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『コンカフェ嬢は今日も悩む』企画書

・キャッチコピー
無銭オタクのくせに簡単に”推し”なんて言うな

・あらすじ
コンセプトカフェで働くクルミ(21)はコンカフェ嬢を続けるか辞めるか悩んでいた。
お客様やオーナー、キャストとの付き合い方で悩んだり、「推される」ことに不安を覚えたり、年齢を考えいつまで続けられるかなど、日々悩みの種は尽きない。コンカフェ嬢を続けるうえで様々な人に出会い、少しずつ悩みを解決していく。
3度目のバースデーイベントを終えた後、達成感に包まれ辞めることを決意。「人を楽しませる」ことが好きだと改めて気づかされたクルミは、コンセプトカフェを辞め、テーマパークで働き始めるのだった。

・第1話のストーリー
コンカフェ嬢ってお金にならない。フリーターでコンカフェ嬢のクルミは銀行の残高を見ながらそんなことを思っていた。
クルミが働くコンセプトカフェは『ローズガーデン』というメイドカフェで池袋で8年の歴史を誇る”老舗”と呼ばれるコンカフェだ。時給は1200円、バック率は10~15%(月の売り上げにより変動)というこの業界にしては高くない数値だった。それでもクルミがローズガーデンにこだわる理由はキャスト同士の仲が良いからだった。
クルミはこの日もローズガーデンに出勤する。制服に着替え開店前ミーティングで、店長・ウタが「今日もよろしくお願いします、せーの」と掛け声を言うと続いてキャスト達は「えいえいおー!」とお決まりのあいさつで開店した。お客様が来店すると「お屋敷へようこそ!」これがこの店の挨拶だった。お屋敷で開かれる茶会に招待されたお客様をおもてなしするというのがローズガーデンのコンセプトだ。
常連客の鳩山はウタを推している陽気な40代くらいの男で、席に着くやいなや「ウタちゃんにドリンク、チェキも入れといて!」と、声をかけた。そのころクルミはキッチンでティーカップの茶渋を落としていた。ローズガーデンには内勤がいないため、キャストが店舗にかかわるすべての業務を分担しておこなっている。そのため客数が少ない時間帯は掃除や発注などをしている。
水を止めると、ホールから鳩山とウタの声が聞こえた。「それは無理って言ったでしょ」「俺とウタちゃんの付き合いじゃんか」クルミが二人の間に割って入ると「クルミちゃんからもお願いしてよぉ」と鳩山が言う。どうやら、イベントで5万円以上のシャンパンにつけていた特典を2万円のシャンパンにつけてほしい、というものだった。「オーナーに怒られちゃうから、してあげたくてもできないんだ、ごめんね」というと鳩山は引き下がった。
営業後はキャストだけで愚痴大会になる。「てか、あの時の鳩山マジで腹立ちましたね」「”推し”っていうなら、愛情はお金で示してほしいわ~」クルミはこの時間が好きだった。「クルミちゃん、さっきはありがとね」「ウタさんのためならこれくらい」「”ウタさん”じゃなくて”ウタちゃん”でしょ!」ウタに突っ込まれ少し照れるクルミ。クルミがローズガーデンで働き続ける理由には特に、ウタへの憧れだけではない気持ちがあった。

・第2話以降のストーリー(3,000字まで)

クルミはもともとコンカフェに通うお客さん側だった。高校の授業をさぼってメイドカフェに遊びに行ったことがきっかけだった。もともとロリィタファッションや可愛いものへの憧れがありつつも可愛くない自分には似合わないと遠ざけていた。クルミにとって容姿はコンプレックスであったが、いつかコンカフェで働きたいと、スキンケアやメイク、ヘアアレンジを勉強して可愛くなる努力をした。
専門学校に入学すると同時にローズガーデンの面接を受けた。その面接でオーナーの隣にいたのがウタだった。可愛らしく微笑む彼女はクルミの思い描く”理想のメイドさん”そのものだった。後日、知ることになるがオーナーはクルミのことを「可愛くない」という理由で落とそうとしていたが、ウタがそれを「磨けば光ります」と、止めてくれたらしい。その話を知ったのはクルミが働き始めて半年がすぎたころ酔ったオーナーにその話をされたからだ。

オーナーは56歳の男性で雨の日でもサングラスをかけていることが特徴だ。基本的にはいい人だが、何事も気分で決めるところがある。クルミが副店長になったのも、酔ったオーナーが突然営業中にお客様の前で発表してしまったからだった。ウタやクルミをはじめ、キャスト達は常にこのオーナーに振り回されている。中にはオーナーとぶつかり勢いでローズガーデンを辞めたキャストもいたほどだった。
クルミがローズガーデンをやめないのは、ウタのことが心配だからだ。ウタがオーナーに理不尽に怒られ、涙を流している現場をクルミだけが何度も見ていた。ウタはその度に「私がちゃんとできないから迷惑かけてごめんね」とクルミに謝るのだ。クルミはオーナーに反論したことが何度かあった。しかし、毎回論点をずらされ終わる。次第にクルミはオーナーから避けられるようになった。そうして、怒りの矛先が反論しないウタにだけ向くようになったのだ。オーナーを毛嫌いするクルミはウタに独立しないのかと聞いたことがあるが、「私にできるはずない」と、否定されて終わった。

