10回目のお遍路

11月2日(木)

 前回9月の遍路から2カ月。本格的な冬になる前に、もう少し先へ進めておこうと、11月初旬、臨時休業を1日頂いて4日間の遍路へ出かけました。
 木曜日の営業を終え、今回はフェリーを利用して四国へ向かいました。大阪南港から22:00出発のオレンジフェリーに乗船し、四国へ向かいました。明日から3連休とあって、船内は満室でした。

オレンジフェリーの船内

11月3日(金)


 6:00愛媛の東予港に到着。予約していたタクシーに乗って、前回最終の石鎚山駅へ向かいました。出発前、タクシーを予約するため、近くのタクシー会社に電話をかけたのですが、なぜかどこの会社も朝7時からでしか迎えに行けないという返事。こちらのタクシー会社は5件目で見つけたところでした。これも国の働き方改革というものの影響なのでしょうか。
 朝の気温は17℃もあって、今日は何となく暑くなりそうな予感。11月というのに半袖のTシャツで歩き始めましたが、全く寒くありません。ここから次のお寺までは40㎞ほど距離があり、今日はお寺は無し、宿泊するホテルを目指します。

石鎚山駅


 国道11号線をひたすら東へ歩き、およそ4時間、そろそろ疲れてきたかなというタイミングで、「善根宿」という大きな看板を発見。お遍路さん、休んでいってくださいというメッセージに魅かれて、建物の中へ入ってみましたが、中には誰もおられませんでしたが、テーブルとイスがあったので、しばらく休ませて頂くことにしました。テーブルの上には美味しそうなミカンが置かれていたので、有難く頂いていると、その建物のご主人が帰ってこられました。

善根宿


 「ミカン、頂いております」とお礼を言って、しばらくご主人と歓談。お遍路さんが気軽に立ち寄れるようにと、わざわざその場所を購入され、色々な方に協力してもらいながら、善根宿を運営されているとのこと。お遍路さんは休憩だけでなく、無料で泊めて頂くことができるのです。このような方のお陰で、歩き遍路も安心して休憩させてもらうことができるのですね。実にありがたいことです。
 20分ほど休憩をさせて頂き、ご主人にお礼を言って、また歩き始めました。
 13時前、番外の延命寺に到着しました。お参りを済ませ、御朱印を頂き、
延命寺を後にしました。そろそろお腹も減ってきたので、国道沿いにあったお店で腹ごしらえを終え、13時40分ホテルを目指して再び歩き始めました。16時30分、今日の宿に到着。

番外延命寺


11月4日(土)

 今日の行程は、いつもと比べると比較的楽な距離で、珍しくホテルで朝食をゆっくり頂き、8時に出発、およそ6.4㎞先の三角寺を目指して歩き始めました。標高500mの三角寺までは登りが続きますが、それほど険しくもなく、9時前に到着しました。お参りを済ませ、お寺を後にしようと思っていたところ、境内におられた一人のおじさんが、ここで似顔絵のお接待をされている方がおられることを教えてくださいました。ほどなく境内の一角で、年配のご夫婦が、色々と準備を始めておられるのが目に入りました。せっかくの機会なので、ありがたくお接待を受けようと、準備が終わるのを待っていました。

似顔絵のお接待


 準備が終わり、二人一緒に似顔絵を描いて頂きましたが、ほんの2分ほどで、手際よく、実物よりもはるかに良い、素敵な似顔絵が出来上がりました。何かお礼をしなければと思いましたが、お金などは一切遠慮されている旨が掲示されていたので、納札をお渡ししました。

実物よりはるかに良い似顔絵


 このような形のお接待もあるのですね。本当に良い記念になりました。
 10時、境内を後にして遍路を続けました。今日の宿への途中に、常福寺さんという番外のお寺があり、まずはそこへと向かいました。お大師様ゆかりのお寺で、お大師像をはじめ、福の神様や火伏不動尊様などが安置されていました。お参りを済ませ、御朱印を頂こうとすると、「歩き遍路さんですか」と尋ねられ、「そうです」と答えたところ、「歩き遍路さんには御朱印代はお接待させてもらっています」と仰った上に、お水まで接待してくださったのです。歩き遍路のしんどさや辛さを分かってくださっていることが伝わってきて、ありがたく感じました。

