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ワザワイ転じて山芋ウナギ ~とある女子高生の奇妙な回想録~ 其の10 #2

「すばるさん、甘い物はお好きですか?」
「え?は、はい」
「私、緊張してる時は甘い物を食べると少し落ち着くんです。如何ですか?
 アレルギーなどはございませんか?」
「あ、アレルギーはございません・・・です」
 あああああああああ~、”ございません”に”です”ってバカなの⁉”ございません”で止めるんだよ、バカ。使い慣れてないのがバレバレ~(泣)
 信号で止まった時に、浅倉さんが黒い薄い箱を手渡して来たので受け取ると、箱の上に《BV〇〇ARI》と金色の文字。
 これはひょっとして・・・・・いや、こう読めちゃうってだけで、実際自分、ブランドとか詳しくないしな~。でも違うのかな~⁉とにかく、何か高そう~(汗)しかも、めっさ冷え冷え・・・って、車の中に冷蔵庫があるってこと⁉ひや~、マジで~⁉
「あの、これ、何だか高そうな・・・」
「頂き物ですので、ご遠慮なく」
「あ、はい・・・」
 いや、貰った物だからとか自分で買ったとかそういう問題じゃないんだけど・・・感覚がよく分からない(汗)取り敢えず箱開けてみよう・・・
 恐る恐る箱を空けると中には5つしか入っておらず、まだ一つも手を付けられていない。5つのうち4つは箱に記載されているブランド名が記されていて、どこまでブランド強調するのか⁉というぐらい高級感のマウントを取られているようなチョコレート。威圧感に思わず一旦蓋を閉める。
「あの~、本当に食べて大丈夫なんですか?」
「どうぞ、召し上がってください」
 ”召し上がってください”なんて言われたことないので、余計に緊張するし、どう反応したら良いのか考えるが、”いただきます”しか思いつかない。一般人の生活しかしていない自分には、どれだけ頭の中の引き出しを引っ張り出したとて、丁寧な浅倉さんに対応できるだけの情報がない。
「あ・・・りがとうございます。いただきます」
 の前に、汚したらヤバいからタオルハンカチ、タオルハンカチ・・・いつでも手を拭けるようにしておかないと、手が汚れた後じゃ、トートバッグも汚れる可能性~~~~~、落ち着かない(汗)
 トートバッグからタオルハンカチを取り出して膝に置き、ハンカチの上に箱を置いて再びそ~っと蓋を取る。
 おお~、やっぱたっかそうだな~~~~~~~~。気が引けるし、喉通るか⁉しかし、ここで”やっぱりいいです”なんていうのも何だかな~。
⦅せやったら最初っから”結構ですぅ”って言えばえ~んちゃうんけ⦆
 え?いる?オッサンいる⁉いや、そんなワケない。え、幻聴⁉え?何、なに⁉
「どうかされましたか?」
「え?あ、いえ、何も~~~~」
 無断にキョロキョロしていたのが怪しまれたらしい。いや、確実に怪しいと思う。んっほっほ~、頭の引き出しにオッサンが収納されてるとか最悪なんですけど~~~~~(泣)
 はいはい、取り敢えずサッサと食べればいいんですぅ。こんな高級っぽいチョコを食べる機会なぞそうそうはないのだから、思い切って食べよう。ラッキー!と思って食べよう。威圧感なんて関係ない!チョコだ、これはチョコなんだ!え~いっ!
 一番端っこの一粒を摘まんで口に運ぶ。一瞬、齧るべきか一口で食べるべきか迷ったが、もし中から柔らかすぎたとしたら零れるかもしれないことが頭に浮かび、一粒をそのまま口に入れる。
 口に入れただけでフワッとチョコの香りが口の中に広がり、チョコを一噛みするとパリッと表面が割れ、表面のチョコとはまた違う味の柔らかいチョコが融合し、食感も味も何ともかんとも表現し難い、幸福感溢れる一粒。
 ん~、めるてぃ~~~~~~~♡美味しいとかそういう表現じゃ足りないし、何て言うのかな~~~~~~⁉
「如何ですか?」
「ん・・・すーっごくおいひいでふ」
 自分の語彙の少なさにガックリ。結局”美味しい”しか言えない自分に溜息。
「お幾つでもどうぞ」
「は、はい」
 味わいながら他のチョコレート見つめ、もう一つ食べたい、食べたいけどいいのかな~⁉と思いつつも、結局次はどれを食べるのかを考えている。
 じーっと見ながら、結局端から順番にでないとハシタナイかもと、先程食した粒の隣を手に取り、再度口に入れる。
 あ、さっきのより更にマイルド感。だけど、何かピリッとしたものを感じる・・・何だろう・・・?あ、生姜⁉え、マジで?スゴっ(驚)すぐには分からなかったけど、よく考えたら生姜蜂蜜とかもあるし、韓国にも生姜茶があるし、そうだよね~。ん~~~~~感動~~~~~♡
「宜しかったらお持ち下さい」
「へ?」
「まだありますので、お嫌でなければお持ち下さい」
 ”お持ち下さい”?持って帰っていいってことよね?え、マジで?これ、めちゃめちゃ高いはずなのに、”まだあります”ですってぇ⁉おおおおお~、秘書さんって儲かるんだな~。じゃなくってー!