ウタは今年でコンカフェ嬢歴10年目になる。20歳でコンカフェ嬢になり、ローズガーデン以外にも様々なコンカフェを経験してきた。年齢は非公表だが、今年で31歳になる。周りの友人の結婚や出産の報告を聞くたびにいつまでこの仕事を続けようか悩んでいる。かといってコンカフェ以外の仕事を経験したこともないため、退職後のことを考えると続けることが最善の選択のような気もしていた。しかし、雇用形態がアルバイトであることもあり、自分で起業し店を出すことも考えていたが、今まで雇われ店長として働いてきた自分が一人でお店を出すなんてできるのか、貯金もそれほどない中、新しい環境にとびこめるのかなど、迷っていた。
クルミはお酒を飲むことが好きだった。コンカフェ遊びをしているうちに常連同士でスナックやバーに連れて行ってもらっていたからだ。ローズガーデンで働き始めてからもよく一人で朝まで飲みに出かけていた。ある日、クルミの行きつけのスナックのママが常連さんと一緒にローズガーデンに遊びに来てくれた。ウタはスナックのママや常連さんと会話する中で、お客様と支えあって店を作っていくことを知り、自分のお店への理想像をつかむ。ぼんやりとしていた独立の夢が少しだけ見え始めたのだった。

クルミには付き合って一年になる年上の彼氏がいた。会社勤でクルミよりも10歳上の男性で、バーで知り合いナンパされ仲良くなり1年前に付き合い始めた。彼氏のことはお客様には内緒にしている。彼氏はクルミがコンカフェ嬢として働いていることを知っていて、自分のほうが稼いでいるからと、デート代などすべてを出してくれていた。クルミはそのことに感謝はしていたものの時折、劣等感に駆られていた。彼氏はクルミのことを10歳も下でかわいい女の子と付き合えるなんて、と話していたがクルミにとってはプレッシャーだった。自分よりも若くてかわいい子が現れたら、その子に目移りしてしまうんじゃないか。その悩みはコンカフェで働いている時も同じだった。自分を推してくれているお客様たちも、私よりも若くてかわいい子が出てきたら推し変してしまうのではないだろうか。コンカフェ嬢は自分自身が商品でもある。人に対して使うべき言葉ではないとは思うが、コンカフェ嬢には消費期限がある。もちろん、トーク力や一芸だったり、癒しのオーラなどがウリの「長く愛されるキャラ」の子も多いが、初々しさや容姿で売っているキャストは期限が早い。クルミは自分の商品価値がどこにあるか分からずにいたが、長く愛されるタイプではないと思っていた。
クルミはある時、彼氏に別れを切り出された。スマホの画面に写る淡白な一文のメッセージにクルミは涙をこらえながら返信する。「そうだね、そうしよう」精一杯の強がりだった。彼氏の言動に前兆があったのだ。彼のSNSに最近よくコメントをつけている女性のアカウントがあった。気になり、その子のページを開いてみると、20歳になったばかりの女の子だった。アイコンの顔写真に見覚えがあった。クルミとその彼が出会ったバーで最近見かける女の子だ。確信はないが、クルミは悲しみよりも呆れてしまった。
こんな日でもローズガーデンに出勤しなければいけない。クルミを推してくれているお客様が「元気なさそうだね」と心配した様子で声をかけた。クルミは平静を装いつつ、「どうして私を推してくれるの?」と尋ねた。お客様は「クルミちゃんは可愛くて、話していて楽しいし…それから、心地いい空気を作ってくれる」「心地いい空気?」
「クルミちゃんは周りをよく見ていて、誰かが暇そうにしていると声をかけてくれたり、注文しようかなと思っていると聞きに来てくれる。何気ないことだけど、難しいことだよ。そういうところが好きなんだよね。」
クルミは自分をきちんと見てくれている人がいたことがうれしかった。もしも推し変されたとしても、この言葉を思い出せば受け入れることができそうだ、とクルミは思った。辛いときに寄り添ってくれるお客様がいることをクルミは誇りに思った。

よく知らない男性が言う「俺が若い女ならコンカフェやキャバクラで楽に稼ぐのに」彼らが言う程この業界は楽ではない。だが、辛いばかりでもない。
劣等感にさいなまれたり生き方に悩んだり、時には喜びを分かち合いながら、今日もローズガーデンは開店する。
これはクルミが辛くも楽しいコンカフェ嬢を辞めるまでの物語。
コンカフェ嬢は今日も悩む。

#週刊少年マガジン原作大賞 #企画書部門

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