小説2、  7

僕は家から離れて公園を歩きながら柊さんについて考えたんだ。

何故彼は死ななければならなかったのか。僕は彼の手記を読んでも、真実にたどり着けないような気がしていた。蓮さん貴方は何が目的なんだ。

僕は湖を眺めていた。とても澄んでいるなぁ。冷たい水を飲んでいた。
王さんは何故、長生きしたいんだろうな。それだったら、僕なんかの手伝いをしなくていいのに。長生きなんてできやしないよ。蓮さん、彼に取りつかれているようなものだからさ。

どうやって殺すんだろうなぁ、絞め殺すとか簡単にしそうで怖い。でも細身だから、力はなさそうだ。やはり毒を使うのかなぁ。まぁ、知らない方が楽しいだろう。僕は殺されたくないよ、本当に。

僕は仲間になってよかったのかと内心後悔していた。まず本当に信じてよい相手だったのか、考える時間を持たせるべきだった、そう思うんだ。
でも彼は間違ったことを言っていない。僕を例え利用していたとしても、何とかして引き止めて殺そうとしたとしても、僕はもう彼を信じてしまったのだから、そのときは死ぬしかなくないか。もうしょうがないじゃないか?そうだろうなぁ。

湖の水辺を眺めながら、そう水辺に映る自分に言い聞かせたんだ。

「随分と気合が入っているね。今日は何かあったのかい?」
後ろから話しかけられて、驚いてしまった。危うく落ちかけるところだった。

「後ろから話しかけないでください。湖に落ちかけました。」

「あぁ、ごめん、真剣だったから、気になってねぇ。」

僕は水をリュックに入れた。そして湖から離れた場所に来た。

「僕、気になってたんですけど、いつも何しているんですか?ここによく来ているんですけど、いないときはいなくて、僕が熱心に作業していると現れる。しかも決まった時間でない。」

「そうだなぁ。僕はいつも何をしているかというと、よく歴史の博物館みたいなのを見に行っているんだよ。僕はとてもこの国の歴史が好きでねぇ。あぁ、君これを見るかい?買ったんだよ。このお皿、見て、美しいんだ。光輝いているだろう。」

「うわぁ、きれいですね。こんなの見たことないや、澄んでいる、この湖のように。」

「確かにこの皿は湖の色に似ているね、湖そのものだ。あぁ、これ、よかったら、君にあげるよ。僕が持っていても宝の持ち腐れだからね。」

「いいんですか?貰っても、貴方が買いたくて、買ったんじゃないんですか。僕に易々と渡していいのですか?」

「あぁ、問題ないよ。君が大事に使ってくれるなら満足だよ。」

「毎日、ここにも来てるんですか?他の博物館に行かずに?」

「あぁ、来るよ。ここに来るのは昔の思い出が蘇るような気がしているからなんだよね。僕は古いものが好きだから、今じゃなく、時を経た時に感じる、鮮やかさ、楽しさ、虚しさを感じるのが好きなんだよ。」

「昔に何かあったんですか?」

「まぁ、あることはあるんだけれどね。友人が迷子になってここに入って来てしまったらしいんだ。そこで不思議な少年に出会ってねぇ。僕は彼に近寄らない方がいいと言ったんだけれどね、深くかかわってしまったのが、僕と彼の人生の分かれ目だったんじゃないかと考えているんだよ。僕はそうだなぁ。一思いに殺してみたくなったんだよ。」

「えっ、殺したんですか?その子を」

「いや、冗談だよ。君を少しばかり驚かせたいと思ってねぇ。君は怖気づいて逃げたい気分でいっぱいなんじゃないかなぁ。ねぇ、そうだろう?」

「いやぁ、冗談でも怖い話ですよ。怖気づいてはいないですけどね。」

「僕はとんでもない過ちを犯したんだよ。別に誰も殺してはいないけどね。そうだなぁ。僕は君のその手記が欲しいんだよ。破り捨てたくてしょうがない。でも君は簡単に渡してくれそうもないね。いい心構えだ。まぁ、いいさ。これから、渡してくれるようになるから。」

「僕は例え死んだとしても渡したくないですよ。この手記を。」

「面白い答えだねぇ。死んだら奪われるしかないのに、君は本ごと燃える気かい?」

「僕は死にたくないので本だけ炙ります。」

「それじゃどっちにしても好都合だね、証拠隠滅。」

「確かにそうですね。僕、結構おかしいこと言ってますね。」

「これも僕の冗談さ。本を破ってもさ、何にもならないよ。ただ、ゴミが増えるだけだ。」

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