【メギド72】「カカオの森の黒い犬」がよくなかったのは、“何が悪かったのか分からない人”が大多数になってしまう書き方をしたことという話
(タイトルに大多数って書いたのはメギドミー賞受賞したのが根拠です)
数年前に、「海外で男性が女性に監禁されてレイプされた」って事件が取り上げられているニュースのツイートを見かけたことがある。そのリプライ欄で被害者男性に対して「良かったじゃん」とか「羨ましい」とか、そういうコメントを平気でしている人たちがいた。
近年こういう言葉の暴力が「セカンドレイプ」とか「セカンドハラスメント」という言葉で批判されるようになってきてはいるが、この言葉で守られる対象として想像されているのは、男性への性的な加害事件が存在しているのにも関わらず、女性ばかりなのである。(一応書いておくが、女性はズルいという意見を発信したいというような意図は全くない)
それは何故か?かなり複合的な理由ではあるのだが、その一つは「男性はみんなエッチなことが好きだ」とか「男性はみんな綺麗な女の人に言い寄られたら嬉しい」とか、そういう「男性に対する偏見」を真実だと信じている人たちが存在するからだ。
例えばバティンがイベント内で発言したように「『細くて』『小柄で』『ピンク』なのが女性の象徴なんですね」と言われれば「いやそんなことはないだろ」と言われる世の中になってきてはいるが、前述した「男性への偏見」に対しては「アハハ、その通りじゃん。何が違うの?」とまだまだ言われる世の中なのである。細くて小柄でピンクが好きな女性は実際に存在するであろうが、そうじゃない女性が「女性的じゃない」と主張したら今ではかなりのヒンシュクものだ。なのに、エッチなことが好きじゃなかったり女の人に言い寄られても嬉しくない男性には「男らしくなくて変だ、普通じゃない」とか平気で言う文化がある。そして、その文化から出てくる「良かったじゃん」に、性的な加害を受けた男性の苦痛が黙殺される現実がある。
そういう文化が存在してる原因にはマチズムとか、性行為経験の有無によってあたかも人間の価値が決まるかのような非童貞信仰とか、男は女性を従わせて初めて一人前とか、手に入れた女性の価値で男性としての価値が決まるとか、男は強いものなのであらゆることを我慢しなきゃいけないとか、そういういつの時代の考え方だよっていうような思想がある。ここまで極端になると「男性への偏見は信じてるけど、流石にそこまでのつもりはないよ…」と思う人もいるだろうけど、結局それは爆弾に繋がってる導火線の先端だけ見て「タダの紐だよ」と言っているようなものだと思う。爆弾は常にそこにある。
カカオイベに話を戻すと、こういう前提が頭に入っていればソロモンの「細くて小柄でピンクだから女性かと思った」という失言への意趣返しで「あなたは男性なので綺麗な女性である私にエッチな口説き文句を言われたら嬉しいでしょ?」という皮肉で嫌がらせをバティンが行なっているのではないかと解釈するようなこと自体はできる。(あくまで一解釈であり、真相は本編では書かれていないので分からない。この解釈によって説明できない行動も多いし、バティンの行動が正当化される訳でもない)
しかし、こういう前提が無い、“何が悪かったのか分からなかった”人には「ソロモンがバティンのこの一連の行動を嫌がっている(どう見たって、喜んではいない)」という視点が欠如している。実際にそういう感想もたくさん見たし、メギドミー賞の時のユーザーの反応もそんな感じだった。バティンの行動の是否を語る上で、「バティンの意図」と同じくらい、またはそれ以上に「その行動を受けたソロモンの気持ち」も大事なもののはずなのにだ。こういう欠如してしまった視点の存在を、作品側できちんと書いてほしかった。
ここまで長々と書いてきたが、そういう視点を入れることはこれまでのメギド72を見ていれば、そんなに難しいことだとは思えない。
例えばリヴァイアサンのキャラストでは、ソロモンに恋人を作るように迫るリヴァイアサンがいると同時に、親から結婚を反対され心中しようとしてる恋人たちが登場する。これらは正反対のように見えて、伴侶/恋人を作る/作らないという「意志の自由」を奪う親という存在を書いている。リヴァイアサンの思いつきはまだ「導火線の先端」だが、この恋人たちを追い詰めた親は「導火線に繋がる爆弾」の役割だ。
カカオイベでもこういう風に、「導火線に繋がる爆弾」の存在か、それが「タダの紐」ではなく「導火線」であることを書いてほしかったし、そういう書き方をしたことや大多数の読者がどう受け取ってしまったのかをもっと重く受け止めてほしかった。
正直ものすごーく可能性は低いと思うけど、常設する時に改稿なり加筆なりしてほしいと切に思う。
おわり
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