番外 常福寺椿堂


 12時30分、お寺を後にして、岡田屋さんを目指します。途中、国道192号線のトンネルを歩くルートと、もう一つ、遠回りになりますが、旧道の峠道を歩くルートに分かれます。トンネルは距離も短くなるのでありがたいのですが、真横を大きなトラックがどんどん走り、危険性も高いため、旧道を歩きました。旧道はもう通る車もなく、しずかな遍路を楽しむことができました。道の途中、境目峠というところが、その名前の通り、愛媛県の四国中央市と高知県の池田町の境となっています。峠を越え、坂道を下り、14時45分、岡田屋さんに到着しました。
 部屋に案内され、お風呂もすぐに入れると言われたので、汗を流し、お洗濯もさせて頂きました。夕食は18時からと言われたので、洗濯機のところで座っていると、先に到着された女性がおられました。お話してみると、その方は既に順打ちの遍路を2回、今回は逆打ちで、いずれも歩き遍路で回っておられるという強者でした。歩き遍路にとって、この民宿岡田屋さんは、憧れの宿です。何といっても、名物の95歳となられるおじい様とお話できるのが一番の魅力。その女性も、今回ようやく岡田屋さんに泊まることができたと仰っていました。

名物おじいさま


 夕食の時間になり、食堂へ行ってみると、私達の他に、先ほどの女性と関東地方の男性、さらにドイツ人の女性がおられました。お食事の用意やその他の仕事は、女将さんがなさっていますが、名物おじい様は、この夕食の時間、部屋で色々な話をされたり、相談事に乗ってくださいます。おじい様を中心に、皆で和気あいあい、情報交換や色々な話に花が咲きました。歩き遍路同士、国も年齢も性別も関係なく、楽しい一時を過ごすことができました。
 次の日は私達は4時出発となるため、皆様にご挨拶をして、8時過ぎに床に就きました。

11月5日(日)

 朝3時起床。準備を済ませ4時前に宿を出発。昨夜頂いた手書きの地図を見ながら、真っ暗な山道を歩き始めました。66番雲辺寺は標高910mにあるお寺で、民宿のある佐野集落から標高差700m、6㎞の山道を一気に登っていきます。山頂まで、ほぼ直線の山道で、覚悟はしていたものの、非常に厳しい登りが続きました。早朝にもかかわらず、全身汗だらけになりながら、一歩一歩踏みしめながら登り続け、5時50分無事お寺に到着しました。
 御朱印を頂ける7時までに、お参りを済ませようと、境内へ向かっていると、上の方から「この寺に何かご用か」と、ご住職らしき方の太い声が響きました。ヘッドライトを頭に付け、真っ暗な中を歩いている私達が不審者だと思われたのでしょう。「遍路です」と答えると、安心されたようです。
 お参りの前に、岡田屋さんが作ってくださった「握り飯」を頂き、腹ごしらえ。そして、本堂、大師堂のお参りを終え、7時前に無事、御朱印を頂きました。

雲辺寺
雲辺寺のおたのみなす

 次は67番大興寺、ここへも山道を下りました。登ってきたのと同じ高度を下っていくので、道は険しく、登りよりも気が抜けない下山でした。今回は、山道を通るので、トレールランニング用の靴を履いてきましたが、さすがにグリップ力も強く、あらためて靴の大切さを感じました。
 9時47分、無事に大興寺に到着し、お参りを済ませ10時23分に出発。ここまで予定通り順調ですが、相変わらず暑さは厳しく、この日も半袖のTシャツで十分な陽気でした。次のお寺まではおよそ10㎞ですが、険しい山の登り降りで、足は既に疲労困憊しています。そこで、休憩も兼ねて68番の手前で、うどん県初めてのうどん屋、やな川うどんというお店へ入りました。私達が入店した後は、次々とお客さんがひっきりなしのうどん屋さんでしたが、頂いたおうどんは、意外に柔らかく、のど越しの良い、京都のおうどんに似ていました。讃岐というと、歯ごたえのあるおうどんばかりと思っていましたが、このようなタイプもあるのですね。

 しっかりと腹ごしらえを終えて、12時30分店をでました。そして琴弾山という海に面した小高い山の中腹にある、68番神恵寺、69番観音寺にお参りしました。この二つのお寺は同じ境内にあり、御朱印も一か所で受けることが出来ます。御朱印を頂いた後、同じ場所にある、観音寺市の観光スポット「銭形砂絵」を観に行きました。この砂絵は、東西122m、南北90mの巨大な砂絵で、「寛永通宝」が描かれています。この砂絵を見ると健康で長生きし、お金にも不自由しないそうです。

