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なぜ、ビーグルなのか

グーの母ルーは当時の勤務先近くのウェスティのブリーダー出身。ルーが3歳のときマクラーレンマキコ犬舎のオスとの間にグーが生まれた。

生まれたてのグーと母の顔のルー



アメリカチャンピオンだったグーの父犬は、ブリーダーによれば穏やかな仔、母ルーは活発だったが賢く、モデル犬として活躍もしていて特に飼育で困ったことはない。
多産のビーグルなのに1頭だけの出産で、グーはきょうだいとの触れ合いを知らずに育った。
わたしは幼少期から犬とともに家の中で暮らす環境で育ち、グーを得るまで犬の躾などで困った経験はなかった。

母ルー、ルーの8歳上のメスのビーと育ったグー、きょうだいは居なくても無事成長すると思い込んでいた…

8ヵ月を過ぎた頃から、激し過ぎる吠え、そして噛む行動が現れるように…今まで育てた仔犬たちのことを思い出してあれこれ対処するも、状況は悪くなるばかり。お散歩もまともにできないグー。

わたしはインターネットで市内の犬のプロを探し、見つけた人にレッスンを依頼。初めての犬のプロとの出会いだった。

知識も経験もなくアドバイザーも居ない素人のわたしは、誰に頼んでも犬のプロなんだからあっという間に問題を解決してくれるものと信じていた。

問題行動を治したくて、モデル犬の仕事も引き受けた
周囲に迷惑をかけないか、現場が終わる頃にはヘトヘトだった

プロに教わる内容は新鮮で確かにグーのマナーは良くなった。しかし肝心の攻撃的な吠え、噛みはいっこうに改善しない。わたし自身はもちろん同居犬や家族が頻繁に噛まれ、グーを叱責し自分を責め、涙する日は少なくなく、ついにはグーを可愛いとは思えなくなった。

自分で選択して自家繁殖した犬、愛せなくても責任は果たさなければならない!その一念でプロの指導を仰ぎ続けた。

やがて同じプロに習っていた生徒さんが訓練競技を始めたので、見学などに行くうち、訓練競技をやればわたしのスキルも上がるしグーも言うことを聞いてくれるようになるのでは?と考えた。


ルーとグー

グーとは訓練競技もうまくいかない。週に1回、他の生徒さんとグループレッスンを受け、その指導にそって自主練。
毎日毎日コツコツと自主練するもレッスンではほとんど褒められることはなく、ダメな点ばかりを指摘される。
「グーママは褒めると何もやらなくなる」「グーだけが(噛むことが)治らない」と他の生徒の前で言われとても悲しかった。一生忘れることはない…しかしそのときのわたしにとって犬のプロの指摘は絶対で、100%受け容れるしかなかった。

グーという自分の犬を見て感じる自身の感覚よりも、プロの発言とそれを受け容れ実行することのほうが重要だった。
今思えばそのプロのスキルも経験も、グーのような犬を指導するレベルに達していなかったのだと思う。

グーは6歳になっても噛む行動が治まらず、訓練競技でも結果が出ない。「ビーグルだってコツコツ努力すれば、きっとできる」その信念は崩壊しかけていた。

なぜできないのか、なぜグーは噛むのか。

躾にしろ訓練にしろ、教える方法が間違っていれば、いくら毎日コツコツ努力しても成果には結びつかない。それに気付けなかった。
でも、初めて犬のプロに習うそこらの普通の飼い主が自力でその答えを導き出せるとは思えない。

それでも、わたしはそのプロに習い続けた。この人が居なければグーは決して良くならないと思い込んでいた。

そんなわたしとグーを見ていてくれる人が居た。努力してもしても成果が出ないことが周囲にも伝わるほど悲壮感が漂っていたのではないかと思う。そんな人はひとりではなく、その人たちは「先生を替わったほうがいい」と強く勧めてくれた。

しかしそれでもわたしは、なかなか踏み切れなかった。その優しい人たちに相談を重ね、勧められた新しいプロと面会し実際にグーを見てもらい、そのとき指摘された内容で心が決まった。

