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【前編】この期に及んで「処理水」を「汚染水」と言ってしまう人たちの「立場」とは?

【前編】原発事故「風評問題」の本質

※オリジナルは2023年8月11日掲載

林 智裕(フリーランスライター)

かねてより検討されてきたALPS処理水(以下処理水)の放出時期が、今月下旬~来月前半となる見通しと報じられた。

当然ながら、これによって海が新たに汚染されることは無い。7月には国際原子力機関(IAEA)のグロッシ事務局長が来日して海洋放出の安全性と妥当性を改めて強調した。5月に広島で行われた先進国首脳会議(G7)では、各国首脳も海洋放出の支持を表明している。社会への周知も進み、各社世論調査(※)では福島県も含めて賛成が反対を大きく上回る(※朝日時事産経)。

その上でなお、地元では「風評」「偏見差別」が未だ大きく懸念されている(参照:開沼博氏)。


福島原発の処理水タンク(資源エネルギー庁サイトより引用=撮影:東京電力HD)

事実や科学より優先される「立場」

ところが、未だに処理水を「汚染水」などと呼び反対する動きは絶えない。
その理由は明確だ。今や東電原発事故に関連する風評問題の本質は「情報発信の不足」どころか、そもそも事実関係の正誤や科学ですらない。その実態は、生々しい「利害関係」にあるからだ。

事実、特にこの問題を巡っては、さまざまな「立場」「陣営」が浮き彫りにされている。たとえば国際関係を見ると、世界の大多数は処理水海洋放出に支持や理解を示す。処理水に科学的な汚染が無い以上、当然の反応と言えるだろう。

その一方で、中国、ロシア、北朝鮮とそれらの影響下にある勢力のみが強硬に反対する。

警察白書には、かねてより『北朝鮮、中国及びロシアは、様々な形で対日有害活動を行っており、警察では、平素からその動向を注視し、情報収集・分析等を行っている』と記されている。

今年3月には、北朝鮮が韓国国内で福島や処理水に対するデマの喧伝などの情報工作を行っていた実態が韓国公安の調査で明らかにされた(参照:朝鮮日報)。非科学的な「汚染」呼ばわりの言いがかりと喧伝は、利害関係に基づいた対日有害活動の一環と見做すべきだろう。

そうした中で、本来ならば利害関係によらない、事実や科学に公正な視点から福島に関する流言や偏見差別を抑制すべき「立場」にあるはずの専門家や著名人が、全く別の「立場」に立ったケースも無数にある。

それは、たとえば世界的に有名かつ伝統ある科学誌「サイエンス」誌にさえ及ぶ。
同誌は今年1月、論説で処理水に対し「東京電力のデータは不十分」「限られた放射性核種しか測定していないので、そのほかに何が入っているか分からない」「飲料水の基準を下回るトリチウムであっても海水の自然レベルの数千倍であり、トリチウムが海洋生物に蓄積し、魚や人間に影響を及ぼす」などと主張した。

詳細は『科学誌『サイエンス』が非科学的な「処理水」記事を出した背景(Wedge ONLINE:唐木英明)』で批判・検証されているが、実際には東電が公開するデータや信憑性は裏付けられている。「そのほかに何が入っているか判らない」「トリチウムが生物に蓄積し、魚や人間に影響を及ぼす」に至っては悪質なフェイクニュースだ。

問題の論説を書いたデニス・ノーミル氏はサイエンス誌の上海寄稿特派員という「立場」にある。

「利益相反」の構図も

さらに、この記事を2023年1月28日に信州大学の茅野恒秀准教授がツイッター上で共有して「Despite opposition, Japan may soon dump Fukushima wastewater into the Pacific」とツイートした。

グーグルニュースの検索でも明らかなように、茅野准教授はこれまで原子力市民委員会委員という「立場」から原発事故に関連する発信を繰り返し、様々な報道でも専門家としてコメントしてきた。

