ミドガルズオルム

※これはFF14漆黒秘話第8話を元に、FF7の設定を使った二次創作です


「あの沼地を越えたいんだが」

いつものようにファームでチョコボたちの世話をしていた少年に向けて、見慣れない一行の先頭にいた男が声をかける

顔を上げた少年は言った

「ああ、あの沼地はミドガルズオルムっていう大きなモンスターが縄張りにしているから、普通に足を踏み入れるとあっという間に食べられちゃうよ!」



少年が暮らすチョコボファームから少し南下したコレル山の麓にある大きな沼地には、はるか昔から大きな蛇が住んでいる

少年は祖父から何度も何度も「あそこに近づいてはいけない」と教えられていた。「あの蛇は街の神様みたいなものなんだ」と

「なんで街の神様なのに、沼に入った人を食べちゃうの?」

幼い日の少年は祖父に疑問を投げかける。神様なら皆を守ってくれる存在ではないのか、なぜ攻撃してくるのだろうか


「街を守る神様ってのは、外からくる敵を倒すだけじゃない。時には街の人を守るために攻撃してくることだってあるのさ」

まだよくわからないという顔をしている孫に向かって小さく笑ったあと、祖父はまたその親や祖父から聞いたあの蛇の物語を話して聞かせた


あのミドガルズオルムは、かつて世界がまだ混沌としていた時代にあった、ある小さな街を守っていたのだという

人々が寄り添い、力を合わせて暮らす街が外敵に攻撃されないよう、大きな自らの体を街を守る外壁にしてくれていたそうだ

人々はそんなミドガルズオルムに守られ、感謝しながら時間をかけて少しずつ人口を増やし、街を発展させていった

街の人々の尽力で街が大きくなったころ、ミドガルズオルムは街から離れ近くの沼地に住み着くようになった

度重なる外敵からの攻撃と、長い長い年月のせいでかなり弱ってしまっていたミドガルズオルムは

「しばし休息のために眠る、代わりに我の分身を沼地に放っておこう」

そう言い残してまた長い眠りについた

いつしか街の人々はミドガルズオルムのことを忘れ、「あそこの沼地には大きな蛇が居て、近づくものを食べてしまう」という話ばかりが残ることになったという


「結局なんでミドガルズオルムは街の人すら食べちゃうのさ?守ってくれるんじゃなかったの?」

祖父の話を聞いても疑問が解消しなかった少年に対して祖父は言う

「安全な街から広い世界に出て行くには、乗り越えなきゃいけない困難が付きまとう。彼は本人にその技量があるかどうか見極めているのさ」

沼地を越えるには、チョコボなどの脚の速い乗り物を使って駆け抜けるか、本人が大蛇を倒せるくらい強くなるか、もしくは機転を利かせて大蛇をうまくすり抜けるしかない

つまり、自身の安全を確保できる金銭的な余裕があるか、困難に立ち向かい戦えるだけの強さがあるか、どちらも持っていないならば、それを補えるだけの知識を持っているかのいずれかが必要なのだ

どれも持っていないなら大人しく街に戻れというミドガルズオルムの優しさと試練なのだと

自分の技量を図れず無謀に旅立って死んでしまっては元も子もないだろう、命を大切にしろという大蛇からのメッセージなのだというのだ

「でも食べられちゃったら死んじゃうよ!」

「ハハハ、運が良ければすぐ誰かに腹の中から出してもらえるさ」

祖父は笑って答えた

幼い日の少年は、それを聞いて絶対にあそこには近づかないようにしようと誓ったのだ



沼地を越えたいと声をかけてきた彼らに向かって少年は答えた

「チョコボがほしいの?チョコボよせのマテリアは2000ギルだよ」

チョコボに乗っていたとしても必ずしも安全とは限らない、チョコボもろともミドガルズオルムに飲み込まれてしまうことだってある

だからファームでは沼地を初めて越えようとする者に自ファームのチョコボは貸し出さず、自力で野生のチョコボを捕まえてもらうことにしている

そんな人ら向けに販売しているチョコボが好む匂いをたっぷりと付けたチョコボよせマテリアは、ここチョコボファームの大切な収入源なのだ

「2000ギルか…」

手持ちがそこまで潤っていないと思われる一行は、2000ギルという絶妙なマテリアの価格に迷っているようだ

たしかにここらではちょっと高額な値段設定だが、生きていく上ではギルは大事だ。2000ギルという金額で得られる安全と命をどう秤にかけるかはその人次第である

彼は少年ながらギルの重要さをよく知っていた


その後祖父に呼ばれてその場から離れた少年はその後一行がマテリアを購入したかは知らないが、その後沼地で誰かが食われた痕跡が見つかったという噂は聞かないから、きっと彼らは無事コレル山を越えたのだろう


その2000ギルの出費を迷っていた一行が、その後世界を救ってくれるヒーローたちであったことを少年が知るのは、もう少し先の話






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?