結婚前のすり減った話(前編)

私は生まれてから24年間『エホバの証人の子供』として育てられた。熱心な母と研究生の父に育てられ、神権家族(両親ともにエホバの証人の献身した兄弟姉妹の家庭の事)では無い90年代生まれの家庭にしては珍しいくらいエホバの証人的に厳しく厳格な家で育てられたと思う。
どんな家庭環境で育ったかが分からないとなかなか読み辛いと思うのでほんの少し、鞭世代ではないにもかかわらず鞭(家庭によってスリッパだの、靴べらだの様々なもので叩かれていたと思うが、我が家はガスヒーターに使うゴムホースU字型にした物)多用する家で20才超えてもエホバの証人的に正しくないとされる行いをした際には自発的に下着を脱いで生尻を異性の親に叩かれ、両親共によく手も足も言葉も出る家庭で育てられた伝道者止まりのADHD(注意欠陥・多動性障害)療育児が私であるという事だけ頭の片隅に入れて読んでいただけたらと思う。
そして両親ともに過去も今現在も、そして恐らくこれから先の未来も、私に対してこれっぽっちも精神的・肉体的・性的に虐待をしたとは思っていない、宗教2世として育てるにあたり子供の信条の自由という権利を激しく損なったという事実すらも認めないであろうという事も。


私の中で大変だったの事は指折り数えて、指が足りないくらいにはあるが、結婚前後は大変というより、神経がすり減った。
世の人と結婚すると言った時の厳格な親との関係、お顔合わせだなんだとつづいて、あとかじる程度に法事の話までできたら、思う。少し読みにくいかもしれないがお付き合いしていただけると有難い。あと長くなるのでどこかでブツ切りにするのも許していただきたい。


私はエホバの証人でいう『世の人』と呼ばれるエホバの証人以外の人と結婚をした。

私の周りで所謂世の人と結婚したお姉さん達は両親、もしくは片親がエホバの証人である事を理由に(特に献身した姉妹は不道徳で排斥や断絶をするので)結婚式に出席してもらえなかったりした話を親の立場の兄弟姉妹や自分の母親から「排斥された娘の結婚式に行かなかった」とか「○○さんはエホバに背いて世の人と結婚したから本来なら喜びの日であるのに親から祝福されない惨めな結婚をしたのよ」なんて聞いていたのでハナから結婚式をあげるつもりは無かった。
第一、結婚式を挙げたい気持ちが私自身にあったとしても、フルタイムで働いていて毎月20万前半の給与をもらっていたのに親に給与全額没収、月1万円小遣い支給でノー貯蓄だった私の立場では彼に全額負担させないと挙式なんて無理だったのでそもそも挙式自体が非現実的な話であったし幸い、私と夫は一回り年が離れているので『結婚式はしないのか?』という質問には「年が一回り違うからどういう人を呼ぶかなかなか難しくて」と答えられるのでその点はクリアした。そんな些細な見栄はどうでもいい。
私には大問題があるのだから。

そう、問題は私の実家が熱心なエホバの証人であるという事だけである。1つの問題が相手から熨斗つけてでも返品してこいというレベルの大問題である。私が親なら子供がそんな嫁連れて来たらなるべく違う人と結婚した方がえぇんちゃうかな?って言ってお断りしたいし、義母もそうであったと思う。
そんな面倒臭い事この上ない嫁、貰わないにこしたことはない。
結婚前に会ってお話しましょう、と誘われて行った話し合いが終わった後、義母はポツリと「根掘り葉掘り聞いてしまってごめんなさいね。実はお爺さん(義祖父)、義祖母さん亡くなったあとに宗教絡みの女の人と仲良うなって借金こさえてしまって大変やったから」
よくお断りされなかったな、と今でも思う。

この頃、お義父さんが末期の癌を患っていて良き報告をして安心させたい気持ちが大きかった彼を通してお義母さんから『さくらさんの親御さんの宗教についてインターネットで調べてみたんやけど、1回詳しく会ってお話できませんか?』と言われたのである。この辺はまた別のnoteで書こうと思うので割愛するが、新幹線の距離を日帰りで義母と義姉にエホバの証人がどんな宗教であるか、結婚した場合最悪のパターンの場合どんな多大なご迷惑をおかけする可能性があるか、私自身としては両親と絶縁しても構わない気持ちでいる、という事をすごく必死に説明した記憶がある。私、どうして普通の家に生まれてこなかったんだろう。普通の家に生まれてきていたら結婚前にこんな惨めな気持ちで泣きそうになりながら必死に説明する事なんてなかったのに、なんてどうにもならない事ばかり考えた。

幸いにも義母や義姉にはそういった事情を理解してもらえて、今現在義母には可愛がってもらえていると言っても良いのではないだろうか?と思える程度に良好な関係で過ごせている。大変ありがたい。


そして親にカミングアウトするのだが、ここでも問題が発生する。
父と母どちらに先にカミングアウトするか問題である。

我が家は熱心な献身した敬虔な姉妹である母と、今の集会を完全に支持する事ができない仕事を辞め家族を養うという事に関して不安があり踏み切れない研究生の父どちらに先に言うか、である。
私は以前初めてエホバの証人を辞めるにあたって行動を起こした際にどえらい目に合わされたのでできれば穏やかに済ませたいーーーそう思い世の人と結婚しますとカミングアウトしても長老まで話が行き面倒な牧羊(最悪私の場合2対1や3対1で組織の偉い人とお話をする場で、婚前交渉だったりがバレた場合『直近でいつSEXしましたか』『通算何回SEXしましたか』とか自分がありえない屈辱を受ける場になる)を受けなくてよさそうな父に相談する事にした。

