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バランシンの『ウェスタン・シンフォニー』は、接待を伴う飲食業・畜産業に従事する若者が能天気に踊るバーチャル・アメリカ

 思えばバレエも遠くへ来たものである。イタリアの都市国家で出産の兆しを見せ、フランスの宮廷で産声を上げ、すくすくと成長してヨーロッパに広まり、ロシアでゴージャスさに磨きをかけ、エリート芸術としての完成を見た。前後してアメリカに伝播、やがて渡米したジョージ・バランシン(1904〜1983)が、接待を伴う飲食業と畜産業に従事する若い男女が能天気に踊る『ウェスタン・シンフォニー』(1954年)を振り付けた。本作には、古典バレエの常連キャラクターである純情な村娘や深窓の令嬢、はかない妖精の出番はない。開拓時代のアメリカ西部とおぼしき場所で自分の食い扶持を自分で稼ぐ、等身大の若者たちが、エリート芸術の先鋒だったバレエに居場所を見つけたのだ。

トップ写真:Roman Mejia of New York City Ballet in “Rondo” from George Balanchine’s Western Symphony, which NYCB streamed for one week starting on Tuesday, May 12 at 8pm. Credit Erin Baiano

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