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安倍さんの喪失感(前)


今までどんな有名人の訃報に接しても、「ああ、あの人死んじゃったのね、残念」……程度でごく普通に受け流して来たのに、安倍さんのニュースが出た当日は、うろたえて頭を使う作業が一切できなくなった。

会ったことも話したこともなく、自民党員でもないし安倍さんの追っかけでもない。
演説を聞きに行ったことすらない。「私は安倍さんが好きだ~!」みたいに言ったことも書いたことも1度もない気がする。
しかしこうなって、自分の動揺ぶりから「自分は安倍総理大臣という人に対してすごく好感を持っていたのだなあ」ということに気付いた。
悲劇的な死のショックで感情が割増しになっていることは否めないが、悲劇的な死を迎えたという事実は紛れもなく彼の人生の一部なわけで、それと安倍さんの印象を切り離すことはもはや出来ない。「あれはウソでした~! 大成功!」と言って安倍さんが生き返らない限り。そうなってくれたらいいとは思うが。

そのような現在の心境で、お世話になった一国民として安倍さんを追悼するみたいな記事を書いてみる。

最初に「安倍元総理、銃撃される」「安倍元総理、演説中に撃たれ心肺停止」の見出しを見た時、ただただ固まった。
「ハッ!?」と声が出て、しばらく動けなかった。銃撃ってなに? ここ日本ですけど?
しかし記事の中身は実際に「つい先ほど奈良で選挙演説中に安倍元総理が銃撃されて心肺停止」となっており、いくつもの記事で同じことが書かれており、どうやら本当にそういうことが起きたらしい。

そして、Twitterに投稿された動画!
現場で演説を聞いていた一般の人たちが、スマホで撮影した動画がいくつもTLに流れてくるのだ。
スタッフの方が、「看護師の資格のある方はいらっしゃいませんか!! お医者様はおられませんか!! お助けください!!!」と叫んでいるシーン。
こんな壮絶な映像を見たのは初めてな気がする。
壮絶な瞬間は歴史上にしばしばあったのだろうが、多くは映像など残されていないし、あったとしても古かったり遠い国の出来事だったりでそんなにリアルに心に迫って来ることはない。
しかし今、私が見ているものはリアリティの次元が違う。複数の人がいろんな角度から撮った動画で、銃撃の直前から瞬間からその後の悲壮な混乱まで鮮明に記録されており、しかもそれが、今日、ついさっき起きた出来事なのである!!
そして、その銃撃の被害者として倒れているのが、あの安倍首相なのだ。
壮絶すぎる。遠い家でネットを見ているだけの私でもパニック状態である。

「弾が腕に当たって血が出ている」という程度では、スタッフの方はああいう叫び方はしないと思う。
あの人の、「お医者様、看護師の方はいらっしゃいませんか!! お助けください!!!」という声からは、「安倍さんは死んでしまいそうな状態である」という様子が伝わって来た。※呼びかけていたのは天理市長さんだったそうです
そして速報記事では、「首に穴が空いている」という表現もあった。
そして心肺停止である。

信じられない。
安倍総理が、大衆の前で撃たれて血まみれで死にかかっているという。
選挙中の事件なんて、候補者がじいさんに胸を小突かれてこれは許されざる暴力だとか、ヤジを飛ばした人が警官に排除されてこれは言論弾圧だとか、せいぜいそんなものではないか。
それが、銃撃されて心肺停止とは!!! しかもそれが安倍総理!!!
「銃撃」なんて海外のニュースでしか使われない用語のはずなのに、その舞台が日本で被害者が日本人の安倍さんだというのが矛盾すぎて信じられなくて頭が追いつかない。

それから情報は錯綜して、一時、希望を持たせるような表現が記事に使われることもあったが、山口敬之氏や百田尚樹氏が報道よりも早く「安倍さんが亡くなった」と公表。17時過ぎには各メディアからも一斉に死亡のニュースが配信された。

安倍さんが撃たれて亡くなった、それが自分の中でとんでもない衝撃で、知り合いでもない一市民なのになんとも言葉に表しようがない喪失感。

日本の総理大臣なんて物心ついてから何人代わったかわからないくらいコロコロ代わり、基本的には誰が総理になろうとどうでも良いこと。
安倍さんも内閣を去ってからはメディアで姿を見ることも減り、「最近安倍さんはどうしているのかなあ」などと気にすることすら一切なかったのに、この動揺。

私は常々、「有名人の訃報のニュースの時に悲しがるコメントをする人」に対し、「日頃から好き好き言ってたわけでもないのに、死んでから急に『好きだったのに! 悲しい~!』とか言い出す人、みっともない。目立ちたいだけちゃう?」というひねくれた感想を持っていた。
しかし、そんなひねくれた私が、生前「安倍さん好き好き」言ってたわけでもないのに「なんでこんな悲しいんだーーーっ!!」とうろたえている。
私は目立ちたいのだろうか。
だが明らかに、過去に聞いた他の有名人の訃報とはまったく違う反応を私はしている。ということはつまり、私は過去に訃報を聞いた他のどの有名人よりも安倍さんに好意を抱いていたということだ。だって、過去に亡くなった他の有名人がもし銃撃で亡くなっていたとしても、ここまで自分が動揺するとは到底思えないから。

後編に続く。長いです。





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