アイドルマスター シンデレラガールズ

 針を回し時を刻む仕事についてからどれだけ経っただろうか。
 人は私を見てそれを図るが私には私を見る事が出来ない。この針を正確に回せと言われ、ただそれを続けている。

 この場所に設置されるまでは私は仲間が沢山いた。
 皆同じ方向を向き、同じタイミングで針を回していた。中にはズレている者が居たし、そもそも針を持たない者もいた。
 しかし、私達の役割は同じで、時を刻むという役目を貰いこの世に産まれていた。

 ある日、自立歩行しているぬいぐるみを見た。どうやら大人の男性がそれを使役しているようだ。小さいが大きな体のぬいぐるみは男性の回りをくるくると動き、まるで動物がじゃれあっているようだった。
 男性が私達が並んでいる所まで来ると、値踏みを始めた。ここに来る人間は皆そうだ。そうやって値踏みをし、仲間を攫って行く。何度も何度もそういった仲間を見て来た。
 ただ、どうやら私は攫う価値がないのか人に選ばれる事は無かった。ここでは私より古い物の方が少ない。今回も私は選ばれることはないのだろうと思っていたが、うろうろとしているぬいぐるみと私の目があった。どうやらそれは少女のようだ。それもそうだ、ぬいぐるみは自立して動く訳が無い。
 少女は私をじっと見つめてくる。その視線はまるで白羽の矢だった。

 少女が男性の手を引っ張り私の前まで連れてくると、男性はやさしく私を持ち上げた。
 気が付くと、私はここで時を刻み続けていた。
 ぬいぐるみの少女は男性や女性達とじゃれあっている。暇を持て余すと私をじっと見て来る。
 そんな生活を続けていた。

 ある日、私の三本ある内の一本針が動かなくなった。仕方のない事だ、私がここに来る前から私は針を動かし続けている。こういった事はよくある事だと言い聞かされてきた。そしてそれが終わりの合図だという事も。
 最初に気が付いたのはやはりぬいぐるみの少女だった。私の針が動いていないと、あの時一緒に私を選んだ男性を呼んできた。聞いていた通りだ、男性は新しい物をと言った。すると、ぬいぐるみの少女は私を見つめ涙を流した。私はまだここに居ても良いのだろうか。私は時を刻む事すらできなくなったのにだ。

 男性は少し困った表情をしたが、直ぐに笑顔になり少女の頭を撫でた。
 私を持ち上げると背中の基盤を開けた。
 一瞬目の前が暗くなった。

 光を取り戻した際に目の前に居たのは、笑顔で私をじっと見つめるぬいぐるみの少女だった。
 あの時、私をじっと見つめていた笑顔の少女だ。
 針が動いていた。私はまだここで仕事をし続ける事が出来る。幸せという物がどういう物なのか、その時私は理解した。

 私はそれからまた同じ場所でずっと時を刻んでいる。
 ぬいぐるみの少女は稀に見た事もない恰好になっているが、笑顔は変わらず男性や女性達とじゃれあっている。

 家族とはこういう物なのだろう。
 そう私は思った。

 私は少女を見守りながら私はこれからも時を刻み続ける。
 それが私の仕事だろうから。

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