見出し画像

【紹介・感想・考察】愛しのフランケンシュタイン MY DEAR FRANKENSTEIN

【作品ページ】コチラ
【制作】NUMBER7 / 六夏 様
【一言紹介】墓石の下で生まれた醜い彼は、確かに望まれていたのだ
【対象年齢】15歳以上推奨
【制作ツール】ティラノビルダー・スクリプト
【配布形態】ダウンロード(無料版はブラウザ版あり)
【動作環境】PC(Windows10、macOSX)
【プレイ時間】中編(クリアまで5時間、コンプリートまで7時間ほど)
【ジャンル】ポイント&クリックアドベンチャー
【傾向】近代、ロー・ファンタジー、洋風、幻想、切ない、家族愛
【ファイルサイズ】135MB
【筆者プレイ日】2020/10/8(無料版)、2021/4/18(有料版)
【筆者プレイ状況】コンプリート
【備考】無料版と有料版あり

◆はじめに

以前に無料版の簡単な紹介は書いていますが、コンプリートエディションのクリアを機に色々語ります。前から書きたくてウズウズしていたんです。イラストと世界観が大好き。ティラノフェスは他にも傑作が目白押しなので、是非以下の記事もどうぞ。

◆紹介(ネタバレなし)

◇あらすじ

舞台は西欧の雰囲気が漂う古風な街。主人公は錬金術の結晶、人造人間の少年「アダム」。彼が屋敷の地下室で目覚めるところから物語が始まります。記憶を持たないアダムは、謎の「ゴースト」に導かれるままに、町中に砕けて散らばった「心のかけら」を集めていきます。穏やかなクラシックの調べを聴きながら、優しい夜の世界を探検しましょう。これは、アダムが失った記憶を取り戻すお話。そして、家族のお話。

アダムはどんな願いのもとに生み出されたのでしょうか。彼の周囲には、父を名乗る不愛想な青年、喋る博識ガイコツ、居候の義手の女性、と個性的な面々。彼らは血は繋がっていませんが、しかし家族なのです。それぞれにカタチの違う絆が見事に描かれています。とにかく魅力的な作風なので、少しプレイすれば引き込まれ、気付けばあなたの宝物になっていることでしょう。


◇システム

全7章構成で、大きくはノベルパートとアドベンチャーパートに分れています。ノベルパートは読み進めればOK。アドベンチャーパートは、マップ上の気になる箇所をマウスでクリックするポイント&クリック形式です。街の住人と話したり、アイテムを手に入れたり、それを使って住人の手助けをしてあげたり、自由に行動できます。

心のかけらを手に入れると、共感と理性のいずれかを成長させることができます。これによって選べる選択肢が増えるため、一度では遊びつくせない幅の広さがあります。

途中の選択肢、アイテムの入手状況、ミッションのクリア状況などに応じてエンディングが分岐します。一度クリアした章へはいつでも移動できるチャプター選択機能があるため、エンディングのコンプリートはお手軽です。

公式攻略が充実してますから、困ったらそこを見ればOKです。


◇グラフィック

この通りとても美しく、幻想的なグラフィックが楽しめます。しかもコンプリートエディションではマップが1つ追加されています。更に更に、エンディングのスチルも大増量ですので、この雰囲気が好きな方はぜひどうぞ。

画像1

画像2


◇BGM

クラシック音楽です。とても癒される。夜の雰囲気にピッタリの選曲です。readmeから抜粋すると、以下のクラシック曲が使われているとのことです。

レントより遅く(ドビュッシー)
羊は安らかに草を食み(J.S.バッハ)
だったん人の踊り-娘達の踊り(ボロディン)
ゼッタのワルツ-私が街をあるけば(プッチーニ)
《組曲くるみ割り人形》第1曲「序曲」(チャイコフスキー)
亜麻色の髪の乙女(ドビュッシー)
歌劇 《ウィリアム・テル》 序曲(ロッシーニ)
グノシェンヌ第1番(サティ)
グノシェンヌ第1番 オルゴール(サティ)
ジュ・トゥ・ヴ(サティ)
ソナタニ短調k1(スカルラッティ)
《ベルガマスク組曲》パスピエ(ドビュッシー)
水の戯れ(ラヴェル)
音楽玉手箱(リャードフ)
《ペールギュント》朝 オルゴール(グリーグ)
《ペールギュント》ソルヴェイグの歌 オルゴール(グリーグ)