砂絵


 14時過ぎにお寺を後にして、約5㎞先の70番本山寺に向かいました。15時過ぎにお寺へ到着、無事にお参りを済ませ、今日の行程は終了。お寺に近いホテルへ向かいました。15時46分ホテルに到着、ホテルといっても、以前はアパートだった建物をホテルとして改装されているようです。しかし、その分寝室もビジネスホテルと比べて広く、快適に過ごすことができました。近くのお店で夕食を終え、この日も早々と床に就きました。

11月6日(月)

 お遍路最終日。この日は3時起床、3時30分に出発しました。次のお寺まではおよそ12㎞。朝食は途中にある、24時間営業のすき家で頂く事にしました。初めて行ったすき家でしたが、朝食メニューは充実していて、鮭と納豆の朝ご飯を頂いたのですが、ご飯の量が半端でなく、いつも卵かけご飯をするときの3倍ぐらいのご飯の量だったので、おもわず卵を追加してしまいましたが、お腹一杯になってしまいました。

すき家


 6時30分、71番の弥谷寺へ到着しました。このお寺は弥谷山という380mの山の中腹に位置していますが、それほど高い山でもないので油断していたのですが、境内口から本堂までは延々570段の石段が続き、実にハードな登りとなりました。それだけに、大師堂の奥に創られた獅子之岩屋は、霊験あらたかな雰囲気で、岩肌には摩崖仏も刻まれてありました。
 7時10分、お寺を後にして72番曼陀羅寺に向かいました。曼陀羅寺までは歩き遍路の道を下りましたが、適度な山道で、非常に気持ちよく歩く事ができました。8時、曼陀羅寺に到着、ここから400m先に73番出釋迦寺もあります。二つのお寺のお参りを終え、9時過ぎに74番に向かいました。
 およそ2㎞先の甲山寺には9時30分に到着、10時10分にお寺を出発し、75番の善通寺へ向かいました。

広大な敷地の善通寺


 善通寺は、京都の東寺、和歌山の高野山とならぶ、弘法大師三大霊場であり、お大師様が誕生された地として知られ、観光に訪れる人も多いお寺です。この日も平日の月曜日だというのに、境内は観光客で賑わっていました。
 善通寺の門前に、昔から有名な「かたパン」のお店があり、手作りで売り切れ次第終了と聞いていたので、お参り前に「かたパン」を買いに行きました。

かたぱんの店

 境内は東院と西院とに分かれており、総面積は45,000㎡もある広大なお寺で、京都の東寺さんと同じぐらい立派な五重の塔もありました。また、今年はお大師様ご誕生1250年の年で、特別の御開帳などもあり、ここではしっかり時間をとって見学をしました。 12時に善通寺を後にして、76番金倉寺へ向かう途中、雨が降ってきました。傘をさして歩きながら、どこかで昼食をとお店を探していたところ、次のお寺のすぐ手前に、はなや食堂というおうどん屋さんがありました。昭和の香りがする、個人的に好きな雰囲気のお店です。中へ入ってみると、おうどんの他におでんもあって、思わずおでんや天ぷらなどをたくさん頼んでしまいました。

おうどんとおでんの店


 13時47分、お寺を後にして、今回最後のお寺77番道隆寺へ向かいました。14時45分道隆寺到着、15時過ぎに出発。順調に遍路も進み、予定よりも1時間以上早かったので、帰りの時間を早めて京都へ戻りました。

 久しぶりの4日間連続の遍路。今回で長い距離や遍路ころがしの区間もほぼ終わり、次回は78番から。長かった区切り遍路もようやく先が見えて参りました。今回もたくさんの良いご縁を頂くことができ、素晴らしい4日間となりました。歩いている最中は、しんどいと思う道中ですが、終わってみるとすべてが有難く、改めて「歩き遍路」ならではの体験をさせて頂いております。
 体力的に歩き遍路などは無理という方も、ぜひ一区間でも歩いてみてください。車やバスで回る遍路と歩き遍路は、全く別の体験です。確かに道中は暑さや寒さ、雨、延々続く長い登りなど、辛いことも多いですが、これこそが修行。これまで見えなかった、また違った景色が見えてくるはずです。
 11回目のお遍路も、こうして無事に終えることができ、全てに感謝です。


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