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『センチメンタル・チェリー』~沈黙の卒業式~

「嫌よ嫌よも好きの内」かと思いきや本当にただ嫌がられていた事が数あまたでお馴染み、錯乱坊★迅迅丸です。

齢三十のチェリーボーイのワタクシが自身が歩んできた童貞の道程を振り返り、センチメンタルになる「センチメンタル・チェリー」

前回は幼少期に中山エミリによっての自身の目覚めを振り返りましたが、今回はそれを書いていたらさらに呼び起こした己の「初失恋」という漆黒をほじくってみます。

当然と言えばそうなのですが齢三十チェリーの自分は、これまで恋が成就した事がありません。

なので「恋≒失恋」という悲しい恋愛式が出来ているのですが、初めての失恋に何か今の童貞である自分に通ずるヒントやきっかけがあるのではないか。それが分かれば今後の改善に繋がるかもしれない。

という事で初失恋を考えてみると、時は遡り六歳の冬。

前回紹介した「中山エミリ描き乱れ期」も少し落ち着き、もうすぐ小学生になるボクは、幼稚園卒業を控えていました。

幼稚園の年長クラスの竹組に所属していた当時六歳の自分は、自分で言うのも何ですが球の様なかわいらしさで、ブイブイ言わせていました。

幼稚園の七夕祭り時、かわいらしい金魚柄の浴衣を着た自分をクラスの女の子達が黄色い歓声をあげながら追いかけ回していたのは記憶に新しく、恐らく走馬灯で見る景色の一つだと思われます。

「僕はモテる」

幼稚園時代の自分は、驕り高ぶっていました。

まだ六歳とは言え、哀れでなりません。

そんな中、自分は年長クラスで同じ組だった女の子に初めて恋をしました。

その子はいつも笑顔で優しくて明るい、ショートカットのよく似合う天真爛漫ガールでした。

ボクはお互いの気持ちをたしかめたくなりました。

そして忘れもしない卒業式の一ヵ月前ぐらいの二月の寒い日。

外遊びから戻ったボクと彼女は二人並んで仲良く水道で手を洗っていました。蛇口から出て来る水は凍りつくぐらい冷たくて二人でキャアキャア言いながら、楽しい時間を過ごしつつ、ボクは今日こそ気持ちを聞かなければと思っていました。

そして、ボクは意を決して口を開きました。

「ねえ、〇〇ちゃんって好きな人いるのー?」

決して重く感じられないよう、「昨日のマジカル頭脳パワー見た?」ぐらいの軽いテンションで尋ねました。

「……うん、いるよ」

彼女は泡立つ自分の両手を擦りながら言いました。

「……誰?」

「んーとね……みんなには秘密だよ。」

「……うん」

「…………紅葉組のヒカル君」

「……………」

「…………」

「………ふーん、そっか。ヒカル君、背高いしね、そっかそっか」


蛇口から出て来る冷たい水の温度を、その一瞬だけ感じなくなったのを覚えています。

目の前の景色が全てモノクロになった気がしました。

家に帰ってからも、どこかやるせない気持ち。

この気持ちはなんだろう。この気持ちはなんだろう……

気付いたらボクは、手にクレヨンを持っていました。


それからボクは卒業式までの一ヵ月間、彼女の似顔絵を乱れ描きする毎日が始まりました。

来る日も来る日も、彼女の似顔絵を描き貯めました。

叶わなかった恋心の発散なのか未練なのか分かりませんが、中山エミリ以来の描き乱れ。あの時の精神状態がどんな風だったのか、不思議です。


そして三月になり、ボクと彼女は幼稚園を卒業しました。

あの水道での会話以来、〇〇ちゃんとはあまり話せなくなってしまった。

でも〇〇ちゃんとは小学校は別になるから、もう二度と会えない。

色々と頭を巡らせたボクは卒業式後の幼稚園からダッシュで一旦自宅に帰り、引き出しを開けました。

引き出しには描き貯めた彼女の似顔絵。

それをボクは持ってまた幼稚園まで走り、園庭で記念写真を撮っている〇〇ちゃんの元へ。

不思議そうにボクを見つめる〇〇ちゃん、

ボクは描き貯めた似顔絵集と道中に拾った道端の花を無言で〇〇ちゃんの胸に押し付けて走り去りました。

今思えば、何であの時に何も言わなかったんだろうと。

「好きだったよ」でも「また遊ぼうね」とか何でも良かったのに、となりのトトロのカンタみたいな事をしてしまったのか。(サツキにおはぎを届けるシーンね)

ここで何も言えなかった事が、我ながら如何にもチェリーらしいなと思います。

無言で様になるのは、ゴルゴ13か次元大介ぐらいのもんです。

なので今回振り返って思ったのは、意中の女性と対面した時「何かしらは喋ろう」という事です。

あと好きになった女性の似顔絵を描く習慣は流石に今はありませんが、ジョジョの悪役とかに出てきそうな、この何とも言えない気味悪い習性はなんだったのか。これは未だに己でも解明出来ていないので、誰かこういう分析できる人いたらお願いします。

錯乱坊★迅迅丸

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