「持って生まれた性質は変えられないことはあります。飼い主さんのせいではないですよ。」

ママのやり方が悪いから 
ママがちゃんとしていないから
ママがグーを見れていないから

そう言われ続けていたわたしにとっては救いでしかなかった。

噛む行動は治らない、そう受け容れることでもう誰とも迎合しなくていい、わたしとグーだけが幸せならそれでいいんだ、とふっ切れて楽になった。

グーに教えることは、もちろん噛んではいけないということ、そしてわたしの言うことを聞く耳を持つこと。
訓練で教えているコマンドをしっかり聞くことができれば、噛みつきたいという衝動を一瞬躊躇する時間を作ることができるのではないか。
そう考えて訓練に対しても取り組む意識が変化し、新しい犬のプロによる指導のもと、やがて訓練競技でも成果が出るようになってきた。

訓練のご褒美のおやつを口に押し込むだけでなく、グーと一緒に地面に倒れ込むまでくたくたになって遊ぶ、その楽しさを揃って覚えた。グーはもう7歳になっていた。

まず教えられたのは力いっぱい真剣に犬と遊ぶこと

閑話休題

ここでようやく「なぜ、ビーグルか」というテーマについて。
家族が好きで実家でビーグルを飼っていた。わたし自身が結婚・独立、ペットとしてビーグルを迎え3頭目がグー。問題行動でつまづき、躾から訓練へとコマを進めることになった。

ドッグランや旅行へ行ったり、犬仲間と一緒に出掛けたり、想定していたいわゆる普通のペットとしての飼い方はできないグー。そんなグーと訓練競技で成果を出し、「ビーグルなのにすごい」と評価されることは嬉しく、居場所を見つけた気持ちになった。

グーが3歳で訓練競技をはじめたとき、母ルーは7歳になっていたけれど、見よう見まねで訓練をはじめたらあれよあれよという間にグーを追い越し、トレーニングチャンピオン獲得。

そもそも指導が間違っているので母ルーも賞味期限は短く、あっという間に成果は出なくなってしまうのだが、それでも2頭のビーグルの訓練を通して「みんながやらないことをやって成果を出す」ことにやりがいを感じるようになった。

そして成果が出ないながらも繰り返し訓練競技会に出陳するうち、だんだんと知り合いが増えていった。前述した先生を替わることを勧めてくれた人々もそうだが、犬のプロの知り合いも増えていったのだ。

犬のプロはいわゆるペットとしてのビーグルの躾の難しさや扱いにくさを知っている。他の犬種との相対評価も持っている。アマチュアとの差異はそこにある。
ビーグルを知っているプロの方々に「ビーグルなのにすごい」と評価していただくことは、グーとたった2人で努力してきたわたしにとってとても嬉しいことだった。
その方々はまた、グーが噛むことで悩み、対策を続けていると告白すると、ますます褒めてくださるのだ。
頑張っていて良かったと救われた気持ちになった。

グーはといえば、すでに9歳になっていたが新しいプロの指導のもと、訓練競技会でもコンスタントに成果が出るようになった。なんと、競技会のたびに表彰台に上がれるようになり、ついには本部展という大きな大会で1席を取り、憧れだった「決定戦」に進出を果たした。


夢だった1席

1席を付けてくれたジャッジに「人と犬、それぞれの仕事がきちんとできていた」と感激の講評を受け、グーを得て以来ずっと続いていたわたしの緊張の糸はそこでいったんプツンと切れた。やりきった、ビーグルでも、グーでもできる。導き方が正しければ、できる。

訓練をはじめたときは夢の夢だったグランドトレーニングチャンピオンのタイトルも母ルーと揃って獲得した。

シニアとなった2頭と訓練を続けコンスタントに成果は出せるようになったものの、再度トップには届かない。2頭とも成犬になってから躾~訓練と進んできた。犬のプロやセミプロのようなアマチュアの知人たちのように、パピー時から訓練犬として育てたら、どんなビーグルができあがるのだろう、ということに興味を持つようになった。

