『TRUMP』のキラキラ


カードゲーム?大統領?
いいえ、舞台作品のことを言っています。

TRUMPシリーズ15周年記念上映祭 劇場版はじめての繭期』
Dステ12th『TRUMP』TRUTH(2013年)

2024/5/17(金)新宿ピカデリーにて

軽い気持ちで申し込んで、上映前日に鬱になって寝れなくなった。なので、ちょっと落ち着くために気持ちを綴っておこうと思う。

TRUMPは、クランというヴァンプのための寄宿学校を舞台にした……ジャンル何だ?ミステリーか?ファンタジーか?
まあ、ファンタジーではあると思う。
人間よりずっと長生きのヴァンプ(吸血鬼のようなもの)の、人間の思春期にあたる不安定な時期の者たちを集めて教育する学校の中で起きる様々な出来事を描いた…と一言では言い切れない作品。

末満健一の手による美しく残酷な物語である。

今も長く続くシリーズになったきっかけは、このDステ版が好評を博したことによるものだが、私はこの作品を劇場で見ている。
しかも、DVD収録公演を観劇している。
たぶんここで上映される回をリアルに見ている。

Dステというのはワタナベエンターテイメント所属の若手俳優D BOYSとその弟分D2のメンバーで上演された公演シリーズのことで、このTRUMPはD2メンバーだけで上演された初めて且つ唯一の作品だった。

私は当時D2のオタクをしていた。
推し(という言葉は当時使っていなかったが)は西井幸人。
『告白』『鈴木先生』『35歳の高校生』『花ざかりの君たちへ』など、学園ドラマに多数出演していた。
映画ドラマが中心だったので、そこまで現場はなく、敢えて接触は避けていたので、生で見ることは少なかった。
テレビ、映画館、DVD……まあ、ゆるいオタクだった。

当時は(も)特撮やら舞台やらの追っかけをしており、予算配分に苦慮していたから我慢していただけと思う。
当時の記憶を辿るに、往復16000円ほどかけて夜行バスで毎月1〜2回東京には行っていて、表参道にあるワタナベのショップで推しと推し以外で好きなビジュのブロマイドを毎月大量に買っていた記憶があるので……(D BOYS、D2その他事務所所属の若手男性俳優のブロマイドを月替わりで売っていた)

そんなゆるオタとはいえ、推しグループの総出演の舞台作品となれば行かないわけにはいかない。
むしろ接触ありのイベントより、舞台こそ行きたいオタクだった。

『TRUMP』はTRUTHとREVERSEの2パターンがあり、関係性の強い2キャラクターを、ふたりのキャストが入れ替わりでそれぞれ演じる。
当時演技力も未熟だったD2のメンバーがやるにはハードルが高すぎるのでは?なんて声もあった。
ぶっちゃけD2の演技力なんてわかってるし、とりあえずオタクは金を落とすだけだ。
東京2公演、大阪2公演申し込んで4公演とも当たった私は幸運だった。
東京公演のサンシャイン劇場はともかく大阪はキャパ300のABCホールだったので……

ひとまず東京公演を見た私は打ちのめされた。
好きな系統だったから。好きなキャストだけで構成されていたから。
それを凌ぐほど面白かった。末満健一って何者!?

当時の私はそれだけだと思っていた。

このD2版が好評を博し、シリーズが続いていくことになる。
D2のように、ハロプロメンバーだけの『リリウム』関西版D-BOYSの劇団Patchの『SPECTER』まではよかった。

問題は2015年版TRUMPだった。

リリウム、スペクターは観劇をスルーして人から借りた円盤で我慢できた私も、流石にTRUMPは行かざるを得なかった。
しかも、当時割と好きだった高杉真宙がいたので……しかも、私の推しと同じポジション、主演。
特撮仲間の友人とチケットを取り、大阪公演を観た。

あんなに好きだったのに、つまらないと感じてしまった。

悲しかった。
続編の話も受けてストーリー自体がアップデートされており、役者陣のレベルも高い。
なのに、つまらないとはどういうことだ?

そこには、キラキラがなかったのだと思う。

下手くそなキャストが、全身全霊で必死に演じるときにだけ発する何かが、あの狂気の世界観にマッチしていた。
それが舞台を何千倍何万倍も面白くしていた。
念願のグループだけの公演、なにが何でも成功させてやるという熱量がステージにはあった。それが観客席に伝わっていて、私も受信した。

一方2015年版は、なんかサラッとしてた。
これは私が好きだったTRUMPとは別物なんだ。
私はTRUMPが好きなんじゃなく、D2がつくるクランが好きだったんだ。

悟った私は、TRUMPを遠目に見るようになった。
はじめての繭期、TRUMPシリーズ新作をする前に過去作を無料配信するときに、時間が合えば見る程度になった。

ヅカが、それも雪組が好きなので、マリーゴールドに元雪組トップコンビ揃えてきたときは流石に行こうか悩んだけど。
私はそのとき、近くの劇場で別の作品を見ていたので、結局行けなかった。そもそもそんな生半可な気持ちのやつはTRUMPシリーズのチケットを取れない。

