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70年一緒にいるということ②

前回の続き。

木曜日。早めにいろいろを済ませて、仕事用のパソコンも持ち込んで、夜は早々に祖母の部屋に入る。夜、寝られなかった分、お昼はわりとゆっくり寝ていた祖母。心配していたよりも過ごしやすそうで安心していたのだけれど、11時頃、トイレに行きたいと起き上がったところで気分が悪くなり、すぐに横になったのだけれど呼吸に音が交じるようになる。やばい、と思う。意識はあるし、呼びかけにも答えるけれど、しばらくは呼吸が苦しそうで呻いていた。これはいかんと思い、主治医に連絡しようとして母に止められる。

いや、でも、と思っている間に(と言っても10分くらいはあったと思うけれど)落ち着いたのか、祖母は見る間に眠ってしまった。

楽そうだけれど、あんまり簡単に眠ってしまったのが不安で鼻の下に指を充てる。息をしている。音はしないけれど、そんなに細くもないし大丈夫そうだ。本当に眠っているだけみたい。慌てて電話しなくてよかった、と思い、私はソファで待機、母は自分の部屋で寝ることにした。母は楽そうにしている祖母の様子を見て安心したのか、今日は大丈夫じゃないかなと部屋に戻っていった。実際はその1時間後くらいに祖母は呻いて目を覚まし、朝までの間、少しうとうとしては呻いて体位を変える、を繰り返していたのだけれど。

そして朝。4時頃に母がやってきたので、夜中の様子を話す。交代。私は1時間ほど眠って母が朝食の準備、私はまた祖母のそばに。朝になって私と母が二人で話しているのを聞いたら安心したのか、祖母はあぁよく寝ているなあという感じだったのに、ふんわり目を覚ました。起き抜けなのに笑っている。

聞くとすごく楽なのだという。確かに顔を言葉もはっきりしているし、朝ごはんはいらないけれど、どこも辛くないし、気分がいいと言う。どうやら楽しい夢を見たようだった。

軽く水分を摂取した後、もう少し寝るわ、とすぐに横になってすうすう寝てる。早い。それを見て、私たちはごはんを食べて、母はもらった西瓜の苗を植えてくる、と畑に出かけていった。私はパソコンを抱えて仕事を始めたのだけれど、1時間もしないうちに祖母が呻きながら目を覚まし、吐きそうだから起こしてくれと言う。起こすと、また口と目と鼻から水分が溢れてきた。楽だったのは一瞬だったな、気を付けないと思っていたら、気分が悪いと言い出し、すぐに横になる。呻きながら呼吸している喉から音がする。

これはいけないと思い、すぐに看護センターに連絡した。先週、主治医の先生が申請してくれたので、在宅看護を受けられるようになっていたからだ。月曜日に申請のために看護師さんが来てくれた時は、まだ自分で歩いてトイレに行ってごはんを食べてお風呂にも入っていたし、特に辛いこともなくて快適に過ごしていたのだけど、先生が先に手続きだけしておけばいいよと手配してくれたので月曜に手配がすんでいて、連絡先ももらっていた。

この時点で朝9時過ぎ。電話をするとすぐに出てくれた。息に音が交じっていることを話し、気道の確保など、なにか気を付けることがないかと聞く。うめき声はおばあさまですか、と聞かれる。はいそうです、祖母です。窒息したりしないように、注意点を聞きたいんです。看護師さんは状態をヒアリングした後、これからすぐに行きますね、と言ってくれた。15分も経たないうちに看護師さんがやってきた。

痰が詰まっている可能性があるからと吸引器を持ってきてくれて、使い方を習い、まだ必要なさそうで考えてもいなかった、口の中を掃除するチュッパチャップスのようなスポンジをもらう。これで少しずつ水分補給もできます、と言われてほっとした。音がするのは喘鳴が始まっているからで、見た目ほどはご本人は苦しくないですが、詰まっているようなら吸引してください、これから音が大きくなっていくと思います、と言われる。まだ何もしてもらうことはないかな、と思っていた月曜に決めた、今日の午後の訪問は、そのまま来ていただくお願いをする。

帰り際、紙おむつはありますか?と聞かれた。祖母は基本、自分でトイレに行ってたので、オムツではなく、パットを入れた紙ショーツを使っていた。今はないのでまた買いに行きます、と答える。その方がいいと思います、と看護師さんに言われた。

