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短編小説

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2022年9月の記事一覧

ショートショート  | くすぐったい

空に向けて思いっきり手を伸ばしてみた。 そこには太陽があって 指の間から光が差してくる。 しばらくそこに寝そべって 両手を上に向けていた。 白いシャツを着たイーサンも 私と同じ動きをしている。 空に向けて両手を上げて、 太陽の光を手のひらで受けていた。 ときどき指の間から太陽の光が差して、 彼は眩しそうに目にしわを寄せた。 洗濯した後のシャツの匂いなのか、 それとも彼の匂いなのか。 私はその匂いに夢中になった。 太陽の光は相変わらず注いでいて、 甘酸っぱい匂い

壮大な愛の物語

彼はこの世界に、宝物を散りばめた。 彼の愛するひとのために。 手紙だけではだめだったんだ。 言葉だけでは表せないこともあるから。 それに、ウィットに富んでいたほうが 面白いと思ったんだろう。 この世のありとあらゆるところに、 彼が彼女のことを愛しているという 証が散りばめられている。 空から落ちてくる雪の中にも、 海の中に住んでいる生き物の中にも。 7歳の時、初めてその宝物の一つを見た 彼女は目を見開いて驚いた。 彼女は手袋についた雪を見て、 信じられないとい

流れ星

女の子が泣いているのを 僕はこっそり見ていた。 その涙はやがて川になり、 夜の星のしずくとなった。 小さな粒が夜空に向かい、 そのあと金色に輝いた。 涼しい夜風がそれを左右に揺らしながら、 ゆっくり空へと流れていったのだ。 その静かな光景を目撃していたのは、 一体どのくらいのことだっただろう。 あの星も、この星も。 静かな夜の風景の中で、 僕たちに優しく光っていた。 女の子もそれに気づいたようで、 目を真っ赤にしながら空を見ていた。 うるうるした瞳に、 無数の