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シュワシュワケトル

シュワシュワケトルが生まれたのはいつのことだっただろう

最初はただの魔導ケトルだった

作業の合間、ティータイムを皆に提供するために作られた、ただのケトル

それが壊れた時、ほんの少し手を加えたケトルが作られ、戯れに「シュワシュワケトル2世」と命名された

より効率よく湯を沸かすために、飲み物に合う温度を的確に沸かすために少しずつ改良されるたび、改良の証としてその数字を増やしていった


14世になるまで改良が加えられたシュワシュワケトルは、とある世界を守るために奔走する団体の受付嬢に贈られた

団体に所属する賢人たちのために各地を飛び回る彼女に、ほんの少しのティータイムを楽しんでもらうために

ケトルを作った技術者の受付嬢への密やかな想いを乗せて



受付嬢が所属する団体はその使命の大きさ故、敵も多かった

技術者は自分の使命があり、彼女を守ることはできない

そもそも彼は、どこぞの英雄たちのように武器を取り魔法を駆使し戦う術を持っていなかった

あるのはとある希代の機工師の元で培った自分の頭脳と知識、そして技術力のみだった

彼女の身を守る護衛のロボットを作ろうかと提案すれば、そんなものを連れていたら邪魔だと断られるだろう

だから技術者はケトルを改良し続けた

彼女のささやかな休息に役立ち、なおかつもしもの時にほんの少しでも彼女を守る時間稼ぎになるようなものを



いつしか世界は帝国の使用した化学兵器のせいで混沌と化していた

技術者は自分の重大な使命の最中に時間を見つけては手を加え続け、シュワシュワケトルは改良に改良を重ね100世を超えていた

全てはこの地獄のような世界の中で「彼女が生きていてくれるために」「彼女の身を守ってくれるものを」



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ーシルクスノ塔開扉ヲ確認ー

ー来訪者ノ認識番号登録ナシー

ーセキュリティ解除コード入力ナシー

つまり侵入者だ

シュワシュワケトルCXLIV世は立ち上がる

今日も真下にいる誰かを守るために


ケトルを作った技術者の、受付嬢へのただひたすら一途な想いを乗せて


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