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リクエスト断髪小説『報い』

リクエスト内容(要約)

子どもしか知らない散髪場所、物置部屋の床屋さんで、一人暮らしのお爺さんによって行われる百円散髪。
実はお爺さんは断髪フェチで、ポニーテール髪束収集家。女の子の髪は言葉巧みに、、、

小説情報

文字数  :約6,500字程度
断髪レベル:★★☆☆☆
キーワード:トレーディングカード、小学生、ポニーテール断髪、ベリーショート、劣化断髪
項目の詳細はこちらをご覧下さい。

本文

「もぅりっちゃん強いよー。また負けちゃった」

 頭にオレンジ色のポンポンの髪飾りを付けたポニーテールの女の子が頬を膨らませている。

「えへへっ。もう一回やろ、さっちゃん」

 りっちゃんと呼ばれた女の子はピンク色のパーカーを羽織っていて、肩につかないくらいのおかっぱにした女の子が勝ち誇った顔をしている。

 二人は近所でそこそこ大きい本屋にいた。店舗の一角にある机に陣取って、カードを並べて向かいあっている。

 ここはトレーディングカードを販売している本屋に併設されているフリーのデュエルスペースだ。他の机にも二人の女の子と同じ年くらいの小学生の男の子達がワイワイと対戦に勤しんでいる。休日にある大会では子供から大人まで多くの人で賑わう。

「りっちゃん、またカード増えてるー」
「うん。この前買ったらいいカード入ってた」
「いいなぁ、いっぱい買えて。ウチじゃそんなにお小遣いもらえないよー」
「お小遣い以外で買う方法、知りたい?」
「えっ? もちろん!」
「それはね……、」

「ねぇお母さん、明日りっちゃんと髪を切りに行くから、お金ちょうだい」

 本屋から帰ってくるなり、夕飯の準備を台所で進めていたお母さんに向かって話しかけた。

「あら、そうなの? 突然ね」

 お母さんは視線だけをこちらに向けた。

「りっちゃんの行ってるお店に連れていってもらうことになったんだ」
「りっちゃんって確か……、良くカードゲームで一緒に遊んでいる子だったわよね。それでいくらくらいいるの?」
「に、ニ千円くらい」

 お母さんは台所から離れて、いつも買い物で使っているカバンから財布を取り出していた。実際と違う金額を言うのはドキドキしたし罪悪感もあった。声が上擦うわずって、微妙に噛んでしまった。

 嘘かバレないか心配になったが、お母さんはそんな様子の自分を気にも止めずに、言ったままの金額を財布から取り出してこちらに渡してくれた。

「はい、お店の人に失礼のないようにね」 
「わかってる」

 お金を受け取って、足早に自分の部屋へ向かった。疑われずに済み、部屋に入ってからほっと一息吐いた。これでカードを買うお金ができた。手に持っている二千円を見つめて、思わずくふふっと笑みがこぼれた。

 さっきりっちゃんが教えてくれたのは格安で髪を切って、浮いた散髪代でカードを買うことだった。近くに子供だけ百円で散髪してくれるお店があるらしいのだ。明日、そのお店で髪を切ってからカードを買いに行くつもりだ。

 新しいカードが増える期待に胸がいっぱいで、どんなお店で髪を切られ、どんな髪型にされるのか、深く考えなかった。そして明日起こることはしばらくの間後悔する羽目になるのは、全く想像していなかった。

 翌日ランドセルを家に置いてすぐ、りっちゃんと合流して百円で散髪してくれるお店へと向かった。向かう途中で、りっちゃんはついこの間髪を切ったばかりらしく、今日は私に付き添うだけと話していた。

「ここだよ」

 りっちゃんは昨日と同じピンク色のパーカーを羽織っていた。風が強く少し肌寒くなるこの時期、彼女はこのパーカーをよく羽織っている印象だ。

 私はいつものようにオレンジ色のポンポンで髪を括ったポニーテールにしていた。強く吹く風にあおられて、横になびいていた。

「……え? ほんとにここ?」

 目の前には、とてもお店とは思えない木製のほったて小屋があった。お店を表す看板もなく、美容室や理髪店にありがちな中が見えるようなガラス張りの扉や壁でもない。さしずめ農家とかで道具や収穫した作物を保管していそうな物置のようだ。今にも強く吹く風に飛ばされそうだし、ギィギィと音がしてきそうだ。物置の奥には民家らしき家も見える。正直ボロい。

