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【感想】そして僕らは世界を壊す

【作品ページ】コチラ
【一言紹介】そして 「ぼくらは」 せかいを こわす
【制作】質量欠損 様
【プレイ時間】中編(3時間~)
【ジャンル】ビジュアルノベル、周回もの
【傾向】現代、高校生、夏、(15推)
【ファイルサイズ】250MB
【筆者プレイ日】2/6
【筆者プレイ状況】読了

はじめに

ネタバレ抑え目の短い感想+ネタバレ全開の感想です。まだフェス期間中なので、感想を書くより新作をプレイしたい気持ちは強いのですが、そしせかの感想を書きた過ぎるので書きます。こういう気持ちは取りこぼさないうちに書いておかないと。


紹介(ネタバレなし)

2014年、7月。

とある県立高校に通う保志梓は、
幼少期のトラウマに苦しむ従兄弟、井塚隆之介を献身的に支える毎日を過ごしている。

二人で生きる日々の危うさと、歪さに、気付かないふりをしながら。

​――かなしい ひとりぼっちたちと、世界のおはなし。

以上、作品ページから引用です。
感情の機微を丁寧に描く文章ですので、じっくり読むのがおススメです。物語構造とシステムの調和、スチルの美麗さも必見です。しかしやはり、細かい点までこだわりの見える文章描写にこそ最大の魅力を感じます。
タイトル画像からはBLを想像されるかもしれませんが、作品ページにはBLではないと明記されています。確かに、プラトニック寄りで言語化できない感情を感じます。掛け替えのない己の半身に抱く愛情とでも言えばよいのでしょうか。答えはきっと、読み終えたプレイヤーの心の中に。

【備考】
いわゆるメニューやシステムウインドウが排された雰囲気重視の作りですので次の点を覚えておくと便利。基本的にセーブはできません。1周あたり30分強の時間を取ってプレイしましょう。バックログはキーボード↑です。ホイール↑は利きません。既読(青字)スキップは左Ctrキーです。



感想(ネタバレなし)

「愛」を描いたとても素晴らしい作品でした!感情の機微を描く物語が好きな方にとてもおススメです!文章もスチルも美しく、ひとつエンドを迎える毎に悶えました!セーブができないシステムも物語構成と完全にマッチしていて雰囲気が抜群!
落ち着いたピアノの調べに乗せて切々と語られる主人公の心情に感情移入し通しです。彼の眼に映る世界の姿はそのまま、ある種一人よがりな心持ちを情緒豊かに伝えてくれます。
今、エンディング後の世界を想像しながら、言葉にできない余韻に包まれています。とても素敵な作品をありがとうございました!



感想(ネタバレあり!!!)

ネタバレしかない上に、本作はネタバレが少ないほうが絶対に楽しめるので、未プレイの方は先に是非プレイを。

あと、副読本(この記事の執筆時点では無料公開)を読んだ感想も含んでいます。そちらもご覧になっていないとネタバレになるかもしれません。

↓ご覧になるかたはスクロールしてください。
※約7000文字









~主要な登場人物~
ワンクッション挟む意味を込めて、簡単に登場人物のおさらいから入りましょう。

◆保志 梓(ホシ アズサ)
本作の主人公。2014年時点で高校3年生。タイトル画面左にいる黒髪ツリ目の男の子。彼の視点で物語は進みます。幼馴染の隆之介を献身的に支える日々を送っています。彼が頑張るお話です。

◆井塚 隆之介(イヅカ リュウノスケ)
本作のもう一人の主人公。2014年時点で高校1年生。タイトル画面右にいる金髪碧眼の男の子。彼の視点はありませんが、物語上の重要性から言えば、主人公と言って差し支えないでしょう。幼少期のトラウマから、精神的に不安定な側面があります。

◆楸(キササゲ)
ときおり梓の前に現れる謎の男。物語の分岐点となる重要な役回りです。

◆邑井(ムライ)
物語の後半で登場する女性。楸のよき理解者でありパートナーです。


~端的に言ってどこが好きなのか~
登場人物全員が愛おしいです。もっと正確に言えば、彼らの関係性に身もだえします。一見すると矛盾した感情を抱えている彼ら。この作品がそれらの感情にフォーカスしていることがたまらなく好みでした。


~初回プレイ時の感想~
今のところ、2周しているわけではないので、第一印象という意味です。とはいえ、プレイしてから時間が経っているので、時系列が少し曖昧です。

作品のタグは「夏」のみ。
以下のキャッチフレーズには心惹かれるものがありました。

二人で生きる日々の危うさと、歪さに、気付かないふりをしながら。
――かなしい ひとりぼっちたちと、世界のおはなし。

周回プレイ必須ということは、ループものかなあ。この世界を否定したくなるような辛い出来事が起きるお話なんだろうか。という印象。

※周回プレイ必須 / 一周 約30分 /6あるいは7周でクリア可能 / 総プレイ時間2~3h
※今作はストーリーの構成上、一部場面を除いてセーブ・ロードを行うことが出来ません。

