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聖母たちのララバイ

男は開けた。
戦場への扉を。


乾いた音を立て、風に転がるプラ容器。
首元や顔には、べっとりとした大気がまとわりつく。
影を飲み込む程の雲は、深く、重く、低く、圧をかけ頭上を支配する。
顔の輪郭を這いながら滴り落ちる油は、ぴりりと緊張を走らせ喉を枯らす。
遠くを蹴散らす白い閃光、突き刺さる光の龍。
怒りか、哀しみか、ゴロゴロと鳴く声が五臓六腑を震わせる。
足元に鉛の花が咲き始めた。

「来るぞ、備えろ。」

構えた得物は長く、黒く、冷たく。
未だ見ぬ世界へと向けた切っ尖、ワンタッチの弾き金が放たれ、コウモリの翼が男を包んだ。

「参る!」

雄叫びを上げながら、蹴った地面が飛沫を上げ、駆ける背中を暗雲が包み込み、やがて男は消えて行った。
そう、梅雨戦線に。


パタリと閉めた扉に未練もなく、踵を返してこちとら内戦へと向かい。腹が減っては何とやら、バリバリと音を立てボロボロと溢れ落ちる堅焼きの欠片も何のその、咥え煎餅を燻らせテレビに向けて弾き金をポチッと押せば、聴き慣れた声が天龍(アマタツ)を呼ぶ。
「梅雨前線の影響により〜」


洗濯物の生乾きの匂いに導かれ現実へと引き戻されながら視界に入った暦は9月。

アレ?ていうかもう、秋雨前線じゃね?

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