以下の3曲もとても素敵。特にOn Your Graveはエンディングで流れるんですが、大好きです。

VSQ_MUSIC_035
VSQ_MUSIC_071_piano_quiet
On Your Grave


◇無料版と有料版の違い

コチラに比較が載っています。無料版で完結していますので、予算との兼ね合いでどちらを選んでも問題ないと思います。でもきっと、無料版をプレイしたら有料版(コンプリートエディション)が欲しくなると思いますよ。




◆感想(ネタバレあり)

◇シナリオ・キャラクター

幻想的で優しい雰囲気のロー・ファンタジーの探索ADVです。私にとっては好みど真ん中だったので、ワクワクしながらプレイし、実際期待以上でした。ストーリー、イラスト、BGM、キャラクタ、システムなどなどどれを取っても素晴らしいし、相互に調和しています。

他に付け加えるとすれば、細やかな選択肢が印象的です。プレイヤー毎の思いが反映できることで物語に引き込まれます。それでいて、アダムの人柄の芯はブレず、「アダムならそう言うだろうな」という自然さもありました。能動的に物語を楽しみたい人、色々な反応を見て楽しみたい人におススメです。

そう、このゲームの一番凄いところはシナリオ構成の巧みさですね。少しずつ、断片的に明かされていく各キャラクタのバックボーンが魅力的です。基本的には日常を綴る平坦なお話なのに、思ってもみないところで過去と繋がりがあると時間方向の奥行がぐっと深まります。一歩間違えば分かりにくくなりがちな時系列ですが、同じ出来事が複数の人物の視点から語られることにより復習できます。あ、これは前に○○も言っていた話だな、と。本当に登場人物たちが生きているかのような錯覚を覚えるストーリーテリングだと思います。

この文体というか、端々の詩的な言い回しがとても好きで、海外の名作文学を読んでいる気分。ヴェルヌやエンデが大好きだった子供時代を思い出します。例えば、これとかね。言葉が美しいって最高ですね!

画像3

画像4


そして、何でもない会話がとても楽しい!何といったらいいのか。アダムはこんなこと言わないだろうっていう選択肢がなくて、どれを選んでも新しい一面を知れる感覚が楽しい。アダムの性格がめっちゃ好きなんです。見た目相応に幼いかと思えば、すごく大人びていたり、皮肉屋だったり。理屈っぽく反論するところとか最高です!こういう一面的ではないキャラクタ描写が好きなんです!

アダムに限らないですけどね。他のキャラクタも、脇役に至るまで魅力溢れてる!キャラクタが魅力的だからこそ、会話が楽しいんでしょうね。


・ミゲル
素直に優しくできないのが愛おしすぎる!デフォルトで不愛想なやつが稀に見せる微笑は最高です。後悔だらけの中でも前に進む芯の強さに惹かれます。多少独り善がりかもしれないけど、それも含めて好き。

画像7


・博士
安定感抜群。みんなのお父さんって感じですね。家族エンドでアダムとペイジを抱きしめるシーン大好き。そんな彼が唯一嫌悪を露わにするエンディング3で、やっぱり博士も人間なんだと感じました。

画像10


・ペイジ
この年の淑女が草むらを転げまわっちゃう、その自由さが好き。アダムとペイジが仲良くしているのは、きょうだい感があって凄く微笑ましい!そんな元気な一面に陰りが差すエピソードは鳥肌ものです。

画像9


・ゴースト
常に怪しさ満載でした。私は勘が鈍いので、6章くらいまでその正体には気付かなかった。いやだって、あの手この手で子供を外に連れ出そうとするとか詐欺師か誘拐犯まがいじゃない!?正体がわかると切ないね。

画像8


・スコット
No.1ツンデレオヤジ。何だかんだ面倒見がよくていいよねえ。幸せになって欲しいキャラNo.1かもしれない。お酒は控えて仕事頑張ってね!

画像12


・ハーヴィー
彼の慇懃無礼な立ち居振る舞い大好きです。何だったらエンディング2の中で最初に見たエンディングはハーヴィー。エンディングで餞別くれるときのセリフが最高。もう大好き!

画像7


・メラニー
メラニーお姉さん可愛い。ふわふわでお菓子みたいな可愛さ。アダムにからかわれているこのシーンが一番好き!レモンドリズルケーキ食べさせて!

