小説2、  6

「柊さんは当時若かったですよね」

「俺が20代だったから、柊は10代だっただろうな。10年ちょっと前になるのか、結構経ってしまったんだなぁ。
あぁ、そうだ。柊の墓を作ってあげないとなぁ。お前、俺と柊の墓づくり手伝ってくれるか?これでもさぁ、大事な友人だったんだよ。短かったけどな。」

「はい、是非手伝わせてください。」

僕たちは家から出て歩いていた。

「そうだなぁ、柊は本当に人になつかないような性格をしていたよ。人間でないと思っていた時もあったけどさぁ、死んだから人間だったんだよな。こんなところで独り暮らしていたんだよな。寂しかったろうな。」

「えぇ、そうかもしれませんけど、彼はここの生活に満足していたらしいですよ。手記に書いてありました。彼の生い立ちもまた不明ですが、何故こんなにも貴方の周りは不明なことばかりなんですか?」

「あまり話したがらなかったんだ。本当に何も話さなかった。蓮もそうなんだ。いつも助言はしてくれるものの、歴史が好きだったけどなぁ、それ以外は全く教えてくれなかった。蓮、もう一度会って話してみたいが、またかわされるのだろうな。俺はしょっちゅうこれをされるんだ。みんなそういうもんだよな。何も素性を明かさず、ニコニコしながら、時がある程度経つといなくなっちまう。何も俺に言いたくないんだろうな。そうじゃないか?」

「どうでしょうね。僕には分かりません。僕はある程度素性を明かす人間なので、明かさないと不自然で気持ちが悪いと思いますね。彼らは何か貴方に隠したかったんでしょう。殺されるのを分かっていたら、誰かに言うでしょう。僕はこんなに流暢に、話しては駄目なようなことを貴方に話していますけども、彼らは言わなかった。よほど心配をかけさせたくなかったんでしょうね。死ぬのは独りがいいとかそんな気持ちがあったんじゃないでしょうかね。」

「そうかもしれないな」と王さんは苦笑いをした。あまり嬉しくなさそうだ。

「貴方は蓮さんと同じくらい引き込まれる気がします。貴方は蓮さんと違って優しさにあふれていそうだ。」

「そうか、そんな率直に言われたことはあまりないから嬉しいよ。柊の墓は湖の近くがいいだろうか、それとも家の前がいいだろうか」

「湖の方が好きかもしれませんね。でもベンチの方は止めた方がいいと思います。なんとなく直感でそう思います。」

「彼は冷たいものが好きだったんだ。俺は冷たい物は飲めないが、温かい飲み物の方が体にいい気がするだろう。俺は少しばかり長生きしたいものだから。」

「あぁ、だから、柊さんが冷たい飲み物が好きだったから、自動販売機は冷たい物なんですね。」

「いや、俺が好きで水とお茶の冷たいものばかりにしているのさ。柊は冷たい水の方がいいだろうな、お茶を飲んでいる姿はあまり見ていないような気がする。」

自動販売機で水を数本買って、湖の近くの柊さんの墓に置いた。

「水と木の端くれで許してくれるんですかね。」

「あまり豪華にすると逆に怒られる気がするよ。」

「柊さん、僕を守ってください。」
僕は座って祈ってみた。

「柊、安らかに眠れよ。」
王さんも祈っていた。

そして僕はいつもの所に戻ることにした。

「今日はありがとうございました。僕は沢山の情報を得ることができました。そうですね、蓮さんに出会うときは気を付けてくださいね。」

「こんなに近くにいて会わないってことは蓮は俺がここにいること知ってここを訪れているってことだろう。多分俺には会いたくないだろうさ。なぁ、お前、またここに来てくれるか?何か分かったらすぐに教えてほしいんだ。もしかしたら、助けられるかもしれないから。」

「そうですね、最近毎日ここに来てますから、会いたければ会いにいきますよ、きっと。
僕は蓮さんと手を組んだんです。昨日の話ですが、彼にも僕にも良い条件ですから、吞みました。それで死は免れるのだと勝手に思っているのですが、それが万が一嘘だった場合、僕は死にます。確実に。その時に、貴方が僕を助けることはできなくとも、蓮さんを殺してください。僕は死んでいると思いますが。」

「あぁ、やってみるが、あれでも俺の尊敬する人だからな。殺すのを躊躇っちまうかもしれない。」

「いいんですよ、一人でも多くいれば心強い、そういうことです。」


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