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001 【 遊びの果てに辿り着いた、遊びの向こう側 】 喫茶ピーコック 上芝英司


喫茶ピーコック3代目店主 上芝英司(うえしばえいじ)

・1979年 大阪府豊中市服部生まれ
・2003年 24歳の秋、家業である「喫茶ピーコック」に3代目店主として入店
・2011年 服部天神界隈の商店会が加盟する「服部商店会連合」の活動に参加
・2011年 服部天神宮での「古本祭り」や、「第1回 服部バル」などの企画に参加
・2016年 豊中産レモンでこどもレモネードスタンドを開催する「豊中こどもれもねいど」主宰
・2017年 地場の野菜を子供たちが販売する「八百子(やおこ)」運営
・2018年 こどもレモネードスタンド×銭湯「豊中れもん温泉」企画
・2019年 服部天神駅前の歴史写真展「服部モトマチ展」企画
・2020年 子供が店員さんの喫茶店「キッサニア!」、ろう学生と「手話カフェ」企画
・2021年 店主視点のローカルZINE「ピーコックマガジン」創刊

現在は喫茶店を営む傍ら、地域活動や相談・コミュニティ運営など新しい形での「地縁や知縁」を育んでいる。


■ 喫茶ピーコック

・大阪府豊中市服部元町1-1-6

・7:00〜19:00/日曜定休

・WEB https://peacock64.com/

・facebook https://www.facebook.com/ueshiba64/


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2016年から3年間活動した「豊中こどもれもねいど」はお子さんとの遊びから始まったものの、地場野菜を販売したり、銭湯でレモネードスタンドを開催したりと地域の発掘にも繋がった。また、服部の古い写真を展示した「服部モトマチ展」は仲間たちと作り上げ、地域の様々な世代の方が足を運び大盛況。


気を引くネーミングと面白そうな企画に仕立てるのは「まずは興味関心を持ってもらう」ためだそうで、遊んでいるように見えてテーマは本質的、そして「とにかく人の力を借りて縁(えん)を育む」こと。また、活動疲れしないコツは「自分ひとりでやろうとしない、楽しめないことはやらない」のだそう。

一見、多彩に企画を立ち上げる活動もレシピはよく似ていて、「周囲から聞いた悩みや課題をできるだけ楽しく・面白く、みんなが参加したいと思えるような見栄えにデザインする」。


たくさんの人と関わり、繋いでいくうちに「地域のハブ」や「相談役」と言われるようになった。


年中そこに居て、お茶を出しながら話を聴き、人を繋ぐ。
遊び心の裏に見え隠れする「人との向き合い方」が、頼られる理由なのだと思う。


クロストーク帯

【 SALVIAN CROSS TALK 】


編集長 市橋がゲストに聞きたいことを深掘りしていく対談。

ふたりの関係性だからこそ話せるテーマや切り口をお届けします!


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地域に点在するヒトやコトを絶妙なバランスで繋ぎあわせて、新しい遊びを発明する達人。

柔軟な思考と独特の視点で個人や地域の活動をサポートしたり相談に乗る、その発想の原点や喫茶店の店主としての役割を聞いた。


【 ソーシャル=社会的課題にアプローチ 】

市橋:上芝さんの活動が「ソーシャル」だなと思えるのは、単なる遊びではなく「結果的に誰かのためになっている、次にパスしている」っていう恩送りみたいな循環を生み出していることが面白いんですよね。

上芝:循環もそうだし、「転用」みたいなものは意識してるかもしれない。川を水が流れることで水車が回り、その結果「小屋の中で餅つく」みたいなハックは好きかなぁ。

市橋:その最終的なアウトプットが社会に向いているというか。「VR親戚(※1)」もみんなでご飯を食べるのが目的じゃなくて、繋がりを生むことへの手段になってる。

上芝:うんうん、あれは「非血縁コミュニティの重要性」を説いてるよね。やっぱり偶然ではなくデザインとして、課題やテーマに流れるように設計してるフシはある。

市橋:一見、ソーシャル活動って深刻なテーマに向き合って疲弊したりっていうイメージを持たれがちなんですけど、上芝さんは軽やかに自分が続けられる範囲で周りを巻き込んで誰かを支えてる感じ。そういう人が増えれば面白いなと思いますよね。

上芝:「実演している」っていう見せ方は意識していて、自分にしかできないことよりも「レシピ」を公開して、誰でも扱えるものにしたいっていうのはある。仮説、検証、解説までを一括りで見せるっていうかね。自分にしかわからない感覚で行動するんじゃなくて、言語化したり抽象化して、転用・再現性を持たせることでプレイヤーが増えるんじゃないかと思って。

