【読書記録】プライベートバンカー カネ守りと新富裕層

タイトル:プライベートバンカー カネ守りと新富裕層
著者:清武英利

資産1〜5億円未満の富裕層、5億円以上の超富裕層を相手にするプライベートバンカーの物語です。この作品、シンガポールを舞台とした実名バンカーのノンフィクション作品で内容もとても面白いです。富裕層・超富裕層と呼ばれる人達がどのようにして資産を守っているかについて生々しく描かれています。

物語の構成としては、日本の証券会社でトップセールスマンだったものの、40歳を超えた主人公がシンガポールのプライベートバンクに転職し、ノルマ100億円の金融資産を集めるべく必死に駆け回るところから始まります。

やる気に満ち溢れていた主人公を待ち受けていた本当の敵は自身のボスだったり、語学の壁にぶつかり思うようにことが進まないもどかしさなど、様々な苦難が描かれています。最終的にボスを追い詰めることに成功するのですが、そこに至るまでに主人公が取った行動や周辺にいる人物の影響など非常に面白く読み進めることができます。

ノンフィクション作品で、シンガポールに住む富裕層達のリアルを描いており、勉強になることもあったのでポイントをまとめておきます。

・超富裕層はシンガポールなどの税率が低い国に移住して相続税を極力回避する
・シンガポールは国策として、金融商品を取り扱いやすい環境を整備している
・ただお金をたくさん持っていても「幸せ」とは限らない

超富裕層はシンガポールなどの税率が低い国に移住して相続税を極力回避する

通称「5年ルール」と呼ばれる被相続人(親)と相続人(子)がともに5年を超えて日本の非居住者である時は、日本国内の財産にしか課税されない。逆に言えば、5年以上、日本の非居住者であれば子や孫に相続したり贈与したりしても海外の資産には日本の課税が及ばない。

ただ、この非居住者の定義の明文規定がなく、一般には「1年の半分以上を海外で暮らせば、日本に住んでいないことの証明になる」と解釈されているそうです。ただ、日本の国税庁が本当にこの勢逃れ行為を黙認しているのか、どうもそれははっきりしないとも書かれています。

シンガポールは国策として、金融商品を取り扱いやすい環境を整備している

外国人富裕層の受け入れを国策とするシンガポールの金融管理局はSmart Regulation(合理的規制)を掲げ、ヘッジファンドとファンドマネジメント会社(資産運用会社)を優遇している。日本では購入できない利回りの良い金融商品と節税対策を取り揃えている。

どういうことか?

例えば、日本で信用取引ができるのは株のみですが、シンガポールでは債券でも出来るとのこと。債権など、株と比べてリスクの低い金融商品にレバレッジをかけることによって、安定的に資産を築けるようになります。仮にプライベートバンクの手数料が1.5%だとしても債権の利回りが3%であれば、十分に回る計算になるためシンガポールのプライベートバンクを使うということだそうです。(更に日本のように金融商品を売却する時にかかるような地方税やキャピタルゲイン課税もかかりません。)

他にも高額な保険商品があり、金が金を生む仕組みになっていると解説されています。

日本における死亡保証の最高額は7億円(元本6.5億円必要)だが、シンガポールでは50億円の商品がある。この50億円の保険に入るためには元本15億円が必要だが、そのうち10億円はプライベートバンクが融資する形をとる。つまり、富裕層は元本5億円で35億円受け取れる。うち、半分は税金で引かれたとしても17.5億円が残る計算になる。プライベートバンクも融資金利を取れるので、資産家・プライベートバンク双方にとってメリットが出る話になっている。

要するに保険にもレバレッジをかけられるような商品があるということです。本当にこのような巨額のお金が動いている世界があることを実感させられます。

ただお金をたくさん持っていても「幸せ」とは限らない

この本の面白いところは、富裕層達の苦悩もきちんと描いているところです。

5年間シンガポールにいなければならない状況になった彼らは”暇”が怖くなっており、所々でこうした描写が描かれています。

「南国の監獄の中にいるようや。苦労している時の方が楽しかったわ。」

「ほら、以前話ししたお金持ちの人なんやけど、朝起きた時が一番怖いんだって。することがないから…。寂しそうだったな。」「大金持ちになってしまうと、大抵の人は儲けに関心がなくなってしまうのですよ。だって(イグジット組の)彼らは寝ていても(投資や金利で)何億円も入るんですから。一方、事業でお金を儲けるのは大変ですよね。どんどん手持ちのおカネがおカネを生むのに比べて、費用対効果が合わない。一生懸命、時間と労力とおカネをかけて、5百万円とか1千万円といったカネを儲けることに楽しみを見出すのは難しいと思いますよ。」

「幸せをお金で買う」5つの授業に書かれているように、ただお金があるのではなく、お金を使う力が大事だと思い知らされます。

所感

こうした超富裕層と呼ばれる日本人に出会ったことはないものの、実在するんだ、ということを再認識しました。その上で、ただがむしゃらにお金を稼ぐだけでなく、社会との接点や生き甲斐、仕事のやりがいといったことはとても大事だということを学べました。

まずはきちんと稼げるようになることが大事ですが、稼げるようになった後のことも少し意識しつつ副業に取り組んで行こうと思います。

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