とまあ、これが映画館に行き着く前にぐだぐだ綴った部分。
ここから先が映画館で見た後になる。

仕事を早めに切り上げ、映画館に向かう。
ロビーにクランへの入場チケットを持った多くの客が、開場を今か今かと待ち構えている。

私はなぜかポップコーンを買っていた。
飲み物だけ買うつもりが、映画館へ行くときの習性でつい。仕事帰りで何も食べてなかったのもあった。
展開のつらくなるシーンの前に…と思い、いつもの倍の速度で食べた。


入場特典のポストカード。日付も当時のままだ。11年前…

前説で何度かシリーズに出演している陳内将のコメント映像が流れて、確か当時一生懸命演じて〜…みたいなことを言っていたように思う。みんな見終わったあとウワー〜…ってなると思うけど、とも言っていて笑った。あの役の人が言うと洒落にならない。
ただ、既に繭期の鬱モードだったので、記憶が曖昧である。

いざ、上映。


私は泣いていた。号泣していた。
舞台や映画を見てもあまり泣かない方だ。気持ちは泣いていて目頭が熱くなっても、なかなか涙が出てこないドライアイだ。
リアルタイムの観劇時ですら泣かなかったのに。

数年ぶりに見るDステ版TRUMPは、びっくりするくらいみんな下手だった。記憶より、よほど下手だった。
でも、みんな一生懸命演じてる。
キャラクターとして、必死に板の上で生きている。
一つ一つの動作がどことなくぎこちなく、でも丁寧だ。
考えに考え抜いて、この芝居になったんだろうなと思って、まず泣いた。

しょうもないギャグの日替わりネタのシーンでは大爆笑していた。DVDで繰り返し見たので、ほぼネタは頭に入っている。それでも、笑った。なんなら、オチに入る前に笑ってしまう。ごめん、隣の席の人。何回かフライングで声出して笑ってしまった。

見ながら、今に思いを馳せる。
この子はドラマで見ないことがない。この頃と比べて、随分上手くなって、自分のキャラを確立したな。
この子もCMいっぱい出てるよね。昔から可愛かったけど、こんなに売れるとは思ってなかった。
この子は舞台でいっぱい見る。ぶっちゃけ2.5次元は私向けでないことも多いので、こういうオリジナルの役をもっとやって欲しいな。
この子は引退してしまった。ちょっと前に現職で元気に働いているところがテレビに出たので、きっと大丈夫だ。
この子はスキャンダルで引退。本気で芸能に戻る気なんだろうか。
この子はよくSNSで炎上してる。この頃は結構推してたわ。
この子は、SNSでよく見るけどよくわからん。昔から不思議ちゃんではあった。
この子は引退したけど、また戻ってきたな。見る機会はないけど、たまにSNSチェックしてるよ。
この子は、すごく心配な引退の仕方をしたから不安で仕方なくなる。生きてて。
この子は……どうしてるんだろう。たぶん、まだ俳優はしてる。

今は今だ。
人である以上、過去があり現在があり未来がある。未来は誰にもわからない。
なのに、私は今『未来』から『過去』を俯瞰している。未来を知っている状態で過去を味わっている。
そんな超感覚に陥って、くらくらした。

私は、三津谷亮の丁寧な芝居が好きだった。指先にまで心のこもった仕草。キャラクターの絶妙な心情を象る表情。
私は、近江陽一郎の笑顔が好きだった。見る人を幸せにするお日様だった。
私は、でも、やっぱり西井幸人が好きだった。

なんでそんなに好きだったんだろう。私が好きな芝居をするのはどう見ても他の子なのに。不思議になった。
でも、好きだったんだ。
好きだから、このセリフの発し方も、このわずかな仕草も、全部が愛おしかった。だから好きだった。
でも、今は私はもう、気持ちがすっかり離れてしまった。

彼の演じるソフィが、ラスト際、思い出の地で言うのだ。

『思い出は色褪せない』

と。
いろいろあったけど、なんだかんだ仲間と過ごした学生時代が楽しかったと、クランでの日々に思いを馳せる。

私はそのセリフにD2を、西井幸人を応援していた頃の自分を重ねた。
年月を経ていろいろあった。気持ちも変わった。
でも、あの頃彼らを好きでいた頃の自分は変わらない。間違いなく、私の青春の1ページなのだ。見返すには、少し気恥ずかしいほどの。
そのセリフで全てのもやもやを、涙で洗い流された気がした。
今はどうであれ、あの頃の私を否定する必要はないんだ。

どうしようもなく悲しい物語だ。
でも、私は清々しい気持ちで映画館を後にした。

もしもひとつだけ、記憶を消して観劇し直すことができるのなら、きっと私はTRUMPを選ぶだろう。

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