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断髪小説『カミングアウト』

あらすじ

彼に髪フェチをカミングアウトした。彼に髪を切ってもらうために。

小説情報

文字数  :4,871文字
断髪レベル:★★★★☆
キーワード:カップル
項目の詳細はこちらをご覧下さい。

本文

 「私、髪フェチなの」

 意を決して彼に告白する。冷静に言ったつもりだが心臓はバクバクとうるさかった。

「髪フェチって?」

 その言葉を本当に知らないかのように、首を傾げて聞いてくる。

「長い髪そのものに執着する人もいるみたいだけど、私は長い髪をバッサリ短く切られることに興奮する断髪フェチなの」

 性的な嗜好しこうを自ら告白するのは恥ずかしかった。羞恥しゅうちで体のあちこちに汗が滲む。

「へぇそうなんだ。どうしたんだ?突然そんな事を言い出すなんて」

 ふぅん、それがどうしたのという感じで意に介した様子もなく平然と返された。勇気をかなり振り絞って告白したのに肩透かしをくらった気分だ。

「気持ち悪くないの?」
「特に。誰しも何らか好みというものはあるだろう?俺だって女性に対しての性的嗜好せいてきしこうみたいなものは持ち合わせている。例えば腰のくびれとかな」

 普通に嗜好の一種と捉えているようだった。ある意味彼らしい。

「気持ち悪くないならお願いがあるの」

 本題を彼に告げる決心がついた。

「なに?」
「私の髪をあなたに切ってほしい」



 断髪フェチと気づいたのは高校生の頃だ。きっかけはテレビで女性が坊主にされる姿を見たときだった。テレビから目が離せなかった。

 その映像を何度も繰り返し見た。もっと他にそういう映像はないかと動画を検索したりもした。

 気づけば当時の髪フェチ、特に断髪フェチを取り扱っているウェブサイトは網羅もうらしていたように思う。日々そういう情報を見ている自分は正常ではないような気がして、他の人にはバレないように注意して隠していた。

 だんだん画面越しだけでは物足りなくなり、元々長く伸ばしていた自分の髪をバッサリ短くした。最初は無難に三十センチくらいバッサリ切って肩くらいのボブにするくらいだった。

 数年かけて髪を背中まで伸ばしてバッサリ切る、それを繰り返してきた。一番短かったのは首がスッキリ出るショートボブだった。それも三年ほど前の事だ。

 今では肩甲骨けんこうこつの少し下くらいまで髪は伸びていた。そろそろまたバッサリと切りたくなっていた。

 ただ美容院に行って切ることに飽きてきていた。最後にバッサリと切った時、思ったように短くしてもらえなかったからかもしれない。

 そんな時に偶然、夫や彼氏に髪を切ってもらう動画を見て、興奮した。自分もやってみたくなった。

 できれば耳を出したり、念願のバリカンを使ったりしたかった。それには今の彼に受け入れてもらう必要があった。受け入れられないようなら物足りないが、素直に美容院に行って無難にショートヘアにするつもりだった。



「髪を切ってほしい、ねぇ」

 彼はあごに手をやり、何か思案をしている様子だ。

「ダメ、かな?」
「ダメって訳じゃないけど、人の髪を切った事なんてないからな」
「……」

 美容院に行くしかないかと考え始めた時だった。

「まぁ俺にやってほしいみたいだから、やってみるか」
「いいの?」
「いいも悪いもそうしたいのだろう?」
「うん。バッサリ切ってほしい」
「わかったよ。それでいつやるんだ?」
「明日かな。道具を買ってくるよ」
「はいよ」

 明日、彼に髪をバッサリ切ってもらえる、そう思ったら楽しみで眠れそうになかった。



 翌日、ホームセンターと家電量販店で散髪用のハサミ、カットクロス、霧吹きそしてバリカンを購入した。家に帰ると彼はリビングで寛いでいた。

「ただいま。買ってきたよ」

 リビングの机に買ってきたものを広げる。

「あぁ、髪を切るんだったな」

 そう言って机の上にある道具を見つめている。

「……バリカンも使いたいのか?」
「うん。使ってみたい」
「なるほどな。少し分かってきた」
「なにが?」
「昨日言われてから気づいたんだが、思い出してみればそういう傾向があったよな」