「そうだよ。行こ」

 りっちゃんは迷うことなくギィと物置の扉を開けて、ずんずんと入っていくので、慌てて後ろから付いて行った。

 物置に入った瞬間、板張りの床がギシっときしむ音がして、扉も立て付けが悪かった。

げんじいちゃん〜。いる〜?」

 りっちゃんが奥に向かって声を上げていた。物置の中には木製の丸い椅子が三つあり、その正面には家のお風呂に付いていそうな長方形の鏡が壁にかかっていた。全面木製なので電球の光量だけでは薄暗く、そしてカビ臭さにムッとなった。

「はいはい……、おぉりっちゃんか。いらっしゃい」

 白髪で額や頬に深くしわの刻まれたおじいさんが物置の奥から出てきた。見た目の印象とは違って、背筋はまっすぐしていて足取りもしっかりしていた。

「源じいちゃん、この子が髪を切りたいって言うから連れてきた。名前はさっちゃん」

 白髪のお爺さんに紹介される形で前に出されていた。

「は、初めまして。サチです」

 ペコリと頭を少し下げた。

「ほぅ、さっちゃんか。わしのことは源じいとでも呼んでくれ。じゃあさっそくそこの椅子に座って。準備するぞ」

「あ、はい」

 言われるままに置いてあった椅子の一つに腰を掛けた。お爺さんはまた物置の奥へと行って、りっちゃんは隣の椅子に座ってきた。

「ねぇ、本当にここで髪を切ってるの?」

 りっちゃんに思ったことそのままの疑問を投げかけた。いつもお母さんと一緒に行く美容院の白くて明るくお洒落な雰囲気とはまるで違っていた。

「うん、そうだよ。ママが肩につくと短くしろってうるさくてさー」
「そうなんだ。大変そうだねぇ」
「もうほんと嫌になる」
「お待たせ」

 お爺さんがガラガラとワゴンを押して戻ってきた。散髪用の道具が載っているようだ。

「ここについてはどう聞いているかい?」
「百円で散髪してくれるって、りっちゃんから」
「そうだな。子供向けに百円で散髪をしているな。ただ百円で散髪する代わりに条件があってな」
「じょうけん、ですか?」

 予想していない話にパチパチと目をまたたかせた。

「そうじゃ。一つは洗髪はせずドライカットになる」
「はぁ」

 確かに小屋の中には洗面台のたぐいは見当たらなかった。

「あと、髪型はこちらで決める」
「えっと、」

 ただ毛先を揃えるつもりで来ていたので、ドクンと大きく心臓が脈を打った。嫌な予感がした。

「さっちゃんの場合は……、このポニーテールをバッサリ切ってもらおうかな」
「えっ!? ……このポニーテールを?」

 ポニーテールを無意識に肩に手繰たぐり寄せた。ポニーテールは気に入っているし、自分に一番似合う髪型だと思っている。毎日自分で結んでいて、トレードマークのつもりだ。それを突然切ると言われてもすぐには頷けない。

「ヘアードネーションと言って、ポニーテールをそのまま切れば寄付もできる」
「そのままって……」

 そんな風に切ったらかなり短くなりそうで不安だ。

「ヘアードネーションって、寄付された髪で病気の子供達にウィッグを作るってやつだよね?いい事じゃん! やりなよ、さっちゃん」
「え、でも……」
「髪を寄付してくれる人がいれば、病気の子供達にも希望を与えられると思うんだがな」
「……」

 お気に入りのポニーテールを切る勇気がなくて、何も言えなかった。

「嫌なら無理強いはせん。百円での散髪もなしじゃな」
「さっちゃんのポニーテールが役に立つんだよ!やるべきだよ!」

 りっちゃんは握り拳を作って力説している。

 ポニーテールを切るのは嫌だ。でもここで散髪せずに家に帰ったら、お母さんから問いただされて、手に入れた二千円も返すことになる。当然新しいカードも手に入らない。

「髪ならいつかは伸びるしさ。新しいカードを買ってデッキを強くしたいんでしょ?」

 りっちゃんから小さな声で耳打ちされた。

「……やります」

 自分の声は震えていた。

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