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短編小説

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#創作大賞2023

ショートショート |葉っぱの一生

葉っぱが、また一枚地面に落ちました。 夕方の光がきれいなときです。 コツンという小さな音を立てて、 その葉っぱは生涯を終えました。 葉っぱが好きだったのは、人間の足音です。 コツコツコツという足音を、葉っぱは この世に誕生したときから聞いていました。 足早に過ぎ去る音もあれば、 ゆっくりと過ぎていく足音もありました。 じっくり耳を済ませていると、 その人となりというものが見えてきます。 怒りっぽい人、寂しそうな人。 楽しそうな人、悲しい人。 葉っぱにはすぐに

ショートショート|白い天使

もう人間が住まなくなったその星に、 一人の天使が降り立ちました。 緑で生い茂った森に入ると、 そこには小さな池があります。 人間たちが愛の言葉でささやき合い、 一生を共にすることを誓った場所です。 天使は池のそばに腰かけると、 人間たちの言葉を真似して言いました。 「好きだよ。」 「愛しているよ。」 「僕と結婚してください。」と。 真似して言っては頬が赤くなりましたが、 天使は続けてこう言いました。 「はい、お願いします。」と。 池の水は冷たくて、白い天使の

壮大な愛の物語

彼はこの世界に、宝物を散りばめた。 彼の愛するひとのために。 手紙だけではだめだったんだ。 言葉だけでは表せないこともあるから。 それに、ウィットに富んでいたほうが 面白いと思ったんだろう。 この世のありとあらゆるところに、 彼が彼女のことを愛しているという 証が散りばめられている。 空から落ちてくる雪の中にも、 海の中に住んでいる生き物の中にも。 7歳の時、初めてその宝物の一つを見た 彼女は目を見開いて驚いた。 彼女は手袋についた雪を見て、 信じられないとい