ところが、茅野准教授に「サイエンス」記事の科学的誤りを指摘した上でツイッター発信の意図を問い合わせても返事は無かった。そればかりか、その日のうちに無言のままツイッターアカウントそのものまで削除してしまった。

茅野准教授は処理水の他、除染等の措置に伴い生じた土壌等の減容化と再生利用をすすめる環境省の実証事業についても強硬に反対してきた。処理水海洋放出後は、この処理土が多くの活動家から次の「風評加害」ターゲットにされる可能性が高い。すでに昨年末には、処理水の「汚染」呼ばわりを繰り返してきた社民党や共産党らが新宿と所沢で処理土の「汚染土」呼ばわりと共に反対運動を展開している(参照拙稿:福島第一原発「除去土壌」への恐怖感 所沢市で再び……)。

茅野准教授は処理土の基準について「(政府は)年1ミリシーベルトを満たせばよいと勝手にルールを変えてしまったのです」と言うが(出典:朝日新聞東京新聞)、実証実験で用意する土壌を利用しても健康被害リスクに繋がらないことは科学的に明らかな事実だ。しかも、土壌はすでに首相官邸や各省庁、自民党本部などでの先行利用実績が多数あり、当然ながら何ら問題も出ていない。

さらに、同氏は「土壌の最終処分や再生利用については国の言ってるスピードでは国民の理解は得られないし、国のガイドラインを待っている状況ではもう10年、同じ状況が続く可能性もある」「そこに住み続ける住民の皆さんが一方的に被害者として問題が先送りされていく」などと主張する一方で、別の報道では「信州大の茅野恒秀准教授(環境社会学)は「国民から広く合意を取ることは難しく、実証事業も行き場がないのが実情だ」と語る」とも報じられている。

つまり、「合意形成できないのに進めようとするのは欺瞞」という論理を使う一方で、処理土には何ら健康リスクが無く安全であることへの積極的な言及が無い。むしろ反対運動の集会で演説するなど、合意形成を積極的に妨害しているようにさえ見受けられる。

この構図は、研究者として自らの権威・影響力のある「立場」を利用して自発的・継続的に政治的発信をしながら、その内容が自らの研究結果・主張・所属団体を利することに直接的に繋げ、それをもって研究成果や社会活動の実績とし、研究費等を獲得し利用する「利益相反」の問題にならないのだろうか。

正確な情報の周知・伝達への根強い抵抗

最近のTwitterはより不健全な気がする。50年後の人たち、検証してね。
例えば、汚染水・処理水問題も、政府が「処理水と呼ぶ」と決めたことに人や社会がならうこと、これを「言論」や「表現」の自由の問題、あるいは戦前・戦中の事例を引っ張って比較して、検証してください。(やりたい時間欲しい)

7月20日、日本ペンクラブ理事であり、『ルポ母子避難 消されゆく原発事故被害者』(岩波新書 2016.2)『その後の福島 原発事故後を生きる人々』(人文書院, 2018.9)などを執筆、2020年には『孤塁 双葉郡消防士たちの3・11』で講談社ノンフィクション賞を受賞した吉田千亜氏はこのように語った。

しかし前述したように、「汚染水」と「処理水」は同じものを呼び替えているのではない。全くの別物である。事実無根の「汚染水が海洋放出される」に類似した戦前の事例を出すならば、同じく事実無根の「水源に毒」を喧伝した関東大震災時の「外国人が井戸に毒を入れた」流言飛語が該当する。事実、処理水への「井戸に毒」は韓国最大野党「共に民主党」の李在明党首も発言している(参照:デイリー新潮)。

吉田氏の発信は126.5万回の表示に対し、416の引用、さらに無数の返信が付き(2023年7月31日現在)、そのほとんどが批判的内容であった。「汚染水」と「処理水」の混同に注意を促すコミュニティノートまで付いた。しかし、吉田氏からは何の訂正も反論も無い。吉田氏には、どのような「立場」があるのだろうか。

「立場」に拘泥され、正確な情報に“抵抗”する人たちはまだいる。(後編へ続く

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