小説2、最終回

「君はもうどうしようも無いんだからねぇ。君は僕に深入りしてしまったからさぁ。」

確かにもう遅い気はした。頭は普通な気がしているけど、もう彼の傘下なのだ。
僕は侵食されていくのか。そうだろうな。彼を信じすぎた。彼は人間ではないのだ。

彼は微笑みを浮かべていた。僕はもう終わりが近づいているように感じた、自分はまともに頭が働かない。

王さん、王さんがそこにいるような感じがする。僕を助けてくれ、、、。

王は蓮の前に現れた。いる場所を知っていたようだ。そして何十年後に再開した蓮に向かってこう言った。

「蓮、俺は蓮を尊敬していた。何故俺がいることを知っていて会いに来なかったんだ。俺はずっと待っていたんだ。二人が帰ってくることを。」

「王、君は知らないことの方が多いみたいだねぇ。柊を殺したのは僕だし、いい人間でないことぐらい分かっているんじゃないのかなぁ。
帰ってなんて来ないさ。だって君は僕の友人であるからね。いつまで経っても友人であるから嫌だったんだよ。友人なんて無駄な繋がりさぁ。君が仲良くしていた少年はもう、僕の配下だ。僕の言うことを聞く優秀な駒になったんだよ。」

いきなり立ち上がって、凶器の目を王に向けた。

「ふふふふふ、蓮さんの言う通りだねぇ、僕は嫌な奴を排除したいんだよ。分かるかい。僕は秘密を知ってしまったから、もう蓮さんに飲み込まれるしかないみたいだよ。そうだなぁ、王さん、僕を刺し殺してよ。そして何もかも無くしてしまいたい。いやもうどうせ死ぬことには変わりないし死んでしまおう。ははははは、楽しいよ。」

自分で自分自身を刺した。そして倒れた。

「俺もここで死ぬだろうからさ、それで許してくれよ。まぁお前は生きられるだろうさ。なぁ柊、俺も助けてくれるよなぁ。なんでさぁ、こんなに分かり合えないのかね、蓮。」

「さぁ、分かり合えていたような気がしていただけで十分だったんじゃないかなぁ。僕はそう、ずっと隠していたよ。自分が人間で無いことを。まぁ人間でいたかったんだけれどね。人を殺してしまうのはもうしょうがないことなんだよ。
ねぇ、君は僕の苦労を何にも知らないだろうね。柊、僕は彼をとても恨んでいたよ。まぁ恨んでいなかったのかもしれない。全て気まぐれなのさ。誰も愛していないし、誰の気持ちも理解できない。この少年も駒のような存在だった。そうだなぁ、上部でしか生きられないんだよ。殺されたかった。僕が柊を殺したら、君が確実に殺してくれると思ったのさ。仇を討つの皆大好きだということを知っていたから、僕は君に殺して欲しかったんだよ。
もう、僕を自由にしてほしい。僕は人を殺さないと生きていけないんだよ。その人を殺さないと生きていけないシステムに嫌気が差したのさ。僕は生涯嫌われたままでいいさ。君のことも少しも好きじゃなかった。
悪役でいたい、悪役でいさせてくれ。

さぁ僕を殺すんだ。

そうだ一つ助言をしておくと少年は生きている。意外と自分に甘いみたいだね。全然自分を刺す気ないじゃないか、もしかして彼はおかしくなっていなかったのかい。凄いなぁ、騙されたよ。あはは、本当に面白いよ少年は。」

蓮は少し微笑んだ。もう何も悔いを残していなそうな表情をしていた。

「なぁ、蓮もう一度やり直さないか?お前はやっぱりいい奴だと思うからさ。俺は蓮のこと何も分かってやれなかった。別に人間で無くともやり直せると思わないか?」

「さぁ、僕は君と仲良くできる気がしないなぁ、僕は君が殺さないのなら、また何処か遠くに行ってしまうだろうね。そして君以外の他の誰かを殺したりするんじゃないかなぁ。」

僕は平然と起き上がり、蓮さんに向かって話し始めた。

「いいえ、貴方はここにいるべきです。蓮さん。貴方は柊さんを殺した。でも僕は貴方が悪い人だとは思わない。柊さんも多分そう言いたいでしょう。
貴方は何も囚われずに生きたかっただけでしょう。
そう、死んだからって、他の所に行って誰かを殺したって、上手くいくわけではないです。僕は貴方の味方ですから、ねっ、お茶ありますから飲みましょう。冷たいので問題ないですか?」

