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読書ノート3 柄谷行人 著 「世界史の構造」 (岩波現代文庫)

 柄谷行人によるマルクス社会主義理論の再構築の試み.

 「交換様式A, B, C, D」「ネーション,ステーツ,キャピタル,アソシエーション」といった独自の用語が,定義されることなく展開するので,著者の著作を系統的に読んでいる人でないと理解が難しい構成になっている.

 共産主義革命や,ソビエト連邦や中国などの社会主義の破綻の原因を分析し,カントの考察を交えて,マルクス史観を交換様式という観点から発展させるという著者のライフワークにあたる著作の1つと考えられる.

交換様式についての定義が明瞭に示されないので,「交換様式論入門」(柄谷,2017)で補足すると,

・交換様式A: 商品交換ではなく、贈与―お返しという互酬交換.商品交換(交換様式C)と区別される.この交換は、贈与しなければならない、贈与を受け取らねばならない、贈与に対してお返しをしなければならないという三つの掟による.
・交換様式B: 国家は、暴力による征服・支配として始まるが,それが継続的な支配となりうるのは、服従する者が積極的に服従するときで,服従することによって保護を受けられる、つまり、支配―被支配の関係が一種の交換となるときである.それが、暴力とは
異なる「力」をもたらす.
・交換様式C: 商品交換.たんに物質的な交換に見えるが,観念的な力が存在し,それはまさに「交換」から来る.
・交換様式D: Dは、厳密にいえば、交換様式の一つではない.それは、「交換」(A
であれ、Bであれ、Cであれ)を否定し止揚するような衝迫(ドライブ)としてある.そして、それは観念的・宗教的な力としてあらわれる.しかし、それは経済的なベース、すなわち交換に深くかかわる.
・原遊動性U: 人類が狩猟採集遊動民であった段階では、B・C だけでなく、Aも存在しなかった。遊動しているため蓄積することができないから,生産物は均等に分配されていた.遊動的バンドは、狩猟のために必要な規模以上には大きくならず、また小さくもならなかった。集団の成員を縛る拘束もなかった。他の集団と出会ったときも、簡単な交換をしただろうが、戦争にはならなかった。
※交換様式A・B・Cはそれぞれ、人を強いる観念的な「力」をもたらし,それらはまさに「交換」から生じる.A・B・Cは、別個に存在するものではなく,社会構成体は、それらが結合することによって作られる.
※D は A の回帰ではなく、Uの回帰

 A, B, C, Dは,それぞれネーション,ステーツ,キャピタル,アソシエーションという社会体制に対応しているとする.著者がお勧めなのがアソシエーションという体制.
 ちなみに資本主義については,
「No4303: 産業資本とは,労働者に賃金を払って協働させ,さらに,彼らが作った商品を彼ら自身に買いもどさせ,そこに生じる差額(余剰価値)によって増殖するものである.」
と表現される.

筆者が以前から興味があった一神教の誕生についての考察として,
「No.3078:バビロンに連行された人々の間で未曾有の出来事が起こった.国家の滅亡にもかかわらず,神が廃棄されなかったので.そのとき,新たな神観念が生まれた.それは国家の敗北を神の敗北ではなく,人々が神を無視したことへの神の懲罰として解釈することであった.宗教の「脱呪術化」は,このときに生じたといってよい.それは神と人間の関係の互酬性を否定することである.それによって神と人間との関係が根本的に変わった.」 
「No.3131: このことは,次の二つのことを意味する.一つは,神が部族や国家を越えた普遍的・超越的な存在になった,ということである.もう一つは,共同体の一員ではなく,そこから相対的に自立した個人があらわれた,ということである.(中略) 国家や共同体を越えて超越化した神は,他方に,国家や共同体に依拠することができないような個人の存在が照応するのである.
 しかし,普遍宗教がもたらしたのは,たんに国家や共同体から離れた個人が直接に神と関係するということではない.むしろ,それを通して,個人と個人の関係を新たに創り出すことである.実際,普遍宗教では,「愛」や「慈悲」が説かれる.交換様式という観点から見れば,それは純粋贈与(無償の贈与)である.すなわち,それは交換様式ABCを越えるDなのである.」
という分析が面白かった.


#NO ****はキンドル版のページ数.


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