BLといっても幅広いですが、以下の文言は、「先入観を持たないでください」という意味に捉えました。主題は別にあるのだと。

※BLゲームではありません


起動した時点で、穏やかな調べに混ざるセミの鳴き声が印象的でした。爽やかな夏を思わせるタイトル画面とは対照的に、少しもの悲しさを感じるような。しばらく聞き入っていました。全編を通して、ピアノの調べが一貫して素敵です。

プレイし始めてまず思ったのが、梓の心情描写がとても丁寧であるという点。場面が描写されるだけで、彼が感じる教室の雰囲気や、クラスメイトに抱く心情まで伝わってくる自然さに、ぐっと物語に引き込まれました。この点では小説に近い読み味だったかも。

次に思ったのが、梓が隆之介に依存しているという点。自分だけが隆之介の理解者である、自分がいないと隆之介は生きていけないという彼の思いが言動や思考の端々に現れていました。彼の視点で語られる物語だから、全てにバイアスが掛かっていて、いや、あえて掛けられていて、とても興味をそそられました。

隆之介は見たまま、梓にべったりではあるのですが、本心がわからない。ただ、発作的に起こる精神の動揺を除けば、如才ない立ち回りができそうなのに、あえてクラスメイトと距離を置いている。この点に関しては間違いなく隆之介にとっての梓が「特別な存在」であると感じました。

最初のエンディング&最初のスチル。衝撃的でした。これほど唐突に別れが訪れるとは。現実を受け入れられず、少し口角の上がった梓の表情が忘れられません。

2周目以降。隆之介を救えるエンドがあると信じてプレイしました。今思えばまさに作者様の掌の上で踊っている。

1周目と同じ光景でありながら、省略されていた場面が語られるなど、飽きさせない工夫が凄い。

「お前が隆之介を語るな」

これは、梓に感情移入している身としては言わずに居られませんでした。もちろん、「みんないい子」には隆之介は含まれていないというのは梓の主観ですし、体裁を気にして身勝手に映る先生も、見方を変えれば精一杯の努力をしているのでしょう。ここが実に良いところで、繰り返しになりますが、梓が見た世界なんですよね。それ以外の情報はプレイヤーは知りえず、勝手に想像を膨らませるのです。

そして屋上。梓が隆之介に対する気持ちを自問自答するのが素晴らしい。「結局は自分のためなんじゃないか。自分がいなければ生きていけない存在なら誰でもいいんじゃないか。」
プレイヤーとして、「そんな悲しいこと言わないでくれよ」と泣きそうになりながら、隆之介を生かす選択をしました。結局、救えはしないのですが。

笑顔。

今際の際に何故そんなに美しく、日常のような笑顔を見せられるのか。隆之介の気持ちが分からないからこそ、知りたいという感情で心がかき乱されました。

3周目。とても隆之介を殺すなんてできない。それは彼の代わりがいると認めたようでとても嫌でした。早退し、近くの川へ。何か思い出につながるものがあれば、あるいは彼の心を繋ぎとめられるんじゃないか、と。

ここで、2人の関係性に対して理解が深まったように思います。変わらぬ関係を望む2人に、容赦なく成長していく身体。いつか終わりがくることを突き付けられる度に、こちらも胸が締め付けられる思いでした。

完全なる妄想ですが、隆之介はたぶん、梓を失うことを恐れていたのではないでしょうか。梓は自分を愛してくれている。でも、本当は「自分がいないと生きていけない」存在を愛しているのかもしれない。これは梓自身も答えが出せない問題です。ただ、完全に否定できるものではない。もし隆之介が「梓サンがいなくても生きていける」と言い出せば、梓は壊れてしまう。明に言い出さずとも、もう隆之介が弱くないことに梓が気が付く時は近づいている。いっそ、「弱いままの自分」で時を止めることができれば。愛し、愛されているからこそ、死を選ぶ彼の心境は、このようなものだったのでは。

ひとりぼっち「たち」とキャッチコピーにありましたが、まさにそれだと思いました。お互いを大切に思っているけれど、大切な相手にこそ見せていない一面がある。そして、自己完結して結論を出してしまっている。相手のことを思いやっているようでいて、答えは自分の中から出てきたもの。