「あぁ、ありがとう、冷たいので大丈夫だよ。」

彼は少しお茶を飲んだ。

「君は本当にいい人間だね。君は本当に何にも囚われず、自由に歩んでいる。若いのによく考えているし、僕みたいな悪者も許してくれる。まぁだが、その優しさは仇となるだろうね。僕はすぐ消えるから何も叶いやしないさ。もう寿命なのさ。殺されても殺されなくても、僕が死ぬことには変わりなかったんだよ。君はいつも面白いね。その純粋さを忘れずに生きたまえ。お茶、ありがとう、美味しかったよ。」

蓮は砂になって地面に落ちた。お茶も砂になって消えた。

僕は自分用に買ったお茶を結構飲んだ。相当緊張していたみたいだった。手が震えている。

彼は最初から死ぬことを知っていたのかなぁ。

僕は彼に会えてよかったと感じる。彼はとても怖かったが、最期に少しでも話せたからよかった。しかし全く彼の過去を知ることができなかったなぁ。

柊さん!僕、柊さんのお陰で助かりました。
本当に命の恩人です。

王さんは砂になった蓮さんを眺めていた。そしてこう言った。

「蓮、また何処かで会えたらいいなぁ、そのときはこんな狂気な生物でないことを祈るが。この砂は湖に流そうか。それがいいだろう。蓮、ここは思い出の地だから安心するだろう。俺もお前の重荷背負って生きてくからさぁ。見ててくれよ。」

王さんは蓮さんの砂を湖に流した。僕はその様子を眺めていた。

「蓮さんまた何処かで会いましょう。そのときはまたお茶を奢ります。」

僕は王さんと別れて森を出て行くことにした。多分一生ここには訪れないと思うし、王さんにもそれを伝えた。「あぁ、それがいいと思う。」と賛成してくれた。僕は王さんのこれから歩んでいく人生は知らない。でも彼らから学んだことは人生の糧になるだろう、そう感じた。

僕は歩きながら、謎に満ちた彼女の存在について考えていた。何故あんなに詳しかったんだろう。そして何にも見ていないのに僕に助言をしてくれるんだ。あぁ、分かっていたのに、心のどこかでは分かっていたのに何故早く気付こうとしなかったのだろう。蓮さんの存在を見ているとスピリチュアルなことを信じないこの僕でも少し、いや結構意識せざるを得ない。
彼女は、彼は、、、柊さんだ。

僕は彼女が「現れる」といったきり現れないことに不満を覚えていた。「僕が生きて帰ってきたんだぞ、少し、少しでも一瞬でも来たらどうなんだ」と思った。
でもビル群には全く彼女はいなかった。どこにいるんだ。
分かっているだろうけれど、僕は自分勝手なんだ。少しでも自分の都合の良いようになれば良い、そう思っているんだ。
ははは、君が現れなかったらものすごく不満だよ。君が嘘をついたことになるからね。
家に近づくにつれ、僕はがっかりした気持ちになるんだよ。君が会いに来てくれなかったという事実を認識しなくてはならないからね。まぁ、君が来ないのは許せるんだけど。
僕は君に心のどこかで認めてほしいのさ。
生きていることを見せたいのさ、別に生きていることなんて知っているだろうけどさぁ。
だからがっかりさせないでほしい。会いにくればいい。

ふいに空を見たくなった。空はとても清々しいくらい青で、これは青というのか分からないけどさぁ、心が澄んだような気持ちになるんだよね。この青さは蓮さんがくれた食器の色と同じだなぁ、そう思った。食器の色と比べてみた。僕はまぁ、彼女のことどうでもよくなったのかというと、どうでもよくないんだけどさぁ。

家の前に誰かいるのが見えた、そうだろうなと少し嬉しくなった。少しじゃなかっただろうな、結構嬉しかっただろうなぁ。僕は。どうしてこんなにも嬉しくなるのかは分からなかったが、ものすごく幸せだったんだ。これくらいで幸せになれるんだから、僕は得な性格なんだろうな、そう心から思った。




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