証する,という仮説演繹法とその検証という方法は,近代自然科学の基本となったものである.仮説の真偽を完全に証明することが難しい場合でも,検証を繰り返すことで,仮説の信頼性を高めることができる.現代に追加するならば,検証の延長として,追試も仮説の信頼性を高める上では重要である.

 これを,明示的に使い始めたのはガリレオであるとされている.仮説演繹法自体は,自然現象のしくみについてモデルを考え,そのモデルに基づいて自然現象を説明する方法である.古代ギリシャ科学の五元素説でも,それぞれの元素の挙動についてモデルを作り,大地の上に海,その上に空気と燃えさかる太陽という配置を説明するから,広い意味では仮説演繹法を使っているといってもよいだろう.

「偽金鑑識官」の中で,ガリレオが「検証」について述べていると考えられるのは,論敵のサルシが,過去の権威ある書籍を挙げて,ガリレオの説を否定したことに反論するための,次の部分になる.

44節
p. 331: 事実として存在することについて、経験が示すことよりもそれについてのひとびとの証言を重んじようとするのはまったくおかしいことに思われる、と言いたいのです。サルシさん。多くの証人をあげることはなんの役にもたたないのです。なぜなら、わたしたちは、多くのひとびとがそのような説を信じ、書きのこしたことを否定したのではなく、まさに、その説が誤りであると述べたのだから。

p. 332: そうすれば、あなたは、自然の諸結果のまえで、人間の権威がいかほどの力をもつものであるかを、はっきりとさたるでしょう.自然は、わたしたちのはかない希求にたいして、無情であり耳を貸してくれることはないのです。

自然の性質を知るために行った実験・観察の結果のみが事実であり,仮説演繹の結果の真偽を判定する「偽金鑑識」の働きをするのだ,という主張である.
 しかし,ガリレオは,「偽金鑑識官」に登場すするコペルニクスやケプラーとともに,近代科学の開闢期の人物であり,他の二人とともに中世科学の残照も持っている.ガリレオ自身が,実験・観察をたくさん行って検証していたかというと,ピサ斜塔の実験が弟子による創作の可能性が高いことと併せて,疑わしい部分がある.天体望遠鏡による太陽・月・惑星の観察や,振子や斜面の実験のように,実際にガリレオの手によるものもあるが,著書の内容は,どちらかというと思考実験による論証が多く,自身の理論形成には「自然の性質は,そうなるに決まっているからだ」という形のものが多いと考えられる.このこと検証するためには,もう一度.「天文対話」や「新科学対話」を読み直してみる必要を感じた.
 どちらにしても,それまでの思弁的な理論を疑い,思考実験も含めた思索によって,新しい自然の見方・考え方を見出した人物である,という哲学者(科学者)としてのガリレオの評価は,ゆるぐものではないと思われる.

ガリレオの警句は,コロナ流行時代にも通じるものがある.

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