犬のプロが自分の訓練犬として選ぶのは、ほぼほぼ訓練性能に優れた犬種。
ある意味広告塔の役割を担うわけなので、当然である。
ビーグルを自分の訓練犬として選ぶのは、わたしのようなアマチュアの変わり者だろう。

藤田りか子さんの犬のグループ分けの話し
https://www.freestitch.jp/mblog/19566

辛い病で母ルーを失い、10歳になったグーとわたしの元に来てくれたのは、群馬のラウレア犬舎出身のメス、ルル。
知り合いになったカメラマンの中道さんの愛犬ぼすけを見て、同じ犬舎のビーグルが欲しいと思ったのがきっかけだった。
ぼすけはわたしが知っているブリーダーのビーグルとは少し違う、パピーなのどこか達観したような大人っぽい雰囲気を持っていて心惹かれた。


グーとルル

ビーグルは訓練系とかショー系とか、そのような繁殖はされていない。ビーグルで服従訓練をしようと考える人など居ないので、ニーズが存在しないのだろう。

わたしのところに来てくれたルルは、ブリーダーの大河原さんにどの仔犬にするか決めていただいた。わたしの希望は、
メス(同性より異性同士のほうがグーと上手く行くと考えているので)
噛み犬でエネルギーに満ち溢れている兄犬グーと張り合えるタフネス

ルルはまったくもって希望通りの性質を持ったビーグルだった。グーと五分五分に渡り合えるタフな性質は、そのまま訓練にも向いているといえた。

訓練に向いているな、とは思ったが、そもそもビーグルである。うちに来たその日から訓練競技を意識して育てたが、お手本となるゴール像がないのだ。

他犬種の理想的な動きや導き方などを参考に、先生にも相談しながらのルル育てが始まった。目標は、「オビディエンスⅠでメジャーポイントを獲る」

兄犬グーと同じ家庭犬競技を入り口にし、オビディエンス競技も意識しながら丁寧に訓練を積み上げた。苦労したポイントは先代2頭と同じ、ビーグルの自立心の強さだ。有体にいえば、言うことを聞かないのだ。ビーグル本来の仕事が何かを考えれば当たり前の本能だが、完全否定してしまえば心のないロボットになってしまう。犬と一緒に目標を成し遂げたいのでその選択はない。

成犬になってから訓練をはじめた先代2頭は、従う心を育てるのも大変だったが、ポジションを教えるのに難儀した。というかグーに至ってはまだまだ教えているさ中である。
その反省からルルには、パピー時から食べ物を使ってポジションをコツコツ教え、訓練というより「くせ」あるいは「習慣」として定着するよう導いた。

訓練競技会デビューは決して急がないと決めていた。問題行動の矯正から取り掛かったグーに比べれば、ルルの時間はたっぷり過ぎるほどあったからだ。
3歳で家庭犬競技デビュー、その後1年間で1席を4回取り、そのうち2回理事長賞、本部展でも理事長賞を獲得し、先代2頭で達成できなかったことを全てやり遂げてくれた。

ここで確信したのは、ビーグルでもパピー時から目標を持って正しく導けば、ある程度のところまでは行ける!

先代2頭との訓練競技を見て「頑張っていますね」と声をかけてくださった犬のプロが、今度は「ビーグルで素晴らしい成績を取るのはただ1人」と言ってくださった。

ルルは家庭犬競技を卒業して、FCI競技でメジャーポイントを獲るための目標であった「オビディエンス」に挑戦、無事ポイント獲得した。
競技デビューして2年、ここまで課目の失敗はゼロだったが、オビディエンスで1つ、初めて課目の失敗も経験した。


本部展で理事長賞をいただく

他の訓練犬種同様個体差・教え手のスキルによる差はあれど、ビーグルでも競技会でそこそこ渡り合える犬は育てられる、ということを3頭のビーグルたちに教えてもらった。

自身の年齢を鑑みるとパピーから育てる訓練犬はあと1頭というところだろう。集大成として訓練性能に優れた犬種を経験してみたい気持ちもあるが、やはりビーグルを選んでしまいそうである。

ルルとグー


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