 それなりに注意して隠してきたつもりだった。気持ち悪がられるのが怖かったからだ。彼と出会ってから三年弱、揃える程度にしか髪を切ったことはない。そのくらいでは断髪フェチとして興奮するほどでもなかったので、他に気付く要素があったことに驚く。

「夜のアレ。基本淡白なのに俺が髪を切ったあとはそうじゃなかったな。ただ単にそういう気分なんだろうくらいに思っていたが、確かにそういう性的嗜好があるんだな」
「っ……」

 見抜かれたことに恥ずかしくなる。彼が髪を切ってきた後に感じやすくなっていたのは事実だった。短めの髪型にしてきた時は顕著けんちょだったかもしれない。髪型が変わった彼を見るとそういうコトをしたくなるのは幾度となくあった。

「今日の夜は期待しているからな」

 かぁぁと頬が上気した。きっと顔は真っ赤だろう。



 彼も協力して準備をしてくれた。フローリングの上のに新聞紙を引き、椅子を置く。スタンド式の全身の姿見を椅子の目の前に置いた。

「どのくらいに切ればいいんだ?」

 彼は後ろに立っている。聞かれるだけでもドキリとする。いざ口に出して言うのはやはり恥ずかしくて消え入りそうな声になる。

「……耳が出るくらい短くして」

 彼はニヤリとして「分かった」と返事をしていた。



 おもむろにサイドの髪を持ち上げて耳の上でバッサリ切られた。スルスルとクロスに髪が滑り落ちていく。

――わわっ。本当に切っちゃった

 耳の上まで短くしたのは初めてだった。ジョキンジョキンと後ろからハサミの音がする。耳の後ろも襟足も生え際ギリギリで切られているようだ。時折ひんやりしたハサミの感触が伝わる。

『ジョキ、……ジョキジョキン……』

――私の髪が短くされている

 すっかり耳や首に当たる髪はなくなっていた。

――今までで一番短い

 それを彼がしてくれたと考えるだけで、体の中心にゾクリとしたものを感じる。

「人の髪をこうやって切るのって結構そそられるな。くせになりそうだ」

 彼も気に入ってくれたらしい。彼が手櫛てぐしで髪の間に指を通す。今までとは違って、すぐにサラッと落ちる髪の感触に短くなったんだと実感する。



「まだ長いな」

――長い?

 あんなに切ったのに彼からしたら長く見えるらしい。意外な言葉だった。

「バリカンも使いたがってたし、もっと切っていいか?」

 まだ彼に短くしてもらえる、そう思ったら思わず口に出ていた。

「…うん。もっと短くして」

 彼の口角が上がった。後ろの髪をシャキンと切られる。頭に彼の指の感触を感じる。見えないが切った後の髪の長さはいくばくもないだろう。

――すごく短くされてる

 そう思うとゾクゾクとしたものが込み上げてくる。もっともっととねだってしまいそうだ。

 後ろの髪を短くし終えたのか、サイドの耳の上の髪に触れてくる。後ろの髪と同じように指で挟んでジョキと切られた。

――うそっ!? こんなに短いなんて

 実際に目の当たりにすると衝撃だった。刈り上げと言ってもいい長さだった。彼は私の驚きなんか気にもせず髪も短くしていく。

 サラサラとしている髪はトップ周辺と前髪だけになる。ツーブロックといった感じだ。

「男みたいな長さも倒錯的とうさくてきで悪くないな」

 どこか楽しそうな声だ。軽快なハサミの音がしている。長めに残っているトップの髪を軽く揃えているらしい。前髪も上に持ち上げてザクザクとハサミが入った。額に降りてくると眉の少し上くらいの長さになっていた。



「……かなり短いね」

 頭も軽いし首筋もスースーと涼しい。

「まだまだだろう?」
「え?」
「バリカンを使うんだろう?まだまだ短くなるぞ」

 これ以上に短くされる。少し怖い気がする。

「怖いならこれくらいにしておくか?」

 感情を読み取られたかのように鏡越しに見つめてられて声をかけられた。男の子みたいなショートで耳も首筋もスッキリと出ている。人生の中で一番短いし、今回はこれくらいでもいいかもしれない。そんなことを考えていると、ふと今朝買ってきたバリカンが目に入った。

