リクエスト断髪小説『新米顧問の理不尽 後編』
リクエスト内容(要約)
小説情報
本文
「道琉、明日は全っ力で応援するね!」
「私も私も! 最近あの先生調子に乗り過ぎなんだよね。道琉は名門清和高校を降しての地方大会進出なのにさ!」
「ほんとそうだよね!」
「先生もテニス部のことを思ってのことじゃないかな」
「部長は優等生だねぇ。ま、道琉なら余裕で勝てるっしょ」
「当然! ストレート勝ちに決まってるでしょ」
部室で着替えていると部員たちが口々に話し始める。不満が募っていたのは私だけではなかったらしい。今ここに居るのは全員二年生で、一年生は今頃コートの後片付けをしていることだろう。
「道琉さ、今日調子悪かったよね? 明日までには戻ってそう?」
真季の冷静な指摘に一瞬ドキリとしたが「なんとかなるっしょ」と軽く返しておいた。
鏡を広げて髪をとかす。部活で崩れた髪のままでは可愛くない。特に前髪は重要だ。前髪をふんわりと斜めに流して、緩く巻いた茶髪を低めのツインテールにして満足したところで帰ろうとすると部室の扉が開いた。「お疲れ様です」と一言告げてから一年生たちが部室へと入ってきた。
適当に「お疲れ」と答えていると黒髪のボブヘアの部員がこちらに近づいてきた。明日対戦することになった村上さんだ。
「あ、あのっ、道琉先輩! 明日のことなんですけど、……」
村上さんは何か言いたそうな顔をしてこちらを見ているがすぐに言葉が出てこないらしい。いきなり対戦するとこになって戸惑いでもあるのだろうか。真面目そうな彼女のことだ。変に気を回していそうな気もする。
「別に変なことを考えなくていいよ。あなたが本気でも負けないから。正々堂々勝負しよう」
「……っ、はい!」
ピシッと音がしそうな直立不動な姿勢で返事をしていた。「じゃあ先に帰るわ」と一言残して部室を後にした。
村上さんには格好つけてみたものの、どこか嫌な予感がして、ずっともやもやしたものが晴れない。負けるはずがないと何度も自分自身に言い聞かせていた。
◇
――翌日
三面あるテニスコートのうち一番手前、部室に程近い一面でネットを挟んだ対角線上の反対側に対戦相手、村上さんがラケットを構えて立っている。ベースラインより後ろでポンポンと黄色いボールをラケットを持っていない方の手でグラウンドに叩きつける。
ラケットトスでサーブ権を取った。部室側のサイドには審判役の小百合とスコア係の二人とそして顧問が、ベースラインより遥か後方にはボールパーソンがいて、反対側のサイドには残りの部員たちが試合を観戦している。その全員の視線がこちらに向いているのを肌で感じる。以前は気にならなかったのに久々の試合で集中しきれていないのかもしれない。
邪念だと振り払うように頭を振り、一つふっと息を吐いた。ふわっとボールを空中へ上げてラケットを上から振り抜いた。
――バァァァン!!
いい手応えだった。相手コートのサービスボックスの中に速いスピードのボールが落ちる。ライン際の際どい場所だ。村上さんは反応できずに打ち返してこなかった。
主審のコールはない。サービスエースだ。
「15-0」
――イケる!
今日はいい感触だと気分が乗ってくる。いい感触を持っているうちにとサーブを打ち込む。コートの右側、左側どちらからのサーブもボールはよく走ったし、コントロールされていた。いい気分のままストレートで一ゲーム目を先取していた。
サーブ権が移った後も順調にポイントを重ねた。真季の指摘の通りバックハンドの精度は欠きフォアハンド主体にはなったものの、経験の差からゲームをコントロールして有利な試合展開へと運んでいった。
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