結果から言うと失敗であった。
まず牧羊を受けたくない、母のヒステリーを回避したいという考えしかなく、異性の親で一応愛情持って育ててくれている、愛されて育てられていたという事を失念していたのである。
(私自身、当時は自己肯定感が欠片もなかったので親に愛されているという自信はこれっぽっちも持ち合わせていなかったが、振り返ってみると愛されていたんだな。とは思う。エゴのような愛ではあったが。)
「少し話があるんだけど」と言って仕事帰りの父に結婚したい相手がいる、もう向こうの親に話をしたいと思っている、この家をできればすぐにでも出たい、なんて腐っても愛娘から言われた父の気持ちを毛程も考えていなかった私に父は少し黙って「相手は誰なの?まずどこの誰かを言ってから話にはいるんじゃないの?」と言ってこちらを見た。
実を言えば、私もわざと相手の名前を出していなかった。夫は同じ職場の上司で、万が一破談になった場合私は親から退職させられる可能性が高く正直名前を言いたくなかった。私は当時勤めていたブラック社畜飲食店の仕事が労基呼んだら一発アウトな企業だとは重々承知の上でやり甲斐があって大好きな仕事だったので結婚できなかったにしても仕事は変えたくなかった。そんな事など父にとってはどうでもいいので、押し黙ってようやく相手の名前を紡いだ私に父は、ほら見た事か。そんな相手は一時的な好意ですぐ無くなるとばかりに「今すぐ別れなさい。今まで秘密で付き合っていて親にも言えない様な相手と結婚なんてすぐに離婚する。絶対に不幸になる。そんな事の為にさくらを育てたんじゃないよ。」という言葉に酷くがっかりし、反論する気も失せ(その様子を恐らく父は、ほら見ろ、どうせその程度の気持ちでしょう。と思った様子であったし)母が仕事から帰ってきて玄関の鍵を開けている音でお開きになった。
「お父さん、今の話は聞かなかったことにするし、ママにも言わないから。」


だが、相手の親にもう既に言ってしまったのでもう母に言うしかない。むしろ言わないと拗れて一生結婚できず家からも出られない女になるのは絶対に避けたい。できれば結婚できなかったにしても家からはとりあえず出たい。
ヒステリーをなるべく回避すべく機嫌のいい時を選んで伝える努力はしたが、機嫌のいいタイミングはなかなか無く、よく考えなくても(誰だってそのタイミングは機嫌悪くなるよね?)というタイミングに言い逃げする事にした。
とりあえず言ってしまったモン勝ちだと思った。

選んだ場面は、両脇に犬を抱きしめ今まさにハッピー就寝!とばかりに横になった敬虔な母親に経験の浅い娘が突然打ち明ける、というもう本会場第2の話で実演形式で見てほしいくらいに最高難易度の話の場面設定で伝えた。(元JWで神権宣教学校の割り当てやった方に伝わってほしい。)

「おやすみ、あとごめんね。私近いうちに出ていく。今年中か来年の春前までに結婚したいからもうこの家には居れないと思うし、新居どうするか決まるまで同棲したいと思うから出て行くね。」

鳩が豆鉄砲食らった顔ってきっとこんな顔なんだろうなって顔で母は私を見た。犬2匹も謎の緊張感を感じたようでスルリと母の腕から抜けて布団から出て行った。
「……結婚したいの?」
「もう、相手の親にも言ってしまったから。」
「結婚するなら、同棲しなくていいと思うけど。」
多分私も1分前の母と同じ顔をしたと思う。

恐らく、母は私が数年前からあの手この手でエホバの証人を辞めようとしたのを予想の斜め上の行動で潰して静かに大人しくなったから、これでやっと諦めたと思った時に突然長老から「さくらさんがベテルに電話してベテル経由で辞めたいというのが長老に伝わりました。」というのを集会終わりに告げられ、集会に参加しなくなって1年。なんとなく予想がついていたのではないかと思う。
「結婚するなら同棲する必要はないと思います。」
「どうして?」
「同棲するよりまず、結婚するならするで必要な事があるでしょう。家事をするとか、料理を作るとかまずそういうものが出来るようになってはじめて生活の基盤が出来るのだから同棲するのではなく学ぶ必要があります。ただ、相手には一度お会いして話がしたいので都合聞いておいてください。」

話は15分程で終わってしまい、母も「もう寝るから、詳しくは明日」と寝てしまい、普段の経験からもっとバイオレンスな事になると身構えていた私は呆気に取られて自分の部屋に戻った。
この日から実母は会話がしやすい『母親』になってくれた気がする。
いつの日か私が辞めたい、エホバの証人には死んでもならない。もう疲れたから貴方の気が済むのなら次の集会で長老に献身したいから討議してくれと言うが私はエホバの証人にはなれないので必ず排斥になると思う。と伝えた時、静かに涙を流して怒りよりも悲しみが強い表情で『貴方がサタンと共に滅ぼされる為に育てたんじゃない!』と私に言い放った面影はどこにもなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?