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受験生に現金!?

 フェイクニュースではありません。旭川医科大学医学部看護学科の小論文試験で本当にあった出来事です。出題はこんな感じで始まります。

別添の封筒をあけ、中の千円紙幣を取り出し、次の問1、問2、問3に答えなさい。

 どうやら封筒の中に千円紙幣が入っていて、それが受験生全員に配られたようです。日本の大学入試史上初めて受験生に現金が配られた「事件」、地元の北海道新聞がなぜ一面トップで取り上げなかったのか不思議です(笑)

 そして、以下の問題が続きます。これは単なる知識テストで、特に難しくはありません。この人物は野口英世、医療系志望ではなくても、ある程度は知ってますよね。

問1 この紙幣に印刷されている人物についてあなたが知っていることを、250字以内で書きなさい。

 ところが、次の問題になるとちょいと難しい。千円紙幣をじっと観察した経験のある人なんて、そんなにたくさんはいません。きっと、当日の試験会場は、受験生が千円紙幣を上から、下から、横から、裏から、斜めからながめて、あれこれと考え込む光景が繰り広げられたと思います。ボクも解答例を書くために、初めて千円紙幣の裏側をまじまじとながめました(笑)

問2 この紙幣を、たとえば形・大きさ・デザイン、さらには紙質など、多角的な視点からよく観察し、あなたが高く評価できると思う点と、改良したいと思う点を、それぞれ理由も付けて600字以内で書きなさい。

 で、出題者は、最後の問題で受験生に出題意図をたずねるという荒技に出ました。さすがに、受験生にとって、これは難しすぎました…ヒントは引用された投稿の記述の中にあります。この投稿者も同様な意見を持つ受験生、父母、教員も、「みんな小論文試験のことわかってないんだよね…」というのが出題者のつぶやき・不満です。
 小論文試験は、投稿者が言うような「基礎となる知識や意識」を問うものではありません。論理的思考力やクリティカルシンキングを問うものです。でも、みんなわかってないんだよね…。ボクも出題者の気持ちがよくわかります。この「事件」から10年近くがたつのに…受験ギョーカイは、この点でまだ何も変わってません。

問3 以下の文章は、「朝日新聞」朝刊の「声」欄に掲載された、読者からの投稿の全文です。投稿者は福島県会津若松市に住む59歳の高校教員だそうです。
 あなたがいま取り組んでいるこの入学試験「小論文」間題の出題者も、この投稿者と同様な意見を持つ受験生、父母、教員などが全国に多数いるのではないかと推測しています。問二も、この投稿者の意見では、「奇をてらったテーマ」を扱った不適切な問題ということになるでしょう。
 同様な意見を持つ人々が多数いると推測しているにもかかわらず、この「小論文」問題の出題者は、なぜ今回、敢えて問2を出題したのでしょうか。問2で答えた内容を十分に踏まえながら、あなたの推測を800字以内で、抽象的にではなく具体的に書きなさい。
 最近の医療・看護系大学入試の小論文の出題を見て疑問に感じることがある。医療系のテーマは出しつくしたとでも思うのか、それほど関連があるとは恩えない題で書かせる大学があることだ。例えば「ひきこもり系とルーズソックス系」「カタカナ語の氾濫」「人口の移動と土地高騰」「ネット社会における匿名の功罪」などである。
 受験のための勉強が、この分野を志す生徒の今後の人生にどれほど大きな影響を持つものか、前述のテーマを出題した大学の先生たちには分かっていないと私は思う。
 生徒が一つの題について書けるようになるためには、類似のテーマについて何回も書く練習をしなければならない。そして、そのために看護・医療関係の文章を数多く読み、考える。そのような勉強を通して、知識・意識・洞察力は深まり、書く内容が頭の中に構築される。ひいては医療に携わる者としてのあり方も備わっていくのである。
 視野の広さを求めるにしても、奇をてらったテーマで受験生の意表をつくことに、どれほどのメリットがあるだろう。
 大学は正統なテーマを与えて、その分野を目指す上で基礎となる知識や意識を問い、受験生の努力を評価してほしい。
(平成21年3月11日付け朝日新聞「声」欄より)

もっと深い解説や解答例もあるけど、またいつか!ね



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