市橋:いいですね。一人で全部を背負うとなると回らないから、それぞれの守備範囲で役割分担ができるほうが続くし。

上芝:「他の人が真似出来ない」ことを続けるよりも、「やってみた」とか「行ってきた」を公開するほうがみんな救われるかなぁと。あと、「支援」や「寄付」っていう大きなテーマじゃなくて、「おかず1個ちょうだい」くらいのノリで融通し合える空気感を作りたいと思ってるのよね。その最たるものが「太郎の托鉢マラソン(※2)」かな。あれはしんどかった!笑 シンプルに「お金ちょうだい!」って言い続けるっていう。まぁでもああいう実例を作ることで「やっていいんや」っていう雰囲気ができるから。

市橋:ネットとかで探せばいるかもしれないですけど、身近なところではなかなかいないですもんね。笑 そしてそれを自分に使うんじゃなくて、また還元していくっていう。


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※1:VR親戚 たまたま居合わせた人たちと家族のような行事を共にするイベント。季節ごとに手巻き寿司やそうめんを食べた。


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※2:太郎の托鉢マラソン 大阪マラソンのチャリティーランナーとして50人以上の人に支援を募り5万円を集めた。達成したらコスプレで走るというハードルを実況中継していた。


【 出世払いで融通していく経済を 】

市橋:上芝さんって「地域に点在しているパーツを組み合わせて面白いものを作る社会実験」みたいなことを繰り返してると思うんですけど、これから先に何か考えてることってあるんですか?これからやっていきたいこととか。

上芝:んー、それね。ちょっと難しいけど、「交換経済」ではなく「融通経済」をやりたいと思ってるんよね。お金を介しても介さなくても、とにかく「即時交換」じゃなくて、「出世払い」とか「ある時払い」みたいな世界観があっても良いんじゃないかと思う。そういうのを当たり前のようにできるというか。

市橋:「お腹空いてるんやったら今日は食べていき!」みたいなやつですよね。

上芝:そう、それそれ。笑 地域の子供はみんなの子!みたいな。団体競技・チーム戦「僕ら大丈夫なんで!って言おう」的にさ。日本とか社会って言ってしまうと大きすぎるから、とりあえず身近な手の届く範囲で始めようっていうのかな。

市橋:「シェアおかず部(※3)」とかまさにそれですよね。

上芝:うんうん、そんでそれを見せていきたいっていう気持ちが強いかな。自分たちが良かったっていうのもあるけど「こういう仕組みでやってます」っていうところまでをセットで。

市橋:それぞれのコミュニティでハブになる人がそれを転用していくと楽しくなりますよね。


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※3:シェアおかず部 近所の友達とおかずをタッパーに詰めて交換し合うライングループ。「タッパーは空で返さない」というルールのもと無限に交換が繰り返されていた。


【 地域のサロンとしての役割 】

上芝:結局は僕が駅前に毎日12時間くらい居座ってる意味とか店があるとかって、言葉を交わすキッカケになる場所なんよね。本とかチラシとかCDとか雑誌とかピーコックマガジンとか、コミュニケーションツールやしね。昔で言う「サロン」とか「カフェー」ってそういう場所やったから。

市橋:店の持つ磁力ってやっぱりあって店主や常連のキャラもあるんですけど、上芝さんはそこにソーシャルな要素が加わってくるから謎な繋がりが山ほどあるんですよね。笑

上芝:人を繋ぐとか誰かのスキルをマッチさせるとか、シンプルに楽しいよね。

市橋:このサルビアンマガジンもそうですけど、やりたいと思って相談した時にあちこちからパーツを集めてくれるというか、一気に動き始める感じがすごい。


【 局地的ビッグデータ=地縁と知縁 】

上芝:誰かの相談から始まることもあるし自分の脳内で思考実験もするしネットの記事でもそうやけど、ストックしておいたそれをビックデータのように集めておいて必要な時に脳内検索かけるみたいなことやってる。そういう設計図みたいなの覚えとくのも得意なんよね。

市橋:それが参考記事じゃなくて、実用的に引っ張ってこれる状態なんですよね。「そういえば○○さんが~でこんなことやってたよ、」みたいな。実例集・モデル的な。

上芝:そうそう、自分ひとりで動くには限界あるから、その実例をレシピとか数式レベルにまで昇華させてストックする。やっぱりね、こどもれもねいど(※4)で学んだ気がする。可能性は見えてるのに自分のリソースが足りないっていう事が多かったから。

市橋:なるほど、そこでの苦労があったからこその方程式なんですね。

上芝:今なんか、誰かの相談乗ってる時にもう新しい数式を編み出したりしてるからね。笑 喋りながらストック増やしてる。

市橋:それの抽象度を上げ下げしながら他に転用しているっていう。

上芝:そうそう、公式で「農地」の部分を「古民家」に変えたら出てくる答えは違ってくる、みたいな。


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※4:豊中こどもれもねいど こども達と一緒に豊中産のレモンでレモネードを作り、その販売収益の半分をお給料、もう半分をこども食堂に寄付する活動。地域農業の紹介や職業体験など様々な要素を盛り込んでいた。


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