画像14


・ディディエ
人を食ったようなことばかり言う。まるで御伽噺の中から飛び出してきたみたいだ。彼の性格は好きだと言う気持ちと、彼の所業は好きになれないという複雑な気持ち。

画像15


・アレクシア
何とも不思議な女性だと、第一印象はそうでした。読み終わってみると、この物語の中で最も悲しい人です。何か一つでも掛け違っていれば。信念に殉じる強い人です。責められないなあ。

画像11


・ジル
コンプリートエディションの追加キャラ。アダムと友達って感じでいいですね。もっと色々お喋りしたかったかも!ジルと二人で探検とか絶対楽しそうじゃない?

画像13


・ノーラン
ノーランのエンディングがないことに全俺が泣いた!ペイジとは違う意味で子供みたいな大人。彼のセリフはまじで可愛い名言揃いなんですよ。脇役と思わず毎日通ってあげて!

画像5



◇グラフィック・BGM

ここまで、いつもより遥かに多めにゲーム画面を紹介していますが、お分かり頂けただろうか。どこを取っても絵になる素敵なグラフィックの数々です!全体的に温かみのある雰囲気がゲーム全体の雰囲気とマッチしてますよね。

コンプリートエディションでは、ほとんどのエンディングにスチルが追加されています。アダムと各キャラの日常の一コマといった感じの内容で、癒されること間違いなし!

BGMはクラシック曲がいいですよね。この感想を書きながらバックグラウンドで流しています。舞台が西欧であることもあって、雰囲気が盛り上がります。

あとエンディングのOn Your Graveも素敵ですね~。無限に聞いていられる。ボーカル付きの曲が流れると、もう終わりっていう寂寥感と満足感が同時に襲ってきます。歌詞が気になって調べました。

BGM→コチラ
歌詞→コチラ


◇謎解き

謎解きは優しめ~ちょい難くらいのレベルだと思います。大概は10分ほども悩まずに解けました。わからない謎は後回しにしてあちらこちらを調べていれば、キーアイテムが思わぬところで手に入るので、詰まるストレスがない。これは凄いと思います。

個人的には、駅の謎解きが少し難しかったかな~。あと、葬儀屋の叔父さんの謎はかなり難しかったかも。こういうちょっとした頭の体操っていいですよね。きちんと世界観に則した謎解きになっていて良かったです。



◆考察メモ(ネタバレしかない)

結構複雑な時系列、人物関係なので、整理してみました。
非常に重大なネタバレを含むので、未クリアの方はご遠慮ください。
ここは見ずにアンケートにご協力頂ける方は、トップにある目次のリンクから飛んでください。
























◇イベント時系列
間違いがあるかもしれませんが、記憶が鮮明なうちにメモ。

~数十年前?~
博士が錬金術を学ぶ
「北の果て」の小島で錬金術を習った。その知識で己の肉体を骨格標本に変えた。ちなみに、頭は取れる。どれくらい昔なのかは定かでない。

ディディエがリーコック氏(後の市長)に拾われる
戦中の当時、捕虜だったディディエは目を縫い付けられたという。心の底には憎悪が渦巻いていたのだろう。

~十数年前?~
アダム・サヴィルとミゲルが出会う
アダムとミゲルは同じ学校に通っていたらしい。ミゲル曰くアダムは天才だったとのこと。他の出来事との時間関係はよくわからない。アダムがミゲルの母の肖像画を見たことがある気がするというので、ミゲルの母が他界するより前に付き合いがあったのでは。

バーンズ男爵が銀の指先クラブを設立する
これも他との時系列は分らないが、子どもの頃のペイジが夢想した「銀色の宇宙」の内容に着想を得たというので、10年くらいは昔の話だろう。また、リーコック嬢が、バーンズ家を離れる時に「銀色の宇宙」を持ち出したと言っているので、それ以前に設立されていたはず。目的は不明。単なる趣味にしては熱が入りすぎている気もするが。

ミゲルの母が他界する

これはアレクシアによれば、リーコック嬢(リーコック市長の娘)から受け取った薬を投与したことが原因だと言う。すなわち、リーコック嬢が、先代バーンズ男爵(ミゲルの父)の妻の座を狙って、毒を盛ったのだと。リーコック嬢の亡霊(ウィジャボード)は、これを否定している。筆者の推測だが、ディディエがリーコック嬢(もしくはその使用人)に毒と薬を売る店を教えた。不幸にも、薬と間違えて毒を購入したというのが事の顛末かもしれない。もちろん、ディディエはこれを狙っていたに違いない。

