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トントン、ピリピリ

ワンコと双子の猫たちの違いは多々あれど、印象的なものをあげるとしたら、たとえば心臓の感じ。腕に乗っかるような形で抱っこすることが多いのでよく分かるのだけど、心臓の鼓動が直接、腕に伝わってくる。筋肉質でちょっと大きなワンコからは感じられない感覚だ。

トントン、トントン。それとピリピリ。

ピリピリは心臓に限ったことじゃなくて、体の別の場所でも感じるのだけど、心臓に触れている時が一番、わかりやすい。腕に伝わってくるリズム。トントン、そして電気みたいな微細なピリピリ。子猫たちスペシャル。

他にも、見惚れてしまうことなんかもたくさんある。たとえばあくびをした時の口。小さい口をぐうんと開けて、あくびする。その時に見える口の中があんまりきれいで、ほうぅっとなる。小さい口、小さい歯。すごく小さい。小さいのに、美しくて、きちんと機能していて、ああすごいな、と思う。ごはんを食べた後はごはんの匂いがするけれど、でもそんなに強い匂いじゃなくて、いろんなことが滞りなく動いているな、と分かる。

若さ故、ですな。

来た時はお尻からうんちが漏れていたおひげ。最初の数日は下痢をしていたし、ごはんも食べなかった。その後、おでこに鼻水が出るようになって、もともと出てた目やにも猫風邪の症状だったのでは?ということになり、点薬しているのになかなか治らず、もしかして鼻が悪くなってしまったのでは?(一生、鼻が利かなくなることもあるとお医者さんとか団体の人に言われてビビっていた)と焦ったこともある。二匹ともなぜかいきなり目が腫れてお岩さんみたいになり(ちょうど同じころ、里帰り中のワンコも目に傷がついてエリザベスになっていた!)抗生物質を点眼してた時期もあった。

聞けば引っかかりのない子はずーっと元気、ちょっとつまずくと病気がちになるそうで、これまでうちが飼ったことのある猫はみんな元気だった。だから大病ではないにしろ、暇なくあれこれ出てきた双子の猫たちには面くらうことばっかりだったけれど、でも、この子達の体はすごくしなやかで健やかで、ちゃんと大きくなってきた。体のすべてが本当に美しい。

日々を一緒に過ごしていれば、それだけですごいな、とよく思う。チビ猫たちの口を見る度に心がフルフルっとなるのは、こんなに小さいのにこんなにきれいな口をしている猫たちが、本当に美しいと思うからだ。でも一方で、いろんなことを言われてウロウロする私もいる。真菌にかかってるかもしれないから通院してみて、と団体の人に言われてお医者さんに行ったら、過保護なんじゃない?と言われてモヤっとしたのは、誰のせいでもない、私がウロウロしていたからだ。今日の里親探しの会でも、他の子と比べて体重が軽いとか、小さいとか思ってる自分もウロウロだったし、良くも悪しくも世界が一気に広がるのは、社会と交わっているからこそ。そしてウロウロしている時、私の中から子猫たちの完璧さは遠ざかっていて、些末ばかりが目について、一人で勝手にウロウロしてる。

うちの猫だったらたぶん体重も計ってないし、だから食餌量で他人の目を気にすることもなかったけれど、預かりだから言われれば気にする。標準を基準にするからだ。

でも食べないものは食べないし、お医者さんに言われたように個体差もある。標準はあくまでも標準。そんなことをまさか猫たちから突きつけられるとは思ってもみなかったけれど、猫たちのひとつひとつを見れば、それ以外のなにもない、ということが分かる。

生き物は美しい。わけても伸びゆくイノチは別格で、もうここまで大きくなったから心配しなくていいよーとお医者さんに言われるまでに成長してくれたことは、どんな経緯であれ、感謝と感動でしかない。

いま、里親探しの会から戻ってお昼寝から起きてきたおでこが、久しぶりに私の膝に乗ってきて、甘えている。賢いおでこはこの二カ月の間に様々に成長してきた。最初はものすごく甘えん坊で、男の子だからだねーなんて言っていたのに、おひげが抱っこ好きになったら遠慮がちになり、くることが少なくなった。でもまた最初に戻ったみたい。もう少しで私たちとの生活が終わるってわかったのか、それともなんの関係もないのか。

どっちでもいいけれど、でも猫たちのしなやかな感性は絶えず動き続け、感じ続けている。私たちの感性も動き続けていて、いたるところで響き合いながら共存してる。

子猫たちの心臓のトントン、ピリピリをこれから先、私がこんなに存分に感じることはもうないかもしれない。そして私はそれを忘れてしまうかもしれなくて。それでも猫たちから感じたことはずっと私の中に残っていく。イノチのすごさはどんなことからも感じることができるけれど、伸びゆく存在からの受取りは格別だ。

君たちが私の腕に全身を委ねない限り、トントン、ピリピリは感じられない。二カ月前には想像してなかったけれど、体験するどんなことも特大スペシャルな毎日になってる。私たちのところに来てくれてほんとにありがと。


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