短編 

ある人が少女と話をしていた。

「貴方は叔父様のことご存じなの」


少女は驚いたように言った。


「えぇ、知っていますよ。私の友人でしたからね。」

彼は顔色を変えず言った。

「そうなんですね。彼はとても優れた方だったと聞いています。父と母の顔もまともに覚えていないので、覚えていないのは当然ですね。」

彼女は残念そうな顔をした。

「幼い時から知り合いでした。内面は純粋であどけなくまさに貴女のようでした。彼が生きていたら彼の純粋さがすぐに分かったことでしょう。私が車をよく見ていなかったために彼が犠牲になり轢かれました。私は今も悔やんでおります。彼には成し遂げられることが沢山あっただろうと。」

「きっと、叔父様は悔やんでいないわ。貴方のような友人がいたんだもの。私も叔父様だったら、貴方を助けたでしょう。貴方は、どうしてここへ来たの?嫌でも叔父様のことを思い出しちゃうじゃない」

「そうですね。ここへ来たのはいわば罪の償いみたいなものです。友人が貴女を可愛がろうとした分、私が代わりに何かしてあげられればいいなと思いました。」

「私は貴方と叔父様の2人に育てて貰いたかったわ。色々と背負うものが多くて疲れてしまったの。こんなにも自分の家が重荷になると思わなかったわ。」

「私はその家のトップに立つかもしれなかった友人を殺してしまったようなものですから、一緒に…。」

少女のお世話係が彼の方に向かってきた。

「お前は重大な罪を犯した。あんなに素晴らしい方を殺すなどと。死刑同然だ。お嬢様、もうこんな者と関わるのはお止めになってください。今日も沢山予定が入っております。急ぎましょう。」

「分かりました。すぐに準備します。」

「まだ子どもなんだぞ。好きなように過ごさせるべきだろう。」

「それはお前自身の考えだ。お嬢様はもう子供ではない。立派な家の当主、一人前になって上に立って行かなければ。」

「それでも純粋な子どもなんだ。私の友人も穢れのない心を持っていた。しかしお前がそう、急かすから、非道な道を歩むことになってしまう。それでいいのか?未来は明るくない。」

「それは分からない。勉学に励んで得られないことはない。お嬢様は非道な道を進んでいるのでは無く、教養を身につけているのだ。」

「いや…「もう、止めて。私は二人に争いをしてと言った覚えは無いわ。無駄な争いは無駄な憎しみを生むもの。私は争いを生まない選択肢を選ぶのみよ。ありがとう貴方のお陰で叔父様の話が沢山聞けたわ。またいらしてくださいね。」

「ああ、また話すとしよう。」

「私はもう行かなくてはいけないわ、また会いましょう。」

彼女はお世話係と一緒に立ち去った。

彼女はやはり友人に似ていた。幼く子どものような一面を見せながら、家の後継ぎというプレッシャーに怯えていた。
彼は事故で亡くなって良かったのかもしれない。
もうプレッシャーを感じることもない。
でもそれがあったせいでまだ小さいあの子を犠牲にしてしまった。彼女が後継ぎとして家のプレッシャーと戦わなければならない。

せめて彼女を後継ぎとして育てず、普通の子として育てておけばよかったものを、あいつは冷酷な人として非道な道を歩かせようとする。
しかしそんなことをしても逆効果だと思う。

非道な人は人の気持ちを分かりやしないし、、世界の情勢を分かろうとしない。それゆえ自己中心的な発言をして世の中の敵となってしまうだろう。
敢えてその道を歩こうと言うのなら止めはしないが。
嫌々歩かされて、非道な人になると言うのなら、耐え難い。
彼や彼女の両親のためにも彼女の人生を変えなければ。

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