さて、楸がハッキリと登場しました。何となく、梓の面影を残し、この先を知っているかのような口ぶり、そして涙に、タイムトラベルものであることをほぼ確信しました。キササゲと調べると、梓の別名だとありますので、決定的でしたね。SFも大好きなので、エンディングを目指すモチベーションがまたひとつ増えました。

これまで当たりまえ過ぎて触れていませんでしたが、梓に甘える隆之介は可愛すぎるので、どうにかしてください!どうなってんだ?高1ですよね?あざと過ぎんか。天使そのものと言って過言ではないです。しかも、全てとは言いませんが、「梓の望む弱さ」、「俺がいないとダメな隆之介」を演じていると思うと益々感情が高ぶります。

川でのエンディングは安らかな死に顔でしたね。ここで、梓の涙が隆之介の服を濡らさない(服の色を変えない)という表現がありました。この「濡れた」のではなく、「濡れない」ことに着目した表現が心に残りました。もう戻らない隆之介を象徴的に表しているようで。こういう暗示的な言い回しが上手すぎるんですよね~。そして、遥か後半の邑井のシーンではしっかり涙が服を濡らしていましたね。

後半に繋がるといえば、「梓が○○のふりをした」という表現が多用されていた気がします。わざわざフリと付けなくても良さそうな箇所に書いてあるので、妙なひっかかりを覚えていました。たぶん2~3箇所くらいはあったのではないでしょうか。これは捻くれた梓の感情を示しているのだろうなと思っていたのですが、後半で、そのような旨が大人の彼の口から出てきて、思わずニヤリでした。

さて、4周目。動物園にいけば救えたかもというフラグを信じて突き進んだのにあんまりだよぉ。自分の容姿にコンプレックスのあった隆之介がおそらく初めて肯定されるとても素敵エピソード。心温まったところで、そんな結末はひど過ぎる。何度でも言いますが、隆之介は天使か。またしても笑顔。何でそんな顔ができるんだ。君の人生は、幸せだったということ?そう信じていいの?

5周目。もう殺るしかありません。「世界を壊して」いるのは隆之介のほうだと思っていましたが、もしかしたら、この物語は梓が隆之介を殺すことを「世界を壊す」と比喩しているのかもしれない。お互いに、相手の存在が世界より大事といえますから。

エンディング。最も色濃く死の匂いを感じるスチル。夕焼けにくすんだ血の色は、どこか色の失われていく世界を想わせました。

おそらく偶然なのですが、自分にとっては、「世界=隆之介と梓」を壊した時点で後半のストーリーに移行しました。なので、このエンディングの特異性についてはずっと引っ掛かりを持っていました。この話はあとで関わってきますね。

ここで明かされる世界の真実。

プレイヤーは無数の並行世界を観測していたのです。個人的な解釈としては、選択肢のない1周目が、後半の主人公たる楸の経験だと思っています。そして、2周目以降は、無数の世界から、どの可能性を観測するかを選べる。楸のタイムトラベルを追体験している格好だから、帰還時刻になるまで一気に見なければならない(セーブ&ロードができない)という点も説得力があると感じました。もちろん、実用上は、没入感を高める仕掛けだと思います。

一気にSF色の増す世界観に、これまでとは違う意味でテンションが上がります。世界5分前仮説。めちゃくちゃ面白い思考実験ですよね。この世が認知でできている以上、誰にも否定できないというのが面白い。

この構成が上手いところは、意外性があるのに、唐突感が全くないところですね。プレイヤーからすれば、SF要素は楸の登場で半ば予想済み。ただ、楸の視点になるとは必ずしも予想していないのでは。比較的ノンフィクション寄りな前半の展開と、SF寄りな後半の展開が綺麗に接続されていて感動しました。

タイトル画面の遷移も印象的ですね。楸と邑井。彼らの話が始まることがはっきりわかると同時に、隆之介のいない未来が改めて突き付けられる。

ただ、このあたり、かなり時系列がややこしくて、読みながら十分に理解できていたとは言い難いです。ときおり挿入されていたシーンに登場した少女は邑井で、男性は楸なのだろうけど、いったいどの時系列、どの世界線なのだろうか、と考えを巡らせました。

邑井が登場。楸が隆之介を想う気持ちにすっかりシンクロしているので、邑井の想いを受け止められないことを理解はしつつも、「もう終わりにしましょう」という思いも強かったです。

楸が邑井に、あるいは邑井が楸に抱く気持ちと、楸が隆之介に抱く気持ちは、別物だと思っています。楸にとって、隆之介は自分の一部も同然。いなければ生きていくことができない。穿った見方をするなら、もし隆之介なしで生きていけるならば、自分は隆之介を利用していただけという罪悪感に苛まれることにもなります。邑井の存在が大きくなればなるほど、「隆之介がいなくても生きていける自分」になってしまう。その恐れが、邑井の恋心を受け止められない理由ではないかと思いました。

邑井は本当にいい子ですよね。叶わない公算の高い恋をしながら、拒絶されながらも楸を支え続ける。愛している、だけど、だから、楸を応援する。彼女には、いくらでも選択肢があったはずです。タイムトラベル理論など提示しなければ、楸はもっと早く諦めていたかもしれない。もっと見返りの大きい交換条件を出すことだってできたはずです。それをしなかったのは、隆之介を愛する楸を、心に深い愛を持った彼にこそ、恋をしたからではないでしょうか。

変わってゆく思い。薄れゆく記憶。楸が弱さを見せたとき、そこに入り込むのではなく、そっと背中を押す。そんな一貫した彼女の姿勢がとても好きです。さらには、「必ず現在に戻らなくてはならない」という文章に込められたいじらしさに、もっと彼女が好きになりました。「ここに記すには余白が狭すぎる」とフェルマーの言葉を借りて茶目っ気たっぷりに記されたそれは、彼女の精一杯のわがまま。素晴らしい!

エンディング。触れない唇。触れない手。涙で変わる色。名前は――。

この短い描写に、感じるものが多すぎて泣きました。

ラストダイブ。もうやり直しができないという事実に、ひりつくような緊張感を覚えながら読み進めました。

シリアスなシーンですが、ショタ隆之介の可愛さにはときめきっぱなし。守りたい!

母親のもとから離すことが、彼の幸せなのかはわかりません。でも、運命に抗うならば、梓と隆之介の出会いをなかったことにするしかない。とても複雑な心境でした。隆之介が伸び伸びと過ごしていることが心の救い。

ここで、忘れていた記憶がよみがえってきました。一度、梓が死ぬ世界線を観測しているのに、楸が消えていない?ただ死に損なっただけ?この世界におけるタイムパラドックス理論については、正直今も理解できていません。ただ、可能性の1つとして、楸がいること自体が、変わらない運命を示していると言えるのです。そこで出会うはずのない幼い梓の姿は、まるで死神のようにも思えました。

世界を壊す。

タイトル通り、楸が世界を壊しました。一見するとバッドエンド。世界が隆之介の死を望むなら、そんな世界は要らない。

でも、世界が壊れたその後に何が起きるかは明記されていません。もしかしたら、隆之介が生きる世界線が続いているのかも。エンディングスチルを見ながら、そう思いました。

このスチルに梓が写っていないこと、写真の日付が7.20なのがまたニクイ。でも、「最後の一日」の写真がホワイトボードに貼ってあるってことは、そういうことだよね?

とはいえ、梓が一人涙するタイトル画面からは、悲しい結末しか想像できません。例え、梓が世界から消えたのだとしても、不器用に生きた彼の生きざまを忘れはしません。

邑井が、楸が隆之介に向ける愛を、「泥濘」と表現しており、これが狂おしいほど好きです。ここに私の解釈など加えても蛇足なのですが、まさにこれだなと感じました。

はー、本当に素晴らしい作品だった。

ホワイトボードに、冷蔵庫にリンゴがありますって書いてあるのも最高じゃないです?

ここでタイトルについて思ったことを。最後に世界を壊したのは楸でしたが、それならタイトルは「僕は」「俺は」でもいいですよね。「僕らは」とは誰なのか。

梓、隆之介、邑井の3人ともを差しているんじゃないかなと思っています。世界中の何より大切な人に向ける愛がこの作品のテーマではないかと感じているので。愛する人のために、世界に抗う。このスタンスは3人ともに共通していると思っています。



~副読本の感想~
付箋の貼り方、梓が他人と目を合わせないことなどなど驚きのこだわりが満載!すごすぎる。1個1個拾っていたら本編並みの感想文になりそうなので、簡単に。

イラストに関する知識はないのですが、祀木さんの原画が素敵なのはもちろん、松岡さんの彩色が神だということはよくわかりました。

ビジュアルノベルにおけるスチルというのは、作品の魅力を何倍にも高める力があって、大好きです。しかもこれらのイラストは、美しいだけでなく、非常にメッセージ性が強い。全てを感じ取れるわけではありませんが、イラストとシナリオの相乗効果を強く感じた理由に納得できました。

特に好きなのは焼死のスチル。碧眼に炎が写り込んだ金色が美しすぎて息を呑みました。見て!と言わんばかりに無邪気な隆之介の姿は、最期まで美しい。炎の熱気が伝わってくる中で、思わず茫然と目を奪われるような素晴らしいスチルでした。

めちゃくちゃ長くなってしまったけれど、言いたいことはおおよそかけて満足です。まる。


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