日常

腹の虫も鳴くのを諦めた頃、やっとの思いで会社を出る。
足元を見ると、路面が湿っている。
ああ。今日は雨が降って、そのあと止んだみたいだ。
あと2時間で今日も終わろうというタイミングでようやく、今日の空模様を知る。

世界で最も安い浦島太郎になった後、電車に乗る。
平日の下り電車に相応しい、やつれた顔と窓越しに目が合う。
窓の向こうに街頭が近づくと消え、遠ざかるほどはっきりと浮かび上がるその様は、まるで自分の人生さえも映し出しているような気がした。

じゃらり、とポケットが鳴る。
音の正体を知りつつ、敢えてそれを取り出す。
家の鍵…についた、マスコットを見る。
数日前に出ていった彼女が勝手につけたものだ。
差し色の蝶ネクタイが印象的な、2頭身のパンダのマスコットは、
大福のようでもあり、おにぎりのようでもあった。
このキャラの名前はなんだっけ…?
思い出すより先に、空腹を思い出した。空腹で良かったと思った。

放送を聞くでもなく、習性のように電車を降りる。
帰り道のコンビニで、上げ底の弁当を手に取る。
珍しく、和菓子コーナーが気になった。
真っ白でまん丸でシンプルな大福って意外と置いて無いんだな。
新しい気付きとともに、豆大福にも手を伸ばす。

嘔吐寸前の郵便受けを素通りして、ようやく家に辿り着く。
ポケットから鍵を取り出す。
労うかのように、掌に半月のような笑顔が浮かんだ。









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