「へ~・・・あ、でも家族とかにあげたりしないんですか?」
「偶に渡しますが、良い物に慣れ過ぎられても困りますから 笑」
「あ、は~・・・なるほど」
「なので、どうぞ、お持ち下さい」
「あ、え、はい。あの、ありがとうございます」
 良い物に慣れ過ぎるとどうなるんだろう?良い物しか食べたくなくなる?そんなもんなの?・・・まあ、自分には関係のない環境ですな。
 恐縮しつつも、自分にはたま~にご褒美に買う150円以上のチョコでも幸福感は得られる。という意味では、この高級チョコを必死で手にいれなくても、ずっとずっと安くシアワセを感じられるのも悪くない。”これさえ乗り切ったら”とか、”これをやり切ったら”、を何度も我慢しないと得られない高級チョコだと、絶対に息絶えてしまう。
 こういうのは”いただき物”が一番良いのかも、と漠然と思いながら、次々食べるのは勿体ないので、そそくさとトートバッグに仕舞い込む。
 それからは、浅倉さんの質問に答えるうち、浅倉さんが上手に話をしてくれるからか会話を続けられ、気が付いたら目的地に到着した。
 しまった、周りの風景も何も見ずに着いてしまった!隣の市って言ったって何だかすんごいザックリし過ぎだし、どこをもって”隣”って言うんだよって話だし、外の様子を見ておいてどういう道筋で来たか覚えておこうと思っていたにも関わらず、やっちまった感。
 自分の不甲斐なさにガックリと肩を落としていると後部座席の扉が開き、浅倉さんが立っていることに気付き、急いでシートベルトを外す。外そうとし、慌てて逆にうまく外せないという失態。浅倉さんから”ごゆっくり”と言われ、それは自分が明らかに慌てて見えているということを更に自覚するに至り、”恥ずい”とその状況に顔から火が出る感覚、この暑い中で。
 漸くシートベルトを外し、”早く出ねば”とばかりに出ようとして車のフレームに頭を打つという更なる失態。ここまで来るともう自分でも呆れてしまい、溜息しか出ない。
 そして、ぶつけた頭を摩りながら漸く車から降り立ち、前を見て思わず出た言葉は”デカっ!”。
 ボーゼンと立っている間に浅倉さんは車を車庫に停めていたが、そちらを見て、”ゲ、高そうな車が他に2台もあるっ!”と言葉に出そうになったのを抑え、でも限界があるのか、目は乾燥してしまうのではないかと思う程に見開いてしまっている。
 何か、家の奥がカジノになっていて隠れ賭博で稼いでいるとか、政治家パーティーが催されてお金の遣り取りがあるとか、そういう状況に巻き込まれるとかないよね?巻き込まれたとしても、自分はJKだから無罪放免だよね?ていうか、こんな場違いなところに行くとなった時点で、もうこの年齢なら怪しめよ、と言われたら反論できない?まさか、密かに臓器売買で稼いでるとかないよね?実はマフィアとかその筋が家業、とかないよね?何かいい方に思考がいかない(泣)
「ではすばる様、参りましょう。こちらです」
 すばる”様”?”様”って柄じゃないんだけど・・・ムズ痒い。きっと、”こんな小娘になんで丁寧に接しないといけないんだ?”と思っていたとしても、それはおくびにも出さないんだろうな~。秘書さんて大変なお仕事~・・・って、ん?ん?ん?ん?ん?ん?何かデジャヴ、デジャヴ、デジャヴ、何か思い出しそう!ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~っと、出てこい、出てこい、出てこい・・・あ!病院じゃん!やや後ろから声かけられて、”あっちです”って言ったじゃん!そうじゃん!病院で場所教えてって言って来たの、浅倉さんだったんじゃん!あ、そうかあ~、なあんだぁ、スッキリしたぁ~~~~~。いや、スッキリしたーじゃねーし!浅倉さん、お母さんのお見舞いに来たってこと⁉


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