――まだバリカンを使えていない

 この機会を逃すとバリカンを使うことはできないかもしれない。何のために昨日恥ずかしい思いまでして、彼にカミングアウトしたのかも分からなくなってしまう。

「どうする?」

 かなりの時間が経ったのだろうか。彼から返事を催促される。

「……バリカンを使って」
「そうこなくっちゃな。どのくらいにする?」

 バリカンの長さのことだろうか。正直なところバリカンにはあまり詳しくない。

「あなたの好きにして」

 先程まで怖がっていたからだろうか、彼が驚いた反応をしている。

「本気か?どれだけ短くなるかわからないぞ」

 彼にバリカンで短くされるのなら本望だった。勇気を振り絞って言葉を紡いだ。

「……あなたにバリカンでメチャクチャにされたい」

 彼はその言葉に一瞬ハッとしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべた。

「そこまで言うなら遠慮はしない」

 彼はリビングの机にある箱からバリカンを取り出してカチャカチャと音を立てて準備をしている。

――いよいよ、あれで私の髪は……

 彼は白い棒を持ってコードをコンセントに繋ぐ。私の背後に立ちバリカンの大きな音が部屋に響いた。私の頭をグイッと下に向ける。

「じゃあいくぞ」

 ビィーンと音を鳴らしながら襟足からバリカンが入ってきた。ジョリジョリと勢いよくバリカンが上へ登ってくる。後頭部を過ぎサラサラと長めに残っていた髪にも入ってくる。

――あ、やだ、そんな上まで刈ったら……

 つむじのあたりでバリカンが離れた。また襟足からバリカンが入ってくる。何度も同じようにバリカンが当てられ、彼に髪を刈られていることに下腹部にうずきを感じる。

「すごいな。簡単に髪がなくなっていく」

 あおるようなことを言われ、ギュウと疼きが強くなる。執拗に後ろの頭にバリカンを入れられた。今度は耳の上にバリカンが来る。殊更ことさら大きい音にビクッと驚く。こめかみのあたりまでザリザリと刈られている。

――ほんとだ。私の髪がなくなってく

 刈られた後はもう彼の髪より全然短いだろう。彼は楽しそうに髪を刈っていく。耳を折り畳んで細かくバリカンを入れられていた。



 トップに残る髪だけサラサラとする長さを残していた。彼はバリカンを止めてカチカチと何かを操作している様子だ。

――こんなに短くされるなんて……。トップの髪以外、指で掴めそうにない

 鏡で自分の姿を見ていても今ひとつ現実感がない。再びバリカンの音が響く。

――えっ? まだ刈るの?

 私のとまどいをよそに後頭部を彼の手で支えられる。刈り上げられた頭を触られる感触にまでゾクゾクしてしまう。バリカンはトップに残っている髪をザリザリと削っていく。

――やだっ、坊主になっちゃうっ!

 でもどうすることもできずひたすらバリカンを走らせている彼に身を任せる。坊主は嫌、でも彼にもっと刈られたい、そんな相反そうはんする考えが頭の中を支配して動けない。バリカンはだんだん前髪へと近づいてくる。トップの髪はいくばくか長めになっていた。

――坊主じゃない

 安心した途端、体全体にゾワっとしたものが走った。彼は長さを整えるためか、何度も角度を変えて頭にバリカンを入れている。我慢できずに太ももがモゾモゾ動いてしまう。

「どうやらバリカンが気持ちいいらしいな」

 耳が熱くなる。

「気に入ったようで何よりだ。俺でもここまで短くしたことはないな」

――彼がしたことのない短さ

 ドロっと熱いものが溢れ出しそうだった。鏡で見た自分の姿はスポーツ刈りになっていた。彼がしきりに刈り上げた頭を触ってくる。触られる度に自分ではどうしようもない熱を感じる。

「シャワー浴びてこいよ。後でたっぷり可愛がってやる」

 椅子から立ち上がってフラフラとバスルームへ向かった。



 シャワーから出た後、彼から言われた通りたっぷり時間をかけてコトに及んだ。散々イかされて、何度も貫かれた。今はまどろみかけている。

「こういうのも中々いいな。次は……」

 薄れていく意識の中で全部は聞き取れなかった。
 

後書き

noteにも念願のルビ機能が使えるようになり、早速使いました👏
過去記事も順次修正しようと思います。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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