看護師さんが帰ると少しして、祖母はうとうとし始めた。楽になったみたいだけど、眠る時はあっという間に落ちていく。体力が落ちているなと思った。

看護師さんと入れ替わるようにして母が畑から戻ってきた。看護師さんに来てもらったことを伝えて、吸引器の使い方を説明しながら、この様子じゃ覚えられなさそうだなと思う。医療機器っていざ使うとなると緊張するものだよね。見慣れないし、扱いも難しい感じがする。で、子どもの鼻水の吸引みたいなものだよね、と言ったらちょっとホッとしていた。

介護士さんから電話があり、14時に主治医の先生が来てくれると言う。祖母が昨日から薬を飲みこみにくくなったので、介護士さんに相談したのだけれど、先生に伝えてくれたらしい。母がおむつはどれを買ったらいいか分からないんですが、と言ったら、ではまた手配しますねーと言ってくれた。

どうしても今日中にすませておかないといけない用をしに母は外出。祖母はお昼すぎまでよく寝ていた。なぜかこんな日に限って人がよく来る。母が畑から戻って再び外出した10時頃からの2時間あまりで3回のピンポーン。途中、祖母がうなっていたこともあるので、気がもめる。誰かと出たら、一人はセールスで一人は親戚のおばちゃん。祖母に、と大きなイカを3匹と30㎝くらいあるお頭付の魚を差し入れてくれた。いつもなら有難いところだけれど、とても魚をさばく気にはなれず、半ばウワの空で世間話をする。祖母の調子を尋ねられたけれど、この人は分家のお姉さんで本家より先に症状を言うわけにもいかないなー、誰かに話されて電話がかかってくるのもかなわんし、と思ったら正直に答える気になれず、言わなくてごめん、と心の中で手を合わせつつ、まあまあだよー、と返事を濁す。

3回目のピンポンは看護士さんだった。事務所で話が出たらしく、近くを車で通った看護士さんが積んであったから、とオムツと吸水パットを持ってきてくれた。なんだかひっきりなしに来客があるようでちょっと感じ悪く玄関を開けてしまったことを即後悔。自分一人のペースで動いてしまう癖が、こういう時は止めようもなく顔を出してしまう。反省するとそれだけでツライんだけどw、とにかくごめんなさい。

お昼頃に母が帰宅。続いて仕事に行っていた父も帰宅。父は、母ができれば早めに帰宅してほしいと伝えたので、お昼で切り上げてきたのだと言う。14時にレンタルベットと先生が来るので、祖母の部屋の準備をする。枕元の襖を外そうとしたんだけど、なかなか外れなくてガタガタ音がしてしまい、うるさいかもなーと思いながらまだガタガタやっていたら案の定、祖母がふーんと言った。やっぱりうるさいらしい。ベットが来ることは言ってあったので、入れやすいように外してるの、うるさくてごめん、と謝るとまたふーん、と祖母。ここだけ切り取れば、普通の会話。

14時。レンタルベットがやってくる。大きなビニールにきちんとパッケージされていて、人が変わる度に手入れをしているんだなあとすぐにわかる。レンタル屋さんは大変だ。3人がかりでベットを組み立ててくれた。

そうしている間に主治医の先生が到着。祖母におばちゃーん、と呼びかけて調子はどうかと聞く。お客さんがいるせいか、祖母の状態は落ち着いていて、さほど苦しくもなさそうだ。さっきまで少し、呻いていたのに、人前にいる意識ってすごいなと思う。先生に聞かれて、うんうんと首だけで返事をしている。言葉が出にくいみたい。この日はすでに言葉が片言になっていて、考えないようにしていたけれど、ちょっと不安だった。

ベットが仕上がりました!とのことでみんなで祖母を移動することに。なぜか主治医の先生(還暦はけっこう前に過ぎている)も一緒に、みんなで祖母を新しいベットに移動する。祖母が起き上がりたいと言うので母が抱きかかえようとしたら、先生が「これで起き上がればいいんや」と言って上半身をリクライニングしてくれる。も、上げ過ぎたのがちょっと苦しそうにしたので慌てて角度を下げる先生がなんだかほほえましい。診察と問診。血圧が朝よりも下がっている。先生はおばちゃん、このベットは最新式やね!また来るからねーと帰っていった。

玄関への見送りがてら先生に確認したら、そうね、そんなに長くはないと思います、と言われた。具体的な数字がないから、もしかしたら先生と私たちで思っている期間に大きな違いがあったかもしれないけれど、そうだよね、と思う。やっぱり、そうだよね。

書こうと思っていたことまでいくのに字数が増えすぎちゃってるけれど、ついでなので最後まで。続く。

#祖母に腫瘍が見つかりまして

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