バーンズ男爵がリーコック市長の不正を糾弾(捏造)
リーコック嬢が毒を盛ったという推測を、当時バーンズ家の使用人だったアレクシアがバーンズ男爵に伝えた。バーンズ男爵とリーコック嬢の縁談は破談となったばかりか、バーンズ男爵はリーコック市長を失脚させた。バーンズ男爵は、公文書を改ざんして市長の不正をでっち上げたのである。第???章でのアダムの推測によれば、改ざんに用いた公文書を横流ししたのは、当時警察のトップにいたディディエであろう。

スコットがバーンズ男爵の捏造に迫る
スコットは公文書の改ざんに関して何等かの不信感を抱き、バーンズ男爵を探ったが、逆に追い詰められて職を失いそうになった。ディディエが口添えすることで、辞職には至らなかったものの、この件で肩身の狭い思いをしたスコットの家族とスコットの間に軋轢が生じた。

バーンズ男爵が精巧な自動人形の作成に執心する
隠し部屋にあるような精巧な自動人形を作り、失った妻を蘇らせようとしていたのかもしれない。

~数年前?~
バーンズ男爵が他界
アメリカ視察中に事故で亡くなったという。正確な時期は不明。この時期に、ディディエが銀の指先クラブのトップ(修道院長)になったと推測される。

アダム・サヴィルが博士の元を訪れる

アダム・サヴィルは博士の元を訪れ、自分の錬金術の研究、すなわち人造人間の製造に協力するように要請する。博士はこれを承諾し、バーンズ家の地下で研究が始まる。ミゲルはアダムの研究にとても協力的だったようだ。

~一年前?~
アレクシアがアダム・サヴィルの研究を非難する
彼女曰く、命を作り出して良いのは神だけだと。彼女にはアダム・サヴィルが死体から命を作り出そうとするのが許せなかった。研究をやめなければ市警へ通報すると最後通牒を告げる。この時、ミゲルはアダムを擁護し、アレクシアに暇を出そうとする。

アダム・サヴィルが自殺する
己の研究の完成を目前に、その危うさに気づいたアダム・サヴィルは苦悩の末に拳銃で自害する。その下手人はアレクシアということになり、彼女は病院へ強制的に入院させられる。ミゲル、ペイジ、博士の3人が喪服を着ていることから、これは1年以内の出来事ではないか。

ミゲルと博士がアダムの蘇生を研究する
彼らは、完成目前のアダム・サヴィルの研究を用いて、彼の蘇生を試みる。アダムの脳を移植し、肉体は他から調達する。主な調達先は葬儀屋のハーヴィーであろう。

ペイジが己の右手を差し出す
アダム蘇生の材料として、己の右腕を切り落とし提供した。ペイジはバーンズ男爵が死んでからは銀の指先クラブと関与していなかったというので、偶然の一致か。アダムの右手はマニキュアを塗った女性の手に見える。これに気づいたときは戦慄した。

アダム誕生
人造人間の「アダム」が誕生し、物語が始まる。このとき、元のアダムの心は砕かれてばらまかれた。彼が二度と死を選ばぬように。

アレクシアが銀の指先クラブを扇動する
彼女は人造人間の存在を許せない。病院を抜け出して集会に参加し、贖罪を求めた。これをディディエは黙認していた。ほんの1週間で組織を掌握できるとは思えないので、それ以前から熱心な信者ではあったのだろう。


◇ネタバレ所感
本当はね、アレクシアの悲運と狂気と正気とか、ディディエのドロドロした愛憎とか、アダムたちの絆とか、ネタバレで書きたいことはいっぱいあるんだけど、上手く文章にできませぬ。

でもひとつだけ書いておきたい。あれだけ「アダム・サヴィル」の復活を望んだ彼らが、「アダム」を、新しい家族を受け入れて前を向いていけるのは、本当に素晴らしいことだと思います。あのエンディングが一番好きですし、エンディング1で迷いなく選んだのもあれです。沢山の結末をありがとう。私のアダムは、今確かに幸せです。























これより上はネタバレ注意




◆閲覧